すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「フェニモア先生、墓を掘る」 ロビン・ハサウェイ (アメリカ)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
開業医のフェニモア先生は、十月の気持ちよい夕方、死んだ猫を埋めようとしている少年ホレイショと 出会った。フェニモア先生はほどよい空き地にホレイショを案内した。そこは、インディアンであるラナピ 族にとって、特別な場所でもあった。そこで土を掘ったフェニモア先生は、女性の死体を掘り当てた。 女性は、ラナピ族の伝統に基づき埋葬されていた。
アガサ賞、マリス・ドメスティック・コンテスト受賞作。
にえ 私たちにとってはちょっと久しぶりに軽めの、肩の凝らない楽しいミステリーでした。
すみ 主人公はもちろん、その周辺の人たちもフンワリ柔らかで、安心して読めたよね。
にえ そう、まず主人公のフェニモア先生は、心臓医で、小 さな診療所の開業医、で、片手間に探偵もやっているって人。
すみ 猫飼ってるのよね。サールちゃん、この本では大活躍。こ れからは、番犬より番猫だね(笑)
にえ フェニモア先生は、あんまりかっこよくない四十歳過ぎの 独身男なの。
すみ そうそう、顔はイマイチで小柄。父親譲りの小さな診療所の 先生で、洋服は古着を買ってるし、車はポンコツだし。
にえ でも、十五歳も年下の素敵な彼女もいるし、やさしいからオバ チャン、オバアチャン、コドモにはモテモテ。強い個性はないけど、ふんわりした心地よい人だよね。
すみ で、ストーリーとしては、少数民族のインディアン、ラナピ族で ありながらも、大学の講師や織物教室をやって白人社会で生きてた女性スウィート・グラスって女性が殺され ちゃったの。
にえ スウィート・グラスって素敵な名前よね。スウィート・グラスは 、由緒ある白人の青年と結婚しようとしていたの。でも、玉の輿狙いじゃないのよ。しっかり自分の道を歩んで いこうとしていた女性。
すみ 心臓に持病があったんだよね。で、まあ当然のように婚約者の家 では人種の違う彼女のことを邪魔者に感じてたし、ラナピ族のお兄さんも結婚には反対してた。
にえ で、そんな中で起きた殺人に、フェニモア先生が医学と薬学の知識を駆使し、役立つ 仲間たちと切りこんでいく、と。設定としてはありがちだけど、軽めのミステリーなら奇をてらわず、 定石を踏んでOK。
すみ フェニモア先生を助けるのは、ヒスパニック系不良 少年のホレイショに、診療所の看護婦兼秘書のドイル夫人、それに親友の警官ラファティ。とくに、 ホレイショ少年との心のふれあいが良かったよね。
にえ みんなフェニモア先生が大好きっていうのが伝わってきて、 やさしい気持ちになれたね。こういうあったかい人間関係はいいな〜。
すみ ただ、この本には、ただのコージー系に収まらない知識の織り 込みがあって、そこに深みがあったよね。けっして軽すぎないし、安易じゃない。
にえ うん、そうなの。フェニモア先生が医者って設定だけあって、 医学的な身体機能の説明とか、薬や毒草の説明なんて、ちゃんとしてて、いいかげんじゃなかった。
すみ 知らなかった知識に驚きをもって読めたよね。ハーブの効能や 意外と身近にあった毒草、このへんのひけらかさないウンチクは良いんじゃな〜い。
にえ それにインディアンの少数民族ラナピ族の話。風習とか生活とか 歴史とかを、くどくなくサラッと紹介してるのもよかった。
すみ うん、全体的にはあくまでコージー系の読みやすさを大切にして るんだけど、そういう知識がバランスをとって、軽すぎる本を読んだときの不完全燃焼な感じはなかったね。
にえ 字も大きくて、小さな章にわかれてるから読みやすいんだけど、 これならじゅうぶん満足できる読みごたえ。
すみ 丁寧に書いてあるなって好感が持てたよね。ラストの謎解きも、 そのへんの知識が巧く利用されてて、ガッカリしなかった。
にえ フェニモア先生が2度ほど襲われたのは、あとで考えると意味 不明だったけど、まあそこは許そう(笑)
すみ ちなみにこの本、シリーズの3作目で、実はこのあとの2作も すでに出ているんだとか。
にえ こういう登場人物が愛せる本は、シリーズで読みたいね。軽くて も、上質だったし、やさしい気持ちになれました。