すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「カレーソーセージをめぐるレーナの物語」 ウーヴェ・ティム (ドイツ)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
ドイツで庶民の味として人気のあるカレーソーセージを最初に考案したのはだれか? 僕はグロースノイマルクトに屋台を出していた、ブリュッカー夫人だと確信している。今はもう引退し、老人ホームにいたブリュッカー夫人を探しあてた僕は、カレーソーセージを作りだしたことについて話を聞くことにした。それは、1945年4月29日、日曜日から始まる、忘れがたい彼女自身の物語だった。
にえ イチイチ言うのも面倒くさくなってきた気がしますが、河出書房新社のModern&Classicシリーズの1冊です。
すみ だんだん言う必要もなくなってきたよね。前はこのシリーズといえば、だいたいまあ、読む前にこういう気構えが必要だという傾向と対策みたいなのができていたから、最初に言っておくのが大事だったけど、今はもう関係ないような。
にえ ほんとだよね、これもタイトルは変わってたけど、内容はいたってまっとうというか、これはもう文句なしの豊かな物語だった。
すみ 読みはじめてすぐに、よし、これは間違いない、と安心して物語り世界に浸りきれる小説ってあるけど、これはまさにそうだったね。読んでるあいだはドップリひたったし、読後は満足感と余韻にジワ〜ンとひたりきれた。
にえ 大満足だよね。このウーヴェ・ティムという作家さん、まったく存じ上げなかったんだけど、なんて滑らかで美しい物語を紡ぎ出す方なんだろう! 
すみ この小説は、モロ私たちの好みだよね〜。こういう女性の話は魅了されまくっちゃうな。
にえ なんというんだろう、ちょっとロマンスなわけだけど、時代は第二次世界大戦中、というか、ほぼ終わりかけの頃。なにせヒトラーとエヴァ・ブラウンが結婚した日から話が始まるのだから。で、舞台はドイツ、ハンブルグの町。これだけでももうグッと来るよね。
すみ 主人公のブリュッカー夫人は40代で、20才の娘と16才の息子がいるけど、戦争中ということもあって一緒には暮らしていないのよね。夫は浮気性で、他にも問題があったりして、遠くにいる。
にえ ブリュッカー夫人は役所の食堂で責任者として働いてるのよね。背は高く、胸は大きい方みたい。入党はしていなくて、わりと平気で思ったことを言っちゃう方で、当時の女性にしてはやけに堂々とした性格みたい。
すみ 問題の日曜日、ブリュッカー夫人は一人で映画を見に行くのよね。そこで知り合ったのが、休暇が終わって部隊に戻ろうとしている、海軍一等兵曹のブレーマー。
にえ ブレーマーは20代で、きれいな奥さんと1才になったばかりの息子がいるんだよね。で、これから入るのは、リューネブルグ荒野での最後の決戦に向かう部隊。つまり、戻れば死ぬってこと。
すみ それはあとの時代にいる私たちだから知っていることだけどね。でも、当時のブレーマーにも、おそらくそういうことになるだろうってわかってはいるんだけど。
にえ で、空襲がもとで親しさを増した二人は、ブリュッカー夫人の一人暮らしの部屋へ。翌朝、ブレーマーは部隊へと向かうはずだったけど、そのまま部屋に残ってしまう。
すみ 脱走兵ってことだよね。つまり、ブリュッカー夫人は息子といってもおかしくないような愛人と同棲し、その愛人を脱走兵として匿うということになるのだけれど。
にえ そうやって言うと、え、って感じだけど、読むとすごく納得がいくし、すべてが単純に説明できることではないってことがわかるよね。
すみ ブリュッカー夫人はさっぱりサバサバした潔い女性で、愛欲に溺れてどうのって感じじゃないしね。
にえ さて、それがカレーソーセージ誕生とどう結びついていくのか。
すみ 老いたブリュッカー夫人にそれを聞き出したくてたまらない「僕」が途中で何度も早合点するところはクスッとなったよね。私も一緒になって何度も、ここか!と思っちゃった(笑) 実際にわかったときには感動しまくっちゃったけど。
にえ ちなみにこのカレーソーセージなんだけど、ぶつ切りにしたソーセージを炒めて、ケチャップとカレー粉をぶっかけたものなんだって。この本を読むと美味しそうと涎が出そうになるけど、本当に食べたら美味しいかどうかは怪しいな。
すみ 巻末解説によると、ドイツでは庶民の味としてすっごく人気があるみたいね。美味しいカレーソーセージ屋を探せ、みたいなファンクラブもたくさんあるみたいで。
にえ 第二次世界大戦中、そしてその直後のドイツ、普通なら知り合うことも、まして一緒に暮らすなんてありえなかったはずの男女、そして、戦後を逞しく生き抜いた女性、それが庶民の味とどう結びつくか。いいよね、こういう物語を書いてくださる方がいるってだけでもう嬉しくなっちゃう。
すみ 作者は1940年生まれで、数々の文学賞を受賞していて、これが発表されたのが円熟期ともいえる53才の頃。楽しくて、ほんのり悲しくて、でも爽やかで逞しく、しっかりとドイツが描かれていて、読みだしたら止められない、でも、じっくりとした味わい深い語り口。さあ、どうよ(笑)ってことで、もちろんオススメです。