=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「フェニモア先生、墓を掘る」 ロビン・ハサウェイ (アメリカ)
<早川書房 文庫本> 【Amazon】
開業医のフェニモア先生は、十月の気持ちよい夕方、死んだ猫を埋めようとしている少年ホレイショと 出会った。フェニモア先生はほどよい空き地にホレイショを案内した。そこは、インディアンであるラナピ 族にとって、特別な場所でもあった。そこで土を掘ったフェニモア先生は、女性の死体を掘り当てた。 女性は、ラナピ族の伝統に基づき埋葬されていた。 アガサ賞、マリス・ドメスティック・コンテスト受賞作。 | |
私たちにとってはちょっと久しぶりに軽めの、肩の凝らない楽しいミステリーでした。 | |
主人公はもちろん、その周辺の人たちもフンワリ柔らかで、安心して読めたよね。 | |
そう、まず主人公のフェニモア先生は、心臓医で、小 さな診療所の開業医、で、片手間に探偵もやっているって人。 | |
猫飼ってるのよね。サールちゃん、この本では大活躍。こ れからは、番犬より番猫だね(笑) | |
フェニモア先生は、あんまりかっこよくない四十歳過ぎの 独身男なの。 | |
そうそう、顔はイマイチで小柄。父親譲りの小さな診療所の 先生で、洋服は古着を買ってるし、車はポンコツだし。 | |
でも、十五歳も年下の素敵な彼女もいるし、やさしいからオバ チャン、オバアチャン、コドモにはモテモテ。強い個性はないけど、ふんわりした心地よい人だよね。 | |
で、ストーリーとしては、少数民族のインディアン、ラナピ族で ありながらも、大学の講師や織物教室をやって白人社会で生きてた女性スウィート・グラスって女性が殺され ちゃったの。 | |
スウィート・グラスって素敵な名前よね。スウィート・グラスは 、由緒ある白人の青年と結婚しようとしていたの。でも、玉の輿狙いじゃないのよ。しっかり自分の道を歩んで いこうとしていた女性。 | |
心臓に持病があったんだよね。で、まあ当然のように婚約者の家 では人種の違う彼女のことを邪魔者に感じてたし、ラナピ族のお兄さんも結婚には反対してた。 | |
で、そんな中で起きた殺人に、フェニモア先生が医学と薬学の知識を駆使し、役立つ 仲間たちと切りこんでいく、と。設定としてはありがちだけど、軽めのミステリーなら奇をてらわず、 定石を踏んでOK。 | |
フェニモア先生を助けるのは、ヒスパニック系不良 少年のホレイショに、診療所の看護婦兼秘書のドイル夫人、それに親友の警官ラファティ。とくに、 ホレイショ少年との心のふれあいが良かったよね。 | |
みんなフェニモア先生が大好きっていうのが伝わってきて、 やさしい気持ちになれたね。こういうあったかい人間関係はいいな〜。 | |
ただ、この本には、ただのコージー系に収まらない知識の織り 込みがあって、そこに深みがあったよね。けっして軽すぎないし、安易じゃない。 | |
うん、そうなの。フェニモア先生が医者って設定だけあって、 医学的な身体機能の説明とか、薬や毒草の説明なんて、ちゃんとしてて、いいかげんじゃなかった。 | |
知らなかった知識に驚きをもって読めたよね。ハーブの効能や 意外と身近にあった毒草、このへんのひけらかさないウンチクは良いんじゃな〜い。 | |
それにインディアンの少数民族ラナピ族の話。風習とか生活とか 歴史とかを、くどくなくサラッと紹介してるのもよかった。 | |
うん、全体的にはあくまでコージー系の読みやすさを大切にして るんだけど、そういう知識がバランスをとって、軽すぎる本を読んだときの不完全燃焼な感じはなかったね。 | |
字も大きくて、小さな章にわかれてるから読みやすいんだけど、 これならじゅうぶん満足できる読みごたえ。 | |
丁寧に書いてあるなって好感が持てたよね。ラストの謎解きも、 そのへんの知識が巧く利用されてて、ガッカリしなかった。 | |
フェニモア先生が2度ほど襲われたのは、あとで考えると意味 不明だったけど、まあそこは許そう(笑) | |
ちなみにこの本、シリーズの3作目で、実はこのあとの2作も すでに出ているんだとか。 | |
こういう登場人物が愛せる本は、シリーズで読みたいね。軽くて も、上質だったし、やさしい気持ちになれました。 | |