すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「七悪魔の旅」 マヌエル・ムヒカ=ライネス (アルゼンチン)  <中央公論新社 単行本> 【Amazon】
議論に明け暮れ、本来の使命を忘れたかのように怠惰にふける悪魔たちに腹を立てた地獄の大魔王は、七人の悪魔を呼びつけ、地球に行ってそれぞれの罪を果たしてくるよう命じた。 地図と日本の悪魔が作った時計を持ち、猿の担ぐ輿やグリュプスやセイレーンなどの背に乗り、サタン、レヴィヤタン、アスモデウス、ベルゼブル、ルシフェル、マンモン、ベルフェゴールの七悪魔は地球へと旅立った。
にえ 初めて読みました、マヌエル・ムヒカ=ライネスの小説です。
すみ 読む前は、「七悪魔の旅」ってタイトルから、けっこう哲学的な難しい小説なのかと想像したり、「アルゼンチン発の傑作エンターテイメント」って売り文句から、けっこう気軽に読める小説だったりするのかしらと想像したり。その実体は、ちょうど中間?
にえ このばあいは気楽に愉快にってほうを強調した方がいいんじゃない? あまり身構えて読まれても困るだろうから。知識その他のきっちりとした詰め込みや哲学チックなところもあるのだけれど、なんだか作者が良い意味で力を抜いて書いたって楽しげな様子が伝わってきたし。
すみ はい、私は身構えて読みだしました(笑) そしてプロローグですぐに方向転換。こりゃどでかいバカ話が始まるぞ、と確信させるプロローグだったからね。
にえ そうそう、プロローグでのけぞったよね(笑) なにしろ大魔王のいるところには、「ファウスト」を書いたゲーテの肖像画が飾られていたり、「神曲」のダンテや「失楽園」のミルトンの鏡像がロバ耳になって置かれていたり、参考書として開くのは、16世紀の悪魔学者ペーター・ビンスフェルトの「魔法使いと魔女の信条の小冊子」だったり、魔術研究家フランシス・バレットの「魔術、天上報告」だったり。
すみ その本を書いた二人はこれを読むまで知らなかったんだけど、調べてみるとちゃんと実在してて、立派なオカルト学者さんみたいだね。知ってたら、ここでもうニンマリしまくりだっただろうな。
にえ とにかくまあ、知ってても知らなくても、え、地獄の大魔王が人間の書いたものを読んで参考にしてる? あんたたちこそ大家じゃないの、どうなっちゃってんのと驚きまくりだよね。
すみ おまけに悪魔たちはキリストを誘惑したのはだれかとか、ミルトンの小説の内容についてだとか、なんだか熱心に議論してみたり、自分が出てくる本を自慢していたり。ホントにどうなっちゃってんのだよね(笑)
にえ 地獄ってどこなのよってところにも引っかかりまくるよね。とにかく、人間世界へ行け、ではなくて、地球へ行け、なんだから。しかも、次の章のはじめに悪魔たちが「宇宙空間の冷気でひえている」こともわかるしね。ホントにどこなんでしょ?
すみ そういえば、天使も出てきたけど、あの方たちはどこから来てどこへ帰っていったんでしょう? 地球内なのか外なのか、地獄に近いのか遠いのか。
にえ あとさあ、悪魔がルーヴル美術館の絵はがきを持っていたりね(笑) 
すみ でもさあ、人間ありきのショボショボの悪魔たちかと思ったら、それはそうでもないよね。旅だって、時空を超えて好き勝手に行き来できるみたいだし。まあ、この時は大魔王の決めたとおりにしか動けなくなってるみたいだけど。
にえ その大魔王の決めた時間と場所に行くのに重要な役目をするのが、日本の悪魔が作った時計なんだけど、日本の悪魔ってなんでしょう?
すみ 鬼かなあ。でも、鬼が時計をつくるほど手先が器用には思えないけど(笑)
にえ まあ、そんな感じだから、けっこう浅い知識のままで、想像を楽しく広げて書いた小説なのかな〜なんて思ったり。
すみ 悪魔の行く先も、最初のほうの1443年のフランスのポワトゥー、79年のポンペイ、1898年の中国の皇帝の離宮、あたりまでは、だれでも知ってるような歴史をなぞるだけなのか、かなり浅いな〜と思ったりしたよ。その後、知らない話が出てくるようになって、ちぇ、浅いな〜って気持ちは消えたけど。
にえ でもさあ、ひねってはいないんだよね。悪魔のやることといえば、そうなるべくしてなったことの後押しをしたって程度で。
すみ 悪魔たちは「悪」って感じはしなかったよね。それぞれの章で関わる人間にもとからあった悪を引き出す、というか、心の底にある悪を押さえつけていた力をゆるめてやるって感じなんだけど、それが人間の弱さやなんかの欠点を容認してくれて、やさしいように思えたり。
にえ うん、美徳だけを強要する天使より人間の味方なんじゃないかって気さえしてくるよね。悪魔たちは貴族だそうで、なんかちょっと気どった感じが魅力的だったし。
すみ あとそうそう、旅の途中で乗り物にしている魔獣たちが労働組合をつくったりして、悪魔たちもなかなか大変そうなの(笑)
にえ 悪魔たちは人類史のいろんなところに現れて、それぞれの持つ罪である、倨傲、貪欲、嫉妬、暴食、憤怒、淫乱、怠惰という7つの罪を人間に果たさせていくの。そこにはそれぞれの物語が。
すみ 私たち的には、まあまあ、なかなか楽しめましたってことでよいかな。