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 「堕ちた天使 アザゼル」 ボリス・アクーニン (ロシア)  <作品社 単行本> 【Amazon】
1876年5月13日モスクワ市内、アレクサンドロフスキー公園で、一人の青年が見かけた女性に 唐突なプロポーズをして、断られると自殺した。まるで過ぎた悪戯のように。モスクワ警察特捜部の若き 刑事エラスト・ファンドーリンは、似たような自殺騒ぎが同時期に、他にいくつも発生していることをつ きとめた。謎の中心にいるのはアマリヤという絶世の美女。彼女はいったい何者なのか。
にえ 小説を読む前に、作家の紹介を読んだんだけど、この方はそうとうな日本びいきみたいね。
すみ ロシアにいろんな日本の作家を紹介し、三島由紀夫のロシア語 翻訳を手がけ、ペンネームの「アクーニン」=「悪人」なんだそうな。
にえ おお、これはと期待は膨らみますが(笑)
すみ 舞台は1876年のロシアだから、現在のロシアじゃなくて、 ソビエトになる前のロシアだよね。
にえ のんびりとして貴族的。まさに旧ロシアだよね。
すみ 主人公はまだ二十歳の青年。自分のちょっと綺麗な要望を意識し てコルセットなんかしちゃって、死体を見れば青ざめ、恥ずかしいとすぐ真っ赤になる、ウブな純情青年。
にえ その捜査の「そ」の字もわかっていないような青年が、幸運に 恵まれ続け、ヨーロッパ中を走りまわり、謎を解く。ユーモア冒険小説って感じよね。
すみ しかもかなり稚拙なね。江戸川乱歩が少年少女向けに書いた怪奇 冒険小説って感じに近いかな。今読むとかなり子供騙し、でもまあ、それがおもしろいと言えばおもしろい。
にえ これは意表をつかれたよね、表紙といい、題名といい、紹介文と いい、もっとハードなミステリーを想像してたんだけど。
すみ 「ロシアのエーコ」なんて帯に書いてあるから、戦慄のカルトも のとかね。まさかこういう「たはは」なものを読まされるとは思わなかった。
にえ ロシアでは人気があって、「エラスト・ファンドーリンの冒険」 シリーズとして次々に続編が出ているのだとか、こういう説明を前押しにしてくれていれば勘違いしなかった んだけど。
すみ でも、まあ、それはそれとして、文化の違いとか、楽しめるとこ ろは多々あったよね。
にえ そうそう、たとえば、拳銃に弾を1つだけ入れ、クルクルっと 回して、自分のこめかみに向けて撃つ、これって私たちは<ロシアン・ルーレット>っていうでしょ?
すみ それがロシアでは<アメリカン・ルーレット>って呼ばれてる のよね。これはビックリしながらも納得。お勉強になりました。
にえ そういう異文化に触れる楽しさはあったよね。ストーリーは かなりバレバレづくしで、予想を裏切る驚きはなかったし、まあ、ぶっちゃけた話、最大にして最後の謎も、 最初のうちでわかっちゃうでしょう。
すみ ご都合主義の連続は、かえっておもしろかったけどね。
にえ エラストに協力してほしい人は、なぜかエラストを気に入って、 すぐに秘密をばらしちゃうし、金は困っても手に入っちゃうし、なんだかどんどん昇級させてもらえるし。
すみ そのわりにラストはドヨーンと暗くなる終り方だったけどね。
にえ あれは驚くよりも、あ〜あ、やっちゃったよってガックリきたな。
すみ これ1冊で、ロシアのミステリはまだまだだって言っちゃって いいんでしょうか?
にえ それは早合点でしょう。まあ、それにしても、この本はオススメ しづらいな。
すみ こういう本だとわかった上で読めば、それなりに楽しめるんじ ゃない? はっきり言えば、チャチでお粗末だったけど。
にえ 表紙や題名に騙されるなかれってことで。