すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「エデンの東」 上・下 ジョン・スタインベック (アメリカ)  <早川書房 単行本> 【Amazon】 (上) (下)
1862年、アダム・トラスクはコネチカット州の農家に生まれた。その頃、父のサイラスは南北戦争に一兵士として参加していたが、6ヶ月後には右脚を義足にして帰ってきた。戦闘に出てすぐの負傷だった。その後、母は亡くなり、父は再婚して、次男のチャールズが生まれた。 サイラスは軍隊の想い出をしだいに誇張しはじめ、熱心に研究するあまり、いつのまにかひとかどの人物となっていた。そして、妻も子供たちも巻き込んで、家庭を軍隊のように仕立て上げた。暴力を嫌い、父に反感を持つアダムと、父を尊敬し、暴力をも厭わないチャールズ、しかし、父が愛したのはアダムだった。
にえ 「エデンの東」の新訳が出たので読んでみました。私たちにとっては翻訳違いの再読ということになります。
すみ 「エデンの東」は学生のころに読んで、すっごい感動もしたんだけど、旧訳が読みづらく感じられて、ず〜っと新訳出てほしいって言ってたんだよね。
にえ うん、でも、本当に出るとは思ってなかった。それだけに嬉しいなあ。
すみ 今度は引っかかることもなく、すんなりスルスルッと読めたよね。おかげで、物語全体が見渡しやすくなったって感じ。
にえ だいぶ前に読んだ本って、読み返しても、あれ、こんなのだっけ?って、ほとんど思い出せないものが多いんだけど、これは読んでいって、ほとんどのエピソードに、うんうん、そうだった、と頷けたな。いくつかは他の本で読んだと勘違いしていたし、いくつか思い出せないのがあったりはしたけど。
すみ でもさあ、ストーリーとか登場人物とかは覚えていても、全体的なイメージというか、感触は読んで初めて思い出せたってところがあるよね。辛く苦しいところもあり、いかにも聖書を下敷きにした悲劇だなってところもあるのだけど、19世紀からはじまるアメリカを舞台とした雄大な物語で、広々とした大地、時代の移り変わり、そういうものを肌で感じながら読めるし、微笑ましいエピソードも随所に出てくるし、なんかゆったりと読めるんだよね。そうだ、そういうところが好きだったんだと思い出した。
にえ それだったら、私はアダムかな。魅力的な登場人物がたくさん出てくるなかで、アダムってなんだか印象に残るところがないでしょ。ああ、そうだった、こういう人だったって読みながら思いだした。
すみ うんうん、アダムって、自分より数段、賢く、器の大きな人に助けられ、守られるけど、本人はわりと自分のことしか考えてなくて、べつにこれと言って他人に幸せを与えるような人じゃないよね。なんでここまでよくしてもらえるの? と前に読んだときも思った。
にえ なんといっても「アダム」だから、ああいう白紙みたいな人でいいんだろうね(笑) 人を悪く思ったりとか決してしなくて、素直で、感謝の気持ちを忘れない人だけど、なんか地に足がついてないんだよね。父性本能をくすぐるタイプなのかも。
すみ 物語としては、父、義母、アダム、半弟のチャーリーという家族4人が、互いに愛されたい人に愛されないという関係、そこから来る愛憎劇、そういうところから始まって、やがてアダムが行く開拓地、カリフォルニア州サリーナスへと話が移っていくのよね。
にえ トラスク家は、アダムとチャーリーがまずカインとアベルのような関係で、そのあと、アダムの子供である二卵性双子のキャルとアロンがまたしてもカインとアベルのような関係になってしまうのよね。それはすべて愛情の飢えに起因するのだけど。
すみ アダムに対するイブである、キャシーという女性はとんでもない悪女だよね。イブというより蛇だな。冷たい目で悪だけを見据える性悪さは、もう気持ちよくなるぐらいに徹底しているの。
にえ だけどこの家族で、なんと言っても、もっとも魅力があるはリーでしょ。とても教養のある中国人なのだけれど、なぜかトラスト家の使用人として、アダムにつくすことになるの。
すみ うん、リーの魅力は再読でも衰えなかったね。哲学的思考あり、ユーモアたっぷりの言動あり、ここぞってときの素晴らしい行動力あり、もうホントに魅了されちゃう。
にえ このトラスク家と平行するように語られるのがハミルトン家なんだよね。こっちの家族がまた魅力的。アイルランド移民のサミュエルとライザから始まるんだけど。
すみ サミュエルは大らかなユーモアで常に人を楽しませ、発明家で読書家、それに人の痛みというものを本当によく知っている人なんだよね。痩せた土地でたくさんの子供たちを育て、ずっと貧しいままだけど、これほど豊かな人生を送った人はいないんじゃないかというぐらい、みんなに敬愛されていて。
にえ ライザは信仰心が厚くて、融通の利かない女性なんだよね。家事を完璧にこなして、がっちり家庭を守っていく賢母でもあるんだけど。この正反対の夫婦の関係がまた良いのよ。
すみ 良い家庭に育った子供たちは、それぞれ個性たっぷりの良い大人になっていくけど、みんながみんな、幸せに人生を送れるともかぎらないのよね。この家族に起きる出来事には、ジーンと来るものが多かったなあ。
にえ サミュエルとライザの孫がジョン・アーネスト・スタインベックで、そのままこの小説の語り手でもあるのよね。じつはこの設定がまったく記憶になくて、再読で一番驚いたのがこれだったりもするんだけど(笑)
すみ どこまでが本当なのか、細かいところはわからないけど、愛情たっぷりに語られていることは確かだよね。飛行機に乗る話とか、好きだったな〜。それぞれの家族を思う気持ちの違いにもズキズキ来たし。
にえ トラスク家とハミルトン家は、血の結びつきとか、直接の愛憎関係はないけど、いろんな関わりを持ちつづけるのよね。一番強い関係は、サミュエルとリーの高き魂の出会いって気はするけど。
すみ これまで読んだなかでなにが一番近いかといえば、ストーリーはまったく違うけど、「風と共に去りぬ」が一番近いかな。ちょっと前後してるけど、まだまだ開拓が進んでいるアメリカの時代背景とか、背景の広がりとか、どんどんストーリーは進んでいっても、どこかゆったりとした印象があるところとか。とにかく多くの方に読んでいただきたいです。スタインベックもじつは、この作品が一番のお気に入りだったんですって。もちろん、オススメです。