すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ヴィーナス・プラスX」 シオドア・スタージョン (アメリカ)  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
ローラという愛する女性に出会えた喜びでいっぱいだったチャーリー・ジョンズは、目を開くと銀色の空の下にいた。そこは、人間とは似て非なる容姿のレダム人たちが住む世界だった。 やさしく親切なレダム人たちは、チャーリーにも温かい態度で接し、この世界のことを知って欲しい、そして、レダム人社会を客観的な目で見て、率直な意見を教えてほしいと言ってきた。
にえ これは私たちにとっては初めてのシオドア・スタージョンの長編となりました。
すみ 新刊を追って、短編3冊を読んだけれど、既刊の長編はいつ読むんだろうって感じだったけど、結局、長編も新刊ものを読むことになったねえ。
にえ 今まで読んだ短編とは、また雰囲気が違っていたよね。なんか、これを語りたいって目標意識が強く感じられたというか。
すみ そんなことより正直なところ、全体にちょっとユルイなって気はしたけど。楽しんで読めたんだから、まあいいか。
にえ そうそう。特にラストのほうの畳みかけるような驚きの連続は、そ、そういうことだったの?!ってドキドキして、ホント楽しかったよね。
すみ ストーリーは、2つの軸があって、それが並行して進んでいくんだよね。ひとつは、レダム人たちの住む世界に瞬間移動してしまったらしき、チャーリー・ジョンズという青年の話。
にえ 別の惑星に連れてこられたのか、未来にタイムトラベルさせられたのか、まったくわからないまま、レダム語を話す、人間とは明らかに容姿もファッションも違う人たちに取り囲まれちゃうんだよね。
すみ それは銀色で、なにやらシェルターのようなもので覆われてるみたいなのよね。その中で、レダム人たちは穏やかに暮らしているの。
にえ 文明はあきらかに2005年現在の地球より進んでいるよね。その世界を案内されて、チャーリーはカルチャーショックを覚えっぱなし。
すみ でも、チャーリーが何より驚いたのは、科学の発達ぶりとかより、レダム人の在り方だよね。出版社の内容紹介に書かれちゃってるから、隠してもしょうがないんで言うけど、レダム人は男でも女でもないんだよね。
にえ じゃあ、どうやって子供を作るのかとか、結婚はしないのかとか、そのへんについてはかなり奇抜というか、奇妙だよね、もちろん、私たちから見るとってことだけど。
すみ んで、もうひとつの話は、閑静な住宅街らしきところに住む、広告代理店勤務で、子供が二人いるハーブ・レイルって男の人の話。
にえ この人は、ごくごく普通に暮らしてるのよね。まあ、ごくごく普通といっても、これは1960年に書き上げられた作品みたいだから、45年前のアメリカ人ってことなんだけど。
すみ ハーブの子供は男の子と女の子で、友人夫婦の小競り合いにちょこっと巻き込まれたり、妻の言動をつい観察してみたりすることもあって、男と女って区別はなんだろうって考えはじめるのよね。
にえ つまり、この小説がジェンダー小説といわれるゆえんはそこにあるんだろうね。異世界で、そして現代世界で、それぞれに男女というものを強く意識し、考えさせられる二人の男。
すみ 約45年前の作品ってことで、今とはちょっと違うよね。女性が科学的なことを理解しようともしないとか、セックスのことを口にするのは罪悪だと信じきって育っただろうとか書かれてるけど。
にえ だけど、男女の役割分担がどんどんハッキリされなくなってきている現代のほうが、より男女間の差を感じるってところはあるよね。少なくとも私はそうなんだけど。
すみ うん、たしかにチャーリーやハーブの社会と今は違うけど、こうやってあらためて、人間はどうして長い間、男女の区別をクッキリつけ続けてきたんだって繰り返し問われると、現代社会もひっくるめて考えさせられちゃうよね。
にえ まあ、問いかけじたいは面白いとおもったところも多々あったけど、哲学的に深掘りされてウウッと呻き声をあげそうになったりもしたけどね(笑) あとさあ、これってユートピア小説でもあるってことで、レダム人の世界がまさにユートピアってことになるんだけど、これについては私はかなり複雑な気持ちにさせられたな〜。
すみ やっぱり男女は違ってた方がいいんだ! と強く叫びたいところだけど、穏やかに暮らすレダム人がちょっと羨ましくもなってしまったよね。
にえ そうなのよ。もしくは、過去の時代のように男女の役割分担がハッキリしていたほうがいっそのこと楽だったんじゃないかとかね。でも、過去の時代のほうが現代より幸せだったとはぜったいに言えないし。あと、便利になっていくと言われながら、どんどん新しいことを学んでいかなくてはついて行けない世の中になってるでしょ、レダム人の世界は、それと比べてとても楽そうで、暮らしやすそう。
すみ なんか考えさせられる小説だったよね。んでもって、ラストのほうにはたしかに驚きいっぱいでワクワクさせられたんだけど、最終的な締めにあたるラストについては、かなりモヤ〜っとした感じが残ったし。複雑な気持ちにさせられる小説でしたってことで。