すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「石の思い出」 A・E・フェルスマン (ロシア)  <草思社 単行本> 【Amazon】
ロシアの鉱物学者アレキサンドル・エフゲニェビッチ・フェルスマン(1883年〜1945年)の石にまつわるさまざまな思い出のエッセイ集。
にえ これは昭和31年に理論社から出た「石の思いで」の新訳です。
すみ 前から読みたかったんだよね〜。なにで見たのか忘れたけど、この本の題名は何度も目にしてた。少年時代にこの本を読んで鉱物学者を目指したとか、アレキサンドライトといえば、フェルスマンの「石の思いで」で、とかさりげなく語っちゃうとか、そういう方が多くて。
にえ よほどの名著なんだろうなとかなり気になってたよね。しかも、なんというのか、この本について語るときの大切そうな、温かげな語り口が気になる、気になる(笑)
すみ 新訳だけど、前の訳のほうがよかったんじゃないかとか、そういう心配はまったくいらないよね、「石の思いで」の訳者の方がこの新訳も手がけてらっしゃるから。
にえ 鉱物学を専門としてらっしゃる方なんだよね、だからこの本の原文が美しい詩のようだ、という噂も聞いてて、訳者が文章家の方じゃないのか〜とちょっと思ったけど、それも心配なし。なにしろ「石の思いで」で翻訳出版文化賞を受賞しているくらいの名訳ですからっ。
すみ ついでに言っておくと、「石の思いで」を読んだことのある方も、また読んだほうがいいかも、だよね。いくつかの作品には訳者の最新の鉱物学を紹介した追記がついてるし、「石の思いで」では入っていなかった章が新たに2つ加えられてて。
にえ 「ダイヤモンド『シャー』」と「パミールの青い石」が前の本では入ってなかったんだよね。これは原著のほうでは1958年版から加えられているそうで、遺稿として発見されたものなんだって。そのぶん、「石の思いで」に入っていた「ダイヤモンド」と「地底へ向かって」は省かれたそうなんだけど。
すみ とにかく、読みたかった本が新訳で読めるなんて幸せだよね〜。カラー写真や地図がついていたのもうれしかったし。挿絵は必要ないかなとは思ったけど(笑)
にえ どんな本かといえば、鉱物学者がいろんな石にまつわる思い出を各章で語っているというものなのだけど、これがよいのよね。
すみ 読者対象が中学生以上ってぐらいだから、どちらかというと、鉱物学の知識があまり、というか、ほとんどない人に向けて書かれた本だよね。そういう人に鉱物学の魅力を伝えようとして書かれているの。
にえ なんといっても、石への愛情にあふれていたよね。なにしろエピソードのなかでは鉱物学者が鉱脈を探したりするんだから、私たちが山に登ってきれいな石を拾ってくるのとはぜんぜんレベルが違うんだけど、でも、そういう「わ〜、きれいな石」って拾わずにはいられない気持ち、そういう気持ちこそ大切だと言ってくれているようで、なんだかとても共感してしまうの。
すみ 美しい石の描写にはワクワクしてしまったね。なんといっても女性を魅了してやまない、宝石の話もたくさん出てきたし。
にえ 宝石の魅力に取り憑かれた奥さんと、その奥さんのために身を滅ぼした夫の話とかも出てきたよね。
すみ あと、石の魅力に我を忘れて、悲劇に見舞われる女性の話もあったよね。あれは辛い話だけど、そうなっちゃうのもわからなくないなと思ってしまった。
にえ 宝石といえば、なんといっても王様はダイヤモンド。数奇な運命をたどったダイヤモンド「シャー」は写真もついてて、その迫力にはのけぞった。
すみ 宝石以外でも、ロシアの方の碧玉に対する思いの強さには驚くものがあったね。あと、アレキサンドル石(アレキサンドライト)については、もっと語ってくれ〜と思ったり。とにかくロシアの広大な大地からは、驚くほどいろんな美しい石が出てくるんだもん。
にえ 今となっては掘りすぎてなくなってしまったものが多いみたいだけどね。あと、ときおりみせるユーモアの感覚もあたたかで、思わずつられて微笑んじゃう感じが好きだったな〜。第15章の「言葉の誕生」の冒頭では、つい声を上げて笑ってしまったのだけど。
すみ 第10章の「天青石」では短編小説のようなものが書かれていたよね。鉱物学に興味のあるらしき青年と、その恋人らしきナエミという娘の話。二人が天青石を採りに行く話なんだけど、これがまた素敵なの。
にえ 調査に行った先で人々にふれあう話はどれも印象深かったよね。老婆が語ってくれた石にまつわる古い言い伝えとか、頭の黒い石しか採れなくなった理由の言い伝えとか。
すみ 学者たちの語らいとかはちょっと話が難しくなるけど、みんな人柄の良さ、人格の素晴らしさが伝わってきて、素敵だな〜と思わずにはいられなかったね。世界中のノーベル賞受賞の学者がゾロゾロ出てくるの。そんなアカデミックな世界へは本を読まないかぎり踏み込めませんって(笑)
にえ 書かれた年代の古さを感じる、ゆったりとしたエッセー集なんだけど、その古さ、ゆっくりさも魅力だったよね。
すみ とにかく読んでいて心地よかった。刺激の強い本ではないし、知識ももう古くなっているのかもしれないけど、名著として読み継がれ、いまだにこの本で鉱物学の道に進む決意をする人がいるっていうのもものすごく頷けた。あと、出てきた石のなかでカラー写真にないものをネットで検索して、ああ、こんな石なのか〜と見るのもまた楽しかった。鉱物学に興味がなくても、石はわりと好きってぐらいの方なら充分楽しめるんじゃないかな。オススメです。