=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「シェイクスピア贋作事件」 パトリシア・ピアス (カナダ→イギリス)
<白水社 単行本> 【Amazon】
18世紀が終わりに近いロンドンで、19才のウィリアム・ヘンリー・アイアランドは人好きのしない、あまりの愚鈍さに学校から追い出されてしまうような青年だったが、 蒐集家の父に認められたいがため、シェイクスピア文書を偽造しはじめた。 | |
これはノンフィクションものです。18世紀のイギリスで、実際に大騒ぎになった事件の顛末が書かれているの。 | |
現代では考えられないようなお話だけど、当時にしたってもうちょっと冷静になっていれば、と思わないでもないような話だよね。でも、詐欺事件のたぐいってみんなそう。あとから聞けば、なんで瞞されるの〜と思っちゃうけど、自分が当事者になるとあっさり瞞されちゃう。 | |
信じたいって気持ちがあるからなんだろうね。楽に大金を儲けるなんてむりに決まってると思うけど、そういううまい話があればいいのになって気持ちがあるから、瞞されちゃうのと同じで。 | |
このシェイクスピア贋作事件はもっと純粋な気持ちが強いしね。シェイクスピアがこういう人であればいいのになっていう、そういう気持ちにうまく乗ったというか。 | |
さてさて、この大事件を引き起こしたのは、ウィリアム・ヘンリー・アイアランドという青年。この青年はパッと見だけでも人に嫌われるようなところがあり、愚鈍すぎると学校を追い出され、どこへ行ってもウスノロ扱いされちゃうような、まだ二十歳にもならない青年。 | |
知的なところや、器用さ、抜け目ない利発さなんてものはまるでなく、それに精密さを求められるような仕事なんてこなせる忍耐力もなさそうな、とにかく出来損ない扱いされてる青年なんだよね。そんな青年が、まさか当時の名だたる学者や著述家たちを手玉に取るなんて。 | |
あまりのバカっぽさのために、あとで真実を告白したときもほとんど信じてもらえなかったほどなんだよね。風刺漫画では、涎を垂らして座っているウィリアム青年の横で、家族がシェイクスピアの贋作を作ってる姿が描かれていたそうな。 | |
一番ひどい扱いをしていたのは父親でしょう。最初から最後まで徹底してバカ扱い。すべてがわかっても、こんなバカにできるはずがないと信じなかったぐらいで。 | |
父親のサミュエルは、ちょっとまあ正道を歩いてきたとは言い難いところがあるけど、とにかく財をなし、世間にもそれなりに認められていた人なんだよね。絵と文章による旅行記などが売れて文化人扱いだし、蒐集家としても有名だったみたいだし。 | |
ウィリアムに対しては、ウスノロ扱いするだけじゃなく、自分の息子じゃないみたいなことを言ってたみたいね。それは事実だった可能性も高いらしいけど。 | |
ウィリアムの悲しさは、そんな父親に一泡吹かせてやろうっていうんじゃなく、認めてもらいたいってそれだけの気持ちでシェイクスピアの贋作をやっちゃったってことなんだよね。それがあるから、読んでてついついウィリアムにばかり同情してしまう。 | |
ウィリアムは父親を喜ばせようと、シェイクスピアが書いた手紙や証書などなど、「シェイクスピア文書」と呼ばれるものを次々と運んでくるの。その量も頻度もかなりなもの。 | |
その時点で、おかしいと思いそうなものだけど、あまりにも次々に品物が現れるから、かえって贋作にしては時間がかかっていなさすぎるとなったのかもね。それにしたって、ウィリアムはシェイクスピアの研究をしていたわけでもなんでもなくて、かなり日時とか矛盾するところが多かったみたいだけど。 | |
作り方そのものも大胆不敵というか、よくまあ、こんな方法でと驚いちゃうよね。それがかえって良かったのかも。 | |
良いか悪いかわからないけど、とにかくバレずに、といっても、もちろん疑ってる人はいたんだろうけど、とりあえず表向きにはバレずに、どんどん凄いことに。 | |
これぞまさしくシェイクスピア的悲劇って書いてあったけど、本当だよね。なんだかお芝居を観るようにクライマックスへ向けてどんどん盛り上がっていくし、そのクライマックスというのが本当に、ここまで行っちゃったか〜ってところまで行っちゃってるし。 | |
本人だけはけっこうノホホンとしてるけどね(笑) でもとにかく、当時のいろんな立場の人を巻き込んで、まさにシェイクスピア劇の世界。おもしろかった〜って言っていいのかな(笑) | |
まあ、死者も出ていないし、大恥をかかされたっていう精神的被害をのぞけば、実被害を受けたのは父親のサミュエルぐらいのものだしね。 | |
でも、当時はそうとう大騒ぎになったみたいね。ウィリアムくんの起こした騒ぎだけじゃなく、他の贋作事件にも触れられていて、ホントに興味深かった。 | |
「ロウリー詩集」のトマス・チャタトンとかね。ちなみにウィリアムくんにはそういう先輩方がいるから、第4の贋作者と呼ばれているみたい。 | |
原文がそうなんだろうけど、一文ごとが長すぎて、ちょっと読みづらいところもあったけど、内容がおもしろいから、それほど気にはならなかったかな。 | |
こういうのを読むと、小説では難しいだろうなと思っちゃうよね。これが小説だったら、「18世紀の人をバカにしすぎ、こんなひどい贋作なら当時の学者でもすぐに見抜けたはず」とばっさりやられてただろうね。あと、「主人公の青年が贋作者として説得力なさすぎ」とかね。でも、事実なのだな〜(笑) | |