すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「女の顔を覆え」 P・D・ジェイムズ (イギリス)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
マーティンゲール邸に、父親のわからない子どもを持つ、サリーという若いメイドが勤めることになった。 サリーは賢く、働きものだったが、どこか言動にわざとらしさが漂っていた。だが、ロンドンの病院で働く マーティンゲール邸の跡取り息子スティーヴンの眼に、サリーは正直で優しい女性に映っていた。 マーティンゲール邸で行われた園遊会の最中、サリーにプロポーズしたスティーヴンだったが、翌朝、絞殺死体となったサリーが発見された。
にえ これがP・D・ジェイムズのデビュー作なんだよね。
すみ だから当然、ダルグリッシュ警部初登場ってことよね。前に 読んだ『ナイチンゲールの屍衣』と微妙な違いがあったような・・・。
にえ ダルグリッシュ警部が詩人でもあるってことにはまったく 触れられてなかったよね。
すみ つまり、詩人って設定は、あとづけだったってこと? あ とさあ、ダルグリッシュ警部が最後にキレ気味だったよね。『ナイチンゲールの屍衣』やチラッと出てきた 『女には向かない職業』のときには、もっと感情を押さえてたような。
にえ その辺も比べていくとまたおもしろいよね。
すみ ただ、この本ではダルグリッシュ警部の登場は、極力押さえ ぎみだったよね。なるべく他の登場人物の口から、捜査の流れが語られるような手法になってた。
にえ どっちにしても、読んでて興味深いのは、犯人が誰かって ことより、この殺されたサリーって女性の性格だよね。
すみ またまた、わかる〜、こういう女っている〜って人だったよね。 いい子ぶってるけど計算づくで、腹立たしいことに女どうしだとすぐ気づくのに、男は「いい子じゃないか、 もっと優しくしてあげなよ」な〜んて言うのよね。
にえ そうそう、おまけに自分に注目が集まってないときがすまなく て、まわりを振り回して楽しんでるの。で、本人は涼しい顔してる。いるよね、こういう女。
すみ 男と、年上の女に強いのよね、こういう媚び上手は。
にえ でもさ、こういう女って、身近にいると嫌いって思うけど、 どっか嫌いにもなりきれなくて、目が離せなかったりもするのよね〜。
すみ あとさ、サリーのメイドの先輩で、けっこういい歳したマーサ、 この人もいるいるって感じしたよね。愚鈍な正直者のようで、けっこうセコイこと陰でやってたりするの。
にえ 看護婦のキャサリンもね。有能で常に冷静、いて助かるんだけ ど、なんとなくうざったい存在で、いなくなるとまわりがホッとするような女。
すみ ほんと、P・D・ジェイムズは、こういうどこかで見たような 女とか、女どうしの微妙な感情の摩擦とか、書くのが巧いよね。くすぐられちゃう。
にえ またかよって言われそうだけど、私はどうしてもレンデルと 比較しちゃうのね、そうすると、この作家のおもしろさが見えてくる。
すみ ああ、レンデルって言ってもウェクスフォードシリーズじゃな くて、ノンシリーズとか、バーバラ・ヴァイン名義の方でしょ。
にえ そう、そのへんのレンデルの作品って、登場人物にめいっぱい 感情移入して、苦しさとか哀れさを共感しまくるとおもしろいけど、共感しそこなうと、なんかあんまり おもしろくなかったって評価になっちゃうでしょ。
すみ そこがどの作品も評価の分かれちゃう要因なのよね。だれかが 誉めてても、かならずだれかが貶してる。
にえ P・D・ジェイムズだとね、感情移入しなくて、一歩引いた感じ で読んじゃうの。う〜、わかる、わかる、こういう女っている〜とか、ああ、そういうことってある〜みたい な。そういうおもしろさがあるよね。
すみ そうだね、あんまりだれか一人に感情移入しちゃうってことは ないよね。全員の気持ちがなんとなくわかるんだけど、そういう人たちが織りなす人間関係の全体像がおも しろいのよね。
にえ 一人の人物を正確に緻密に、これでもかと描写してある絵と、 大勢の人物を上手な構図で一枚の絵に巧みに描いている絵と、どっちの絵もすばらしい、比べられないよ ってそんな感じかな〜。
すみ あ、でも私、この本では、スティーヴンと妹との会話で、 妹が「なんでお兄さんはあの女が正しくて、私たちがだめだって決めつけるのよ。でもどうせ、男にこんな こと言ってもわかんないから言わないっ」みたいなこと思うシーンがあったでしょ、あそこはめいっぱい妹 に感情移入して、一緒にキ〜ってなっちゃったよ(笑)
にえ あら、やだ。そこで「ふふん、男ってオバカね」なんて余裕ぶっこ かないと、大人の女とはいえないのよん。
すみ まあ、そんなこんなで、またまた楽しませていただきました(笑)