=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「女の顔を覆え」 P・D・ジェイムズ (イギリス)
<早川書房 文庫本> 【Amazon】
マーティンゲール邸に、父親のわからない子どもを持つ、サリーという若いメイドが勤めることになった。 サリーは賢く、働きものだったが、どこか言動にわざとらしさが漂っていた。だが、ロンドンの病院で働く マーティンゲール邸の跡取り息子スティーヴンの眼に、サリーは正直で優しい女性に映っていた。 マーティンゲール邸で行われた園遊会の最中、サリーにプロポーズしたスティーヴンだったが、翌朝、絞殺死体となったサリーが発見された。 | |
これがP・D・ジェイムズのデビュー作なんだよね。 | |
だから当然、ダルグリッシュ警部初登場ってことよね。前に 読んだ『ナイチンゲールの屍衣』と微妙な違いがあったような・・・。 | |
ダルグリッシュ警部が詩人でもあるってことにはまったく 触れられてなかったよね。 | |
つまり、詩人って設定は、あとづけだったってこと? あ とさあ、ダルグリッシュ警部が最後にキレ気味だったよね。『ナイチンゲールの屍衣』やチラッと出てきた 『女には向かない職業』のときには、もっと感情を押さえてたような。 | |
その辺も比べていくとまたおもしろいよね。 | |
ただ、この本ではダルグリッシュ警部の登場は、極力押さえ ぎみだったよね。なるべく他の登場人物の口から、捜査の流れが語られるような手法になってた。 | |
どっちにしても、読んでて興味深いのは、犯人が誰かって ことより、この殺されたサリーって女性の性格だよね。 | |
またまた、わかる〜、こういう女っている〜って人だったよね。 いい子ぶってるけど計算づくで、腹立たしいことに女どうしだとすぐ気づくのに、男は「いい子じゃないか、 もっと優しくしてあげなよ」な〜んて言うのよね。 | |
そうそう、おまけに自分に注目が集まってないときがすまなく て、まわりを振り回して楽しんでるの。で、本人は涼しい顔してる。いるよね、こういう女。 | |
男と、年上の女に強いのよね、こういう媚び上手は。 | |
でもさ、こういう女って、身近にいると嫌いって思うけど、 どっか嫌いにもなりきれなくて、目が離せなかったりもするのよね〜。 | |
あとさ、サリーのメイドの先輩で、けっこういい歳したマーサ、 この人もいるいるって感じしたよね。愚鈍な正直者のようで、けっこうセコイこと陰でやってたりするの。 | |
看護婦のキャサリンもね。有能で常に冷静、いて助かるんだけ ど、なんとなくうざったい存在で、いなくなるとまわりがホッとするような女。 | |
ほんと、P・D・ジェイムズは、こういうどこかで見たような 女とか、女どうしの微妙な感情の摩擦とか、書くのが巧いよね。くすぐられちゃう。 | |
またかよって言われそうだけど、私はどうしてもレンデルと 比較しちゃうのね、そうすると、この作家のおもしろさが見えてくる。 | |
ああ、レンデルって言ってもウェクスフォードシリーズじゃな くて、ノンシリーズとか、バーバラ・ヴァイン名義の方でしょ。 | |
そう、そのへんのレンデルの作品って、登場人物にめいっぱい 感情移入して、苦しさとか哀れさを共感しまくるとおもしろいけど、共感しそこなうと、なんかあんまり おもしろくなかったって評価になっちゃうでしょ。 | |
そこがどの作品も評価の分かれちゃう要因なのよね。だれかが 誉めてても、かならずだれかが貶してる。 | |
P・D・ジェイムズだとね、感情移入しなくて、一歩引いた感じ で読んじゃうの。う〜、わかる、わかる、こういう女っている〜とか、ああ、そういうことってある〜みたい な。そういうおもしろさがあるよね。 | |
そうだね、あんまりだれか一人に感情移入しちゃうってことは ないよね。全員の気持ちがなんとなくわかるんだけど、そういう人たちが織りなす人間関係の全体像がおも しろいのよね。 | |
一人の人物を正確に緻密に、これでもかと描写してある絵と、 大勢の人物を上手な構図で一枚の絵に巧みに描いている絵と、どっちの絵もすばらしい、比べられないよ ってそんな感じかな〜。 | |
あ、でも私、この本では、スティーヴンと妹との会話で、 妹が「なんでお兄さんはあの女が正しくて、私たちがだめだって決めつけるのよ。でもどうせ、男にこんな こと言ってもわかんないから言わないっ」みたいなこと思うシーンがあったでしょ、あそこはめいっぱい妹 に感情移入して、一緒にキ〜ってなっちゃったよ(笑) | |
あら、やだ。そこで「ふふん、男ってオバカね」なんて余裕ぶっこ かないと、大人の女とはいえないのよん。 | |
まあ、そんなこんなで、またまた楽しませていただきました(笑) | |