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 「北風のうしろの国」 ジョージ・マクドナルド (イギリス)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
御者一家の住まいはとても狭かったので、息子のダイアモンドは馬車小屋の二階の天井の低い部屋で寝ていた。その下には馬のダイアモンドじいさんが眠っている。ダイアモンドの名前は、この馬からとられたのだった。 ある夜、ダイアモンド少年は板壁の節穴のひとつから北風が吹きこんでいることに気づいた。干し草で何度ふさいでも、栓はポンとはずれてしまう。翌日には母親が茶色の壁紙を貼り付けてくれた。ところが、壁の向こうから声がする。私の窓をふさぐなと誰かが言っているのだ。ダイアモンドが紙をめくると、そこから入ってきたのは長い黒髪の美しい女性<北風>だった。
にえ なにか読んでみたいと思っていたジョージ・マクドナルドの本がちょうど復刊されたので、読んでみました。
すみ ジョージ・マクドナルドって恥ずかしながら、私はずっと勘違いしてたのよね。現代ファンタジー作家で、女性の方だと思いこんじゃってた。どうしてだか理由はないけれど(笑)
にえ ジョージ・マクドナルドは1824年生まれで1905年に亡くなった、私たちがこのHPでやってる分類では、完全に古典に入る作家さんなんだよね。
すみ ロード・ダンセイニより54歳も年上なのね。C・S・ルイスやJ・R・R・トールキンに多大な影響を与えた英国ファンタジーの先駆者なのだとか。
にえ ルイス・キャロルの8歳年上だね。生前には深い交友関係があったのだって。
すみ でも、なんだろうな、読んでると、それほど前に書かれた小説だって感覚を失うね。時代背景とか、道徳心的なものだとかは古めかしいのだけど、心理描写を多用した小説スタイルは、ちょっとこの時代のものではないような。
にえ 道徳心も、当時にしたらかなり斬新だったんじゃないのかな。なんか独特の哲学のような、確固たるものを貫いているって印象が強くて。
すみ そういえば、牧師になったけど非正統派的な考え方が受け入れられずに三年で辞任したそうだから、やっぱり風潮に流されない独自のものを持ってらした方なんだろうね。
にえ んで、あとから知ってみれば、大人向きのファンタジーと児童文学の両方を書いてらっしゃるそうなんだけど、これは児童文学。とはいえ、私が子供だった頃には受けつけなかった系統のものだから、大人になってから読んでよかったんだけど。
すみ ダイアモンド少年が、今の私たちなら精神的に対して成長していないにしても、もう大人なんだからって自覚があるぶん余裕で読めるけど、子供の頃だったらイライラッとしただろうね。なにせ私たちが持ち合わせなかった「素直」「寛容」などなどという美徳をタップリ持ち合わせている少年だから。
にえ ああ、そうさ、こんなきれいな心の子供なんていないと、ブーブー文句を垂れていただろうさ(笑)
すみ 今だと心がきれいすぎて、「おばかさん」なんて他の子供に言われてしまうダイアモンドにズキーンとしてしまうよね。もう自分と比べる必要はないから(笑)
にえ むしろマクドナルド自身の優しい視線にジンジンしてしまうよね。自分の人生でいろいろと辛い思いもしてきた人だからこそ書ける優しさだなあと感動してしまう。
すみ 全体のストーリーはちょっと変わった構成だったよね。まず、ダイアモンドが<北風>に連れられて行かれ、不思議な経験をするファンタジー、で、このままファンタジックな内容が続くと思ったら、ガラッと変わって、現実的な話というか、ダイアモンド少年が仕事を失った父親を助けつつ、いろんな人に出会って助けたり助けられたりという話、で、もう<北風>は過去のことになっちゃったのね、と思ったら、ふたたび<北風>とのファンタジー。
にえ うん、なんかくっきり3つに分かれてたよね。そこに詩や作中作の童話が挿入されてたりするんだけど。
すみ 最初と最後のファンタジーは、ほんとにもう幻想的な広がっていくばかりのお話なのに、あいだの現実的な話は、貧乏の辛さとか、虐げられた子供の話とか、没落しちゃった家族のこととか、きっちり出てくるよね。
にえ そうそう、だからなんだか別の話が始まったみたいな、不思議な感じがした。もちろん、子供向けってことで、良いお話にはなってるんだけどね。
すみ ファンタジーなところから始まったときには、北風のうしろの国でダイアモンドがいろんな経験をするって話に最終的にはなっていくんだろうなと思ったんだけど、その予想はみごとにはずれてしまった。
にえ 北風のうしろの国についてもわからないままだったけど、<北風>についてもわからないところも多く残したままだったよね。それだけに読後に想像が広がったり、<北風>の存在感が印象深かったりするのだけれど。
すみ <北風>を巡るファンタジーと、良い子が良いことをするお話、でも、読後には、それとはまた違った不思議な余韻が残るよね。なんか深いなあ。ということで、「ファンタステス」などの大人向けファンタジーも読んでみたいと思ったのでした。