すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「フリーキー・グリーンアイ」 ジョイス・キャロル・オーツ (アメリカ)  <ソニーマガジンズ 単行本> 【Amazon】
14才のフランチェスカ・ピアソンのなかにはフリーキー・グリーンアイというもう一人の自分がいる。少しだけ臆病なフランチェスカのなかの大胆なフリーキー・グリーンアイ。フランチェスカの父親レイド・ピアソンは元アメフトの花形選手、今はスポーツキャスターとなって、テレビの人気者だった。家はシアトルの一等地にあるポストモダンの大邸宅で、フランチェスカの母クリスタも、フランチェスカも妹のサマンサも、今は家を出て大学でフットボールに励む兄のトッドも、何不自由ない生活をしていた。しかし、母はしだいに家を離れるようになり、父の苛立ちは増していく。
にえ 紹介文にかならず「ノーベル文学賞候補」とつくジョイス・キャロル・オーツの、これはYA本です。
すみ YA本とはいえ、かなりハードな内容で、ずっと前に読んだ「フォックスファイア」と比べても負けず劣らずだったけどね。
にえ それにしても、「ノーベル文学賞候補」ってなんなんだろうね。毎年、世界中からいろんな作家推薦されるわけでしょ。で、まさかその中の一人ってだけで「ノーベル文学賞候補」ってつけられるわけないから、5人ぐらいにしぼられた最終選考の中にいたってことなのかなあ。
すみ さあ。そういう選考過程って公表されているのかなあ。でも、公表されていないなら、「ノーベル文学賞候補」の情報源がなんなのか。まさか単なる噂ってことはないよねえ。
にえ あ、わかった。あれじゃないの、受賞の電話連絡が行くかもしれないから、何月何日の何時頃には連絡がつくようにしてほしいとか、事前に連絡があるんじゃないの。
すみ そっか。でも、もしそうだとしても、それって毎年、何人ぐらいの人に連絡が行くんだろうね。「ノーベル文学賞候補」的な紹介のされ方をしている作家は他にも大勢いるけど、それにどれだけの価値があるのか気になるよね。だれか知ってたら教えてほしい。ちなみにジョイス・キャロル・オーツは何度も「ノーベル文学賞候補」になっているらしいんだけど。
にえ 「次のノーベル文学賞作家と噂される」とかってなると、もうどういうレベルか把握のしようもないよね(笑) ファンが勝手に言ってるだけなのか、選考委員が「そろそろ彼(彼女)でいいんじゃないか」と言っているのか、それでぜんぜん違ってくると思うけど。
すみ まあ、一つだけたしかなのは、前々から噂される人が実際に受賞することはほとんどないってことだね(笑)
にえ おっと、話が完全に逸れてしまった。話を逸らすってことは、この「フリーキー・グリーンアイ」がおもしろくなかったんじゃないのと疑われてしまうね。ホントのところは、かなりおもしろいの、一気に読んでしまった。
すみ うん、読みはじめたら止まらなくなるよね。緊張感が最初から最後まで途切れなくて、ドキドキしながら読んでしまった。
にえ YA本とはいえ、親が子供に勧めて読ませる内容じゃないかもって気はするけどね。かなりハードな家庭の話で。
すみ 主人公のフランチェスカの父親はハンサムで、もとアメフトの花形選手で、今は人気のスポーツキャスターで、きっちり取材をして、若い選手を励ますコメントをする、アメリカンヒーローのような存在なんだよね。
にえ 家でも家族を愛するいいお父さん。でも、見え隠れするのは、しつけと称して暴力を振るっているらしきこと。
すみ フランチェスカも妹のサマンサも、それは父親が自分たちを愛しているからこそしていることだと納得しているみたいだけどね。でも、家のなかには常に父親の機嫌をうかがう緊張が漂っていて。
にえ 兄のトッドは、全面的に父親を信頼し、父親とそっくりになることしか望んでいないみたいだよね。あとからいろいろわかってくるんだけど。
すみ 母のクリスタは、そばにいてフランチェスカとサマンサを守ってくれるんじゃなくて、だんだんと家を留守にしてアーティストの集まりに出掛け、別の家で週に何日かを過ごすようになっちゃうのよね。そのへんもあとからいろいろわかってくるけど。
にえ まあ、はっきり言ってしまうとおもしろくなくなっちゃうからぼかすしかないけど、最終的には刑事事件となるようなことになって、すごいことになっちゃうのよね。
すみ そのことじたいもそうだけど、随所にズキッ、ドキッとするようなことが書いてあって、かなり強烈だった。
にえ いろいろわかってくるなかには、刑事事件以上に驚くような真実も隠されていたしね。
すみ 最後もいちおうは落ち着くけど、ハッピーエンドとは言い難いよね。そんな中でも強く生きていくしかないんだなと励まされるところはあるけど。
にえ それにしても、ジョイス・キャロル・オーツは思春期の女の子の危うさを書くのがうまいよね。ちょっとピリピリしていて、穏やかならざる心理がひしひしと伝わってくるなあ。
すみ ジョイス・キャロル・オーツって妥協するのが嫌いっぽくない? そういうところが思春期の女の子を書かせる原動力となっているのかも。ということで、興味がわいたら一気に読んじゃってくださいってことで。