すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「夏の家、その後」 ユーディット・ヘルマン (ドイツ)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
ドイツの新鋭作家ユーディット・ヘルマンのデビュー短編集。
紅珊瑚/ハリケーン(サヨナラのかたち)/ソニヤ/何かの終わり/バリの女/ハンター・ジョンソンの音楽/夏の家、その後/カメラ=オブスキュラ/オーダー川のこちら側
にえ あいかわらずドンドン出てます、河出書房新社のModern&Classicシリーズの1冊です。
すみ このシリーズの傾向はもうわかった、いろんな意味でちょっと変わったテイストの小説を集めているのね、だから統一感がないようにも思えるけど、じつは統一感があるのね、なんて言っていたけど、この1冊で前言撤回、またまったくわからなくなりました〜、だよね。
にえ わからなくなった〜。この短編集はぜんぜん変じゃないの。しかも、このユーディット・ヘルマンの短編集は、無名の新人でありながら、大ベストセラーとなり、辛口の批評家にまで絶賛されたというもので、邪道のものどころか、王道の超一級品。
すみ 河出書房新社のModern&Classicシリーズを好んで読む方より、新潮社のクレストブックスを好んで読む方に向いてるって気がするよね。
にえ ホントに素晴らしかった。ブンガクを読んでる〜って感動が読んでる最中からこみ上げてきてしまった。
すみ 日常のなにげない一時期を切り取ったようなお話がほとんどなのよね。さりげなく語られる出来事、描写される情景に素晴らしく深みがあって、ズーンとくる読後感があって。
にえ 著者近影を見ると、いかにも繊細そうな女性で、この短編集は28才の時に発表されたみたいなんだけど、読むと、なんだろう、28才の若い感覚がしっかり盛りこまれているんだけど、人生を達観した、もっともっと上の年齢のような洞察力とか、理解力とか、そういうものを感じるし、なんといっても弱々しくないのよね、傷つきやすそうな人とかが登場人物としては出てきてるんだけど。
すみ 作者が突き放したような態度をとってるからじゃないかな。同情的には書いてないよね。あまりにもサラッと書いていて、逆にそれによってこっちはズキッとしてしまう。
にえ あーもーホントに凄いよね。どちらかというとアメリカ純文学系が好きな人とかに読んでみてほしいかも。どの国についてもよくわかってない私がボワワンと読んだ感触では、ドイツ文学って意識するような感じじゃないの。むしろ、アメリカ文学に期待の大新星あらわるって紹介されたほうが、なるほど、と納得して読めるような。
すみ かなり感情描写をおさえてるよね。淡々と行動だけで心情を伝えていく感じだから、読んでる感触はまったくウエットさがなく、サラッとしているの。でも、乾いてはいないのだなあ。
にえ 奇抜なストーリーではなくて、どこかにいそうな登場人物、どこかで起こりそうな出来事が書かれているのに、特別なものを読んでいるっていう鮮やかすぎるほど鮮やかな味わいがあって、一語一句逃したくないって気持ちで読まされたり、逆に「紅珊瑚」や「ソニヤ」みたいに、長編一編分ぐらいのストーリー性のあるものをさらさらと読めてしまったり。とにかく読んでるうちに、凄い作家に出会った〜って実感がヒシヒシとわいてきた。
すみ 上手いを超えた上手さだよね。こういう卓越した感覚を持った作家って、やっぱりいつの時代にもいるのだな〜。とにかく素晴らしかったです。超オススメっ。
<紅珊瑚>
ドイツからロシアのワシーリエフスキー島に渡ってきた夫婦。夫はロシア人のために炉をつくる仕事で家をあけ、残された妻は、彼女の美しさに惹かれて集まる芸術家や学者たちに囲まれて暮らしていた。それが、私の曾祖母だった。
<ハリケーン(サヨナラのかたち)>
島で暮らすカスパーに会うため、カスパーの恋人ノラとその友人クリスティーネは島を訪れた。キャットという島の男はクリスティーネに気があるらしい。グアバやマンゴー、パパイヤ、子どもの頭ほどもあるレモン・・・のどかな暮らしはハリケーンの到来によって終わりを告げる。
<ソニヤ>
恋人のヴェレナを訪ねた帰り、ハンブルグからベルリンへ向かう列車のなかで、ぼくはソニヤと出会った。ソニヤは当たり前のようにぼくに近づき、電話番号を渡してきた。
<何かの終わり>
ゾフィーは亡くなった祖母の最後の年の話をはじめた。寝たきりの祖母は18才になる孫の誕生日に、プレゼントを持って出かけた。それが最後の外出だった。
<バリの女>
友人のクリスティアーネは映画監督に恋をしていた。しかし、その監督には妻がいた。バリ島出身の小柄で、近寄りがたさのある女性だった。私たちは映画監督の家に招かれた。
<ハンター・ジョンソンの音楽>
老人向けホテルに住むハンターは、ある夜、自分の部屋のドアの前に、バスローブを着た娘が立っているのに気づいた。娘は旅行中にテープレコーダーを盗まれ、音楽を聴くことができなくなった。それでハンターの部屋から漏れ聞こえるバッハの調べに耳を傾けていたのだ。
<夏の家、その後>
シュタインが家を見つけたと電話をかけてきた。シュタインは美しい容姿のタクシードライバーで、それまでは女の部屋に転がり込んだり、タクシーのなかで寝たりして過ごしていた。
<カメラ=オブスキュラ>
美しいマリーは、背が低く、醜い容姿をしたアーティストとつきあっている。アーティストはコンピュータでアートを製作していて、ベルリンでは有名人だった。マリーは自分が彼の名声に惹かれているのか、自分を引き立たせる醜い容姿に惹かれているのかわからなかった。
<オーダー川のこちら側>
コバーリングの夏の家に、昔の友人ピエロ親父の娘あんながマリファナ野郎を連れて訪ねてきた。2、3日、泊めてほしいという。妻のコンスタンツェと小さな息子のマックスは彼らを歓迎したが、コバーリングは彼らのなにもかもが気に入らなかった。