=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「グールド魚類画帖」 リチャード・フラナガン (オーストラリア)
<白水社 単行本> 【Amazon】
古い家具を加工し、アンティーク家具として観光客に売ることを生業としていた私は、「魚の本」に出会った。それは、ウィリアム・ビューロウ・グールドという男が書いた魚の絵と文章が綴られた本だった。 1827年、グールドは衣服を盗んだ罪でイギリス本土からタスマニアの孤島に流刑され、そこで肖像画や花の絵、そして魚の絵を描いた。その生涯は驚くべきものだった。 | |
これはオーストラリアの作家リチャード・フラナガンの初邦訳本です。 | |
リチャード・フラナガンはアイルランドからオーストラリアのタスマニアに流刑された曾祖父と曾祖母を持つということで、そのへんがこの本の主人公グールドにかなり反映されているのかな。 | |
流刑されたっていうと、イメージとしてはものすごい犯罪を犯したんだなって感じなんだけど、フラナガンの曾祖父は大飢饉の時にトウモロコシの粉を4キロばかり盗んだ罪、曾祖母は地主に逆らう秘密結社に所属していた疑いってことで、罪と罰の重さがまったく合ってないのよね。小説の中のグールドもまた、衣服を盗んだ罪ってことで、読めばわかるけど、ホントに罪なのかってぐらいの軽犯罪から過酷なことに。 | |
犯してもいない罪で絞首刑になりそうだし、罪人としての日々の暮らしは酷いなんてものじゃないしね。 | |
で、このグールドなんだけど、架空の人物かと思ったら、驚いたことに、じつは実在の人物だそうで。グールドの描いた絵は「ここ」で見ることができる、と巻末に紹介が。見つけづらいので、「Gould, William Buelow」(これをコピペすると楽かも)でトップページから検索すると出てきますよ。 | |
フラナガンはタスマニア州にある美術資料館で、このグールドの魚の絵を見て、この小説を思いついたんだってね。 | |
ちょっと紛らわしいけど、グールドの生涯を克明に調べて書いたっていうんじゃないんだよね。グールドという流刑囚でありながら絵を描いた人物の存在を知り、魚の絵を見て、そこからの連想、空想で小説を書いているのよね。 | |
とはいえ、ただの想像、とも片づけられないよね。フラナガンにはおそらく曾祖父、曾祖母から語り継がれたタスマニア流刑民の歴史の生きた知識があり、そのうえ、歴史関係の著書もあるってことだから。 | |
背景に書かれた歴史の流れ、タスマニアとタスマニアの流刑囚についての描写、などについては、克明で正確、と言っていいのかもね。 | |
信じがたいけどね〜。流刑囚に対するメチャクチャな扱いについてもそうだけど、もっと凄まじいのはタスマニア原住民に対する残虐行為。狩りの獲物のように見つけては殺し、頭は切り取って樽漬けに。樽のなかには頭がいくつも、ごろごろと・・・。これも本当なのかな。 | |
わからないけど、でも、人を人とも思わず残虐な殺し方をしていたというのは事実だろうね。 | |
けっこうどす黒い内容だよね、それがなんとなく人間っぽいような表情、というか、性格がありそうな魚の絵とあいまって、不思議とファンタジックな感触の物語になっていたりもするんだけど。 | |
魚の顔なみの滑稽さもあるよね。グールドは流刑でタスマニア島に来たあと、軍人とか軍医とか、いろんな人と出会うんだけど、それがまたまともとは思えないような、しかも、ちょっと怪しげな人たちで。 | |
ストーリーについては、最後まで読んだ時点で頭を掻き回されて、なんだったんだろうってまだ私は「?」状態なんだけどね。 | |
私はこういうことなのかなっていちおう自分なりに理解はしたんだけど、あんまり自信はないから言いたくはないかな(笑) | |
読んでる最中もかなり変な感じではあったんだよね。流れに沿って語られていくのに、突如として、え、なに、どこからどうしてそうなったの?ってなっちゃった箇所がいくつもあって。 | |
章ごとに魚の名前がついていて、その魚を描いたグールドの絵が最初にあるのよね。だから私は読む前、各章が独立してて、連作短篇みたいになってるのかと思った。読んでみると、そうではなくて、ずっと続きのお話だったんだけど。 | |
とにかく、とにかく変わった感触だよね。かなり濃厚で、好き嫌いは分かれそうだけど、ぐねぐねと、人をくったようなふざけぶりの奥にストレートな叫びというか、圧してくるような迫力がたしかにあって、とにかく惹かれまくって読んでしまった。 | |
どんな話って説明はしづらいよね。絵を描く流刑囚の置かれた状況がどんどん悪くなっていく話とでも言えばいいのか。とにかくじっくり読みたい派の人も、これはいったん通しで読んでみて、それから丹念に読み返すって感じにした方がいいんじゃないかな。へたに1ページにとどまってると、永遠に進めなくなりそうな。 | |
そういう言い方をすると、ストーリーのない小説はいやだって言われない? そういう退屈さはなかったので念のため。しっかり物語に引っぱられました。 | |
それにしても、印字のことについては残念だな〜。邦訳本では最初と最後の章が黒い字で、あいだの章が茶色になっているんだけど、本当はグールドが手近にあるものを使って書きつづけたっていう設定から、血の色の赤、イカスミと排泄物のセピア色、アヘンチンキの緑色、貴石を砕いた青色、ウニの棘をすりつぶした紫色、そして黒、と原書では6色になっているそうで、本文中にもそれについての言及が何度もあるの。絵の印刷のほうでお金がかかり過ぎちゃったのかな〜、それにしても惜しい。 | |
そうだね、ここまできたら徹底して奇書らしい雰囲気を出しまくって欲しかったよね。それにしても、最後の最後の「後記」のところ、あれはやっぱりそういうことなの? あれ見た瞬間にみんな最初のページから読み返したくなっちゃうんじゃないかな。まあ、いいや(笑)、とにかく好きそうな方にはオススメです。 | |