すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「大西洋の海草のように」 ファトゥ・ディオム (セネガル→フランス)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より) ディオム,ファトゥ 1968年、セネガルのサルーム諸島にあるニオディオル島に生まれる。非嫡出子だったため祖父母に育てられ、村社会から差別を受ける。13歳で島を出て、受け入れ家庭の家事をしたり市場で働いたりしながら中学・高校に通う。バカロレアをとって首都ダカールで大学に進学、在学中にフランス人と知り合い結婚する。1994年、夫の故郷ストラスブールに住み始めるが2年後に離婚。高学歴でも黒人の彼女はなかなか定職につくことができず、家政婦やベビーシッターをしながら、大学での研究と執筆をつづける。2001年、処女短編集“La Pr´ef´erence nationale”(『国民優先』)で作家デビュー。ストラスブール在住。ストラスブール大学で博士論文を執筆中
にえ 河出書房新社のModern&Classicシリーズの1冊です。 自伝的な小説なので、ストーリー紹介するよりわかりやすいかと思い、↑は作者の紹介を丸写しさせていただきました。
すみ でもさ、経歴を見ると、わ〜、つらい人生だな、かなり暗くて重苦しい小説なんだろうな、と思っちゃいそうだけど、読むと不思議に力強い明るさに満ちているよね。
にえ ラストではニッコリできるしね。それに、本人の人生が綿々と語られてるってわけでもないし。
すみ そうそう。もちろん、語り手である主人公サリの人生も垣間見えるけど、どちらかというと、サリとサリの父親違いの弟マーディケの関係、それから、サリを受け入れ、いろいろなことを教えてくれた教師のンデターレにスポットが当たっていたような。
にえ 二人はセネガルのニオディオル島がどんなところか知る上での象徴的存在でもあるよね。
すみ うん、ンデターレ先生の話からは、閉鎖的な村社会の様子が伝わってくるの。サリ自身も私生児として産まれたばかりに爪弾きにされるけど、ンデターレ先生もよそ者ってことで受け入れてもらえなくて。
にえ だけど、育ててくれたおばあちゃんは違うよね。サリを体を張って守ってくれるし、サリに勉強を教えてくれるってことで、ンデターレ先生も歓迎するし。
すみ おばあちゃんは字も読めないのに、サリの勉強を見てくれたり、ホントに素敵なおばあちゃんだよね。
にえ ンデターレ先生は危険な煽動者のレッテルを貼られ、辺鄙な島に左遷されちゃった小学校の校長なんだよね。先生については、いろんなエピソードが出てきて、よそから来るってことがいかに難しいかわかる。
すみ 島を出ることの難しさもね。
にえ そうなんだよね。マーディケや他の男の子たちは、島の食べるものにも困るような貧乏暮らしから逃げるためには、島を出て働くしかないと思いこんでいるけど、先生は出ていった多くがどういう末路を迎えるか知っているから、出したくないみたい。
すみ でも、先生自身は左遷されたとはいえ公務員で、暮らしはそれほどひどくないみたいだし、出ていくなと言いながら、じゃあ、どうすればいいかって提案はなにもないみたい。ものすごく良い先生なんだけど、しょせんはインテリ負け犬なのかなあ、なんて読んでて思ったりもして。
にえ マーディケはマルディーニ選手に憧れるサッカー少年なんだよね。
すみ 島の男の子のほぼ全員が、サッカー選手になってフランスに渡ることを夢見てるみたい。貧乏暮らしから一転して、金持ちになるにはそれしかないと思いこんでるの。
にえ 自分たちは食べたこともないアイスクリームというもののCMが、金持ちの家にあるテレビから流れ、サッカー選手の移籍話では、信じられないような金額が上げられ、って、自分たちの生活は変わらないのに、豊かな情報だけはたっぷり入ってくるんだから、むりもないよね。
すみ おまけに島を出てフランスに渡り、不法滞在の肉体労働でなんとかわずかばかりの金を貯めて島に帰ってきた人は、島の人たちの尊敬を得るために、フランスの生活をパラダイスのように語るしね。
にえ 読んでる途中は自分勝手に姉を利用することしか考えてないマーディケにイラッとしたり、フランスでのつらい生活を具体的にキチンと話してあげないサリにイラッとしたりしたけど、最後にはスッキリしたな。
すみ 冒頭がつらくなかった? けっこう長くイタリア対オランダのサッカーの試合が描写されてて、ウンザリして放り出しそうになったんだけど(笑)
にえ 文字で書かれてもねってところはあるよね。でも、そのサッカーの試合への熱狂ぶりから始まるのがふさわしい物語ではあったから。
すみ セネガルのことを書いた小説は初めて読んだけど、これ1冊でずいぶんわかった気になっちゃったな。なかなか良かったですってことで。