すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ラヴクラフト全集 2」 H・P・ラヴクラフト (アメリカ)  <東京創元社 文庫本> 【Amazon】
幻想と怪奇の作家H・P・ラヴクラフト(1890〜1937年)の作品集(全7巻)。第2巻は短編小説2編と随一の長編1編を収録。
クトゥルフの呼び声/エーリッヒ・ツァンの音楽/チャールズ・ウォードの奇怪な事件
にえ 「ラヴクラフト全集」の第2巻です。この巻は、短編が2つ、そしてラヴクラフト作品には珍しいという長編が1編収録されているのよね。
すみ 裏表紙にこの長編「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」はラヴクラフトの3大長編のうちの1つだって書いてあったね。
にえ さすがに読み応え充分だった〜。長い時間の複雑な物語を悪魔的な謎解き含みで少しずつ見せてくれていって、読んでてワクワクしてしまった。
すみ でもさあ、この長編も他の2つの短篇もだけど、怖くはなかったよね、おもしろかったけど。
にえ そうそう、第1巻では、怖い、怖いって大騒ぎしたけどね〜(笑) 
すみ 第1巻でもちょっと感じた、この時代の白人ならではの差別意識がこっちではかなりハッキリ出てたりもしたよね。まあ、今になってそれを指摘してもしょうがないんだけど。
にえ 「クトゥルフの呼び声」で特に顕著だったよね。この作品、そういうのを抜いて考えても、どうなんだろうって気はしたけど。
すみ とはいえ、ラヴクラフトといえばクトゥルー神話なんだから、内容じたいがどうとしても、これの存在意義は大きいんじゃない。とりあえず、これも読んで良かったってことよ。
<クトゥルフの呼び声>
1926年冬、大伯父であるジョージ・ガムメル・エインジェル教授が亡くなって、唯一の後継者で遺言執行者でもあるぼくは、大伯父の遺した書類をすべてボストンの家に持ち帰った。そのなかには、表紙に「クトゥルフ教のこと」と書かれたノートがあった。1925年に若き彫刻家ウィルコックス青年の見た不思議な夢、1908年にルグラース警部がヴードゥー教徒の不法集会らしきもので入手したグロテスクな石像、そして、1925年に海賊船に襲われ、その後、あるはずのない島に行ったという船員の話・・・これらