すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「どんがらがん」 アヴラム・デイヴィッドスン (アメリカ)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
アヴラム・デイヴィッドスン(1923〜1993年)ニューヨーク州生まれ。「物は証言できない」でエラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン短編小説コンテスト第一席受賞、「あるいは牡蠣のいるどんな海も」でヒューゴー賞最優秀短編部門受賞、「ラホール駐屯地での出来事」でアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀短編部門受賞、「ナポリ」で世界幻想文学大賞短編部門を受賞。1986年、世界幻想文学大賞生涯功労賞を受賞。
ゴーレム/物は証言できない/さあ、みんなで眠ろう/さもなくば海は牡蠣でいっぱいに/ラホール駐屯地での出来事/クィーン・エステル、おうちはどこさ?/尾をつながれた王族/サシェヴラル/眺めのいい静かな部屋/グーバーども/パシャルーニー大尉/そして赤い薔薇一輪を忘れずに/ナポリ/すべての根っこに宿る力/ナイルの水源/どんがらがん
にえ 河出書房新社の奇想コレクションの1冊です。このアヴラム・デイヴィッドスンという作家さんは、まさに奇想コレクションにふさわしい作家さんみたい。
すみ ミステリの賞と、SFの賞と、ファンタジーの賞をとってるのが凄いよね。だからって、短編の名手って呼びづらいような独特さがまた奇想らしいんだけど(笑)
にえ 読み終わって、収録作をひとつずつ見ていくと、ああ、これも良かった、あれも良かったってなるけど、全体としてはどうなんだろうってところも残るよね。
すみ う〜ん、それほどサクサクッと読めるテンポの良さはないし、どう独創的かってのも説明しづらいような作風だしね。
にえ でも、悪くはなかったよね。1作ずつ見ていくと、たしかに良いのよ。「ゴーレム」なんて気が利いてるし、「物は証言できない」なんて文豪の作品集に入ってても違和感がなさそうだし、「さあ、みんなで眠ろう」は後引きまくったし・・・と順番に見ていくと、やっぱり良かった。
すみ じゃあ、なんだろう、この全部読んだあとの食い足らなさ感は? 単に期待しすぎただけなのかしら?
にえ ん〜、そうね〜、他の作家の作品もたくさん入っているアンソロジーの中の1編だったら、わ、この作家好き!ってなりそうな気がするのにな。
すみ でも、良かったよね(笑) うん、きっと良かったのでしょう。きっとこのモヤンとした感じも、この方の特徴なんでしょうってことで。
<ゴーレム>
ガンバイナー老夫妻の家のポーチに、許可もなく入ってきた灰色の顔の男は椅子のひとつに腰を下ろした。あいさつ一つする様子もない。
にえ なんか、男は自分の正体を知ったら恐怖でおののくぞ〜と言ってるみたいなんだけど(笑) なかなか楽しいお話だった。
<物は証言できない>
1825年、黒人問屋のジェームズ・ベイリスは、地元新聞に黒人の委託販売の広告を出した。それ以来、だれもがジェームズ・ベイリスを避けるようになったが、彼はまったく気にしなかった。彼を避けるのは表向きだけで、裏では利用しているのだから。
すみ 弱者の擁護に激しいものを持つ著者らしい、皮肉の効いたラストでした。なかなか。
<さあ、みんなで眠ろう>
長い長い宇宙の旅路の途中にある<バーナムの惑星>は、旅をする者たちのいいガス抜きとなっていた。下等な野蛮人ヤフーの狩りをして楽しむのだ。ハーパーはこんなことでヤフーたちが絶滅することに憤りを感じていた。
にえ これも弱者の擁護精神を感じさせる作品なのだけど、ズシーンと来るラストに余韻がいつまでも残ったなあ。個人的な好みからすると、これがこの本の中のナンバー1。
<さもなくば海は牡蠣でいっぱいに>
F&O自転車店はもともと、オスカーとファードの共同経営の店だった。ファードがいなくなってしまったのは、大切に手を入れていた赤い自転車を壊したあと、元通りに戻っているのを裏庭で発見したためだった。
すみ なんだか怖くなるような、いろいろ想像してしまう余地をたっぷり残したお話でした。薄ら寒い余韻がなかなかっ。
<ラホール駐屯地での出来事>
老人は酒場で語り始める。1946年から47年にかけてラホール駐屯地にいたときの出来事だ。大男のドッカーは闇にまぎれで上官の頭をかち割ったことで、他の兵士たちから一目置かれていた。ネズミというあだなのビクビクした小男も、ドッカーの友達だということで蹴られることがなくなった。
にえ ドッカーはハリー・オーエン上等兵の女友達と恋人になったのだけれど、そこでまあ、いろいろあるわけよ。ビシッと決まった短編。
