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 「誰も読まなかったコペルニクス」 オーウェン・ギンガリッチ (アメリカ)  <早川書房 単行本> 【Amazon】
科学史家ギンガリッチは、天文学に歴史的な転機をもたらしながらも、「実際は誰も読まなかった、史上最悪のワーストセラー」と呼ばれたコペルニクスの著書『回転について』の世界中に分散する、現存する約600冊について調べることにした。
にえ ノンフィクションものです。著者のオーウェン・ギンガリッチは、1930年生まれでスミソニアン天文台名誉教授、ハーバード大学天文学史教授というバリバリの学者さん。
すみ その学者さんが、世界中に分散するコペルニクスの著書「回転について」を調べてまわるって話なのよね。
にえ 昔の本だから、製本がそれぞれ違ったりするそうなんだけど、それにしたって同じ本をなんでたくさん調べてまわる必要があるのかと、最初は不思議に思った。
すみ うんうん、じつは一番知りたいのが、本の持ち主の書き込みなんだよね。
にえ 「回転について」は太陽が動いてるんじゃなく、地球が太陽のまわりを回ってるんだという現代の天文学の礎となった説が書かれた、当時としてはまさに衝撃の書。
すみ とはいえ、書かれた内容があまりにも難しくて、買ってもちゃんと最初から最後まで読んだ人は、ほとんどいないって言われてるのよね。
にえ 現存する「回転について」はこの図書館に2冊の蔵書、あのオークションで1冊出品、と世界中に分散して、初版と第二版を合わせて約600冊。当時としてはかなり高価な本だから、残ってる冊数はわりとあるほうだけど、この本をちゃんと読んで、書き込みまでしている人は両手で数えられるってレベル。
すみ 素人の天文学好きなんてレベルじゃ、とても最後まで理解して読み通すことはできない代物だったみたいね。だから、書き込みをしているのはみんな最高レベルの学者たち。
にえ つまり、その書き込みを調べていけば、「回転について」が学者たちに与えた影響、その他もろもろ、地球が太陽を回っているということがわかった重要な転機からの天文学史が見えてくるってことよね。
すみ それにしても、書き込みって……と思ったけど、昔は紙が貴重だったためか、本を読んでノートにメモを取ったりするってことはなかったみたいで、感想から、反論を伴う自説まで、なにもかもその本に直接書いちゃうってことが多かったみたいね。
にえ この本には写真がたくさん掲載されてるから、実際の書き込みがどんなものだったか見ることが出来るけど、ホントにビックリするぐらいビッシリ書いてたりするよね。
すみ 人から人の手に渡ることによって、二人の著名な書き込みがあったりもするしね。あと、製本をし直してて、他の重要な冊子が混じって入っていたり。
にえ 「回転について」の書き込みを調べていくだけで、コペルニクスが真円だとした地球の軌道を、だれが楕円だと修正したのかとか、そういう重要なことまでわかっていくのよね。だれが最初に気づいて、それを利用してだれが著書に記したとか。
すみ あと、著作がないために現代ではほぼ忘れられてしまっている、当時の天文学に重要な影響を与えた学者も浮かび上がってくるよね。そういう人ってたくさんいるんだろうなとあらためて思った。
にえ 正直言って、私は天文学ってこれまでほとんど興味がなかったから、130ページぐらいまでだったかな、それくらいまではこの本、ほとんどおもしろくなくて、読むのやめたいな〜と思ってたの。でも、そこを過ぎたあたりから、あ、これは天文学ウンヌン以前に、壮大な冒険の物語だって気づいて、そこから急におもしろくなった。
すみ まさに冒険だよね。調査当時には越えられない壁かと思われた、社会主義圏にも突入し、その時々の限られた日数で飛びまわり。いろいろなチャンスがあり、出会いがあり。
にえ 旅のお供が豪華だったりするよね。あのイームズチェアーで有名なイームズがカメラマンとしてついてきたり。
すみ でもさあ、調べていくうちにわかってくる天文学史はさらにドラマチックかもね。学者どうしの師弟関係あり、対立があり、裏切りや寝返りがあり、剽窃の疑いあり、と、個人個人の研究より、人間関係の複雑さのほうがおもしろくなってくる。
にえ やっぱり学者どうしって、良き協力者ともなるし、どっちが先に定説となるようなものを発表するかってライバルともなるし、批判し合うことにもなるわけだから、なかなかスゴイ人間関係よね。
すみ 肝心のコペルニクスについては、ほとんどわかってないみたいね。私的なことを書いた手紙も残ってないみたいで、人となりもなにも、ほとんどまったくわかってないみたい。
にえ そのせいか、どうしてもおもしろくなってくるのは、その後の学者のブラーエとか、そのあたりの人間関係だったりするよね。
すみ 私たちは天文学がわからないのがちょっとネックになっちゃったけど、天文学の歴史にちょっとでも興味や知識があれば、かなりおもしろいんじゃないかな、この本は。そのうえ古書にも興味があったら、ドキドキもののワクワクものでスンゴイ楽しめると思う。そういう方はぜひっ。