<クィーン・エステル、おうちはどこさ?>
イギリス領西インド諸島出身のクィーン・エステルは、寒さの中を遠い勤め先のお屋敷に通っている。そこでは坊ちゃんがいて、クィーン・エステルに故郷に伝わるおもしろい話をねだったり、クィーン・エステルの作った郷土料理を美味しそうに食べたりするが、坊ちゃんの歳の離れた兄の奥さんはそれが気に入らないようだった。
すみ 「おおさむ、おおさむ」で始まって、「ほかほか、ほかほか」で終わる短編。リズム感が心地よかったな。
<尾をつながれた王族>
一つ目は水を口に含み、お父様やお母様たちに運んでいく。お父様やお母様たちは一族によって尾をつながれてしまっているのだ。
にえ わかったような、わからないような設定の、ファンタジックなお話。妖しげな雰囲気が漂いまくって、けっこう好きかも。
<サシェヴラル>
窓に板が張られ、暗く寒く、悪臭が漂う部屋で、サシェヴラルはジョージに話しかけた。サシェヴラルは鎖につながれている。教授のところにいたときには、プリンセスやマダム・オーパルや将軍もいて、幸せだったのに。
すみ 最後になるほどそういうことかと思うけど、2種類の解釈ができるのね。でも、話しのオチとしては、こっちで正解だと思うんだけどな〜(笑)
<眺めのいい静かな部屋>
古びた老人ホームで、スタンリー・C・リチャーズは独り身のため、他の男性たちと大部屋に詰めこまれている。ハモンド夫妻は眺めのいい部屋に二人だけ。しかも、ハモンド夫人はまだまだ美しい。リチャーズ氏はハモンド氏が羨ましくてならなかったが、ハモンド氏はリチャーズ氏が傭兵時代の経験談を語り、いつも注目を浴びていることが気に入らないらしい。
にえ ありがちな話でオチは読めたけど、こういう切ない話は好きだなあ。
<グーバーども>
両親と死に別れ、おれは祖父と暮らすことになった。祖父の家は汚らしく、祖父は意地汚かった。だが、おれは祖父がグーバーに売ると脅すので、言いなりになるしかなかった。グーバーというのがどんな奴らなのか、よくわからなかったけれど。
すみ こういうのは楽しいなあ。最後には映像が目に浮んで笑ってしまった。
<パシャルーニー大尉>
運転手つきのピカピカのキャデラックを乗りつけ、学校にトンプスン少佐がやって来た。高価な服に身を固め、品の良い物腰で校長室へ歩いていく。ジミーに会いに来たのだ。
にえ いつもはそばに親もいなくて、学校でもみじめな思いをしているジミーだけど、この日は学校じゅうの注目の的。こういうのはつい感情移入してしまうなあ。
<そして赤い薔薇一輪を忘れずに>
中古ガスストーブの再生と卸売りの店で働くチャーリー・バートンは、店の主人にうすのろ扱いをされる日々だった。チャーリーはある日、同じ建物に住むアジア系の男が困っているのを助けた。男はチャーリーを部屋に招いた。そこには信じられないような美しい稀覯本が揃っていた。
すみ 男は書店を経営、ということだけど、普通の部屋で店のつくりではないから客が立ち寄るってこともなさそうだし、本を買いたいとき、普通のお金じゃ買えないし。これはすっごく良くできた短編だと思う。
<ナポリ>
20年ほど前、若くもなければ老いてもいず、醜くも美男子でもなく、金持ち風でも貧しそうでもない男が、赤煉瓦の宮殿のそばを通って、ナポリの下町の雑踏に足を踏み入れた。
にえ なんかよくわからないシリーズ、の中では、個人的には一番ピンと来なかったんだけど。「ナポリ」って言葉の連続使用が素敵ではあったけどね。
<すべての根っこに宿る力>
サント・トーマス郡の警察官カルロスは、最近になって周囲の人々が敵意をもった目つきで自分を見るようになったと感じていた。耐えられなくなったカルロスは、医者に診せたが納得がいかず、とうとう祈祷師に会ってしまった。
すみ これはミステリ短編、うまく瞞されてしまった(笑)
<ナイルの水源>
作家のボブ・ローゼンは、最新の流行だと教えられた作品を書いても書いても、もう流行遅れだと言われつづけていた。そんな時、ピーター・マーテンスに出会った。ピーターはかつて広告業界の一線で活躍した男だが、今はだれにも相手にされない老いぼれと化していた。しかし、彼にはとんでもない秘密があったのだ。
にえ なんかテンポに乗れなかったし、ちょっとラストが苦すぎだけど、話としてはおもしろかった。
<どんがらがん>
運に見放された<カナラス国>の領主の息子マリアンは旅の途中、<矮人の王様がた>の飛び地で、<山鉾(ジャガーノート)>もしくは<どんがらがん>と呼ばれる大筒を運ぶ人々と出会った。彼らは大筒で脅し、食べ物をせしめながら進んでいるようだった。
すみ これは私にはなんだか設定がよくわからなかったし、ストーリーがまどろっこしく感じて、あんまりおもしろくなかったなあ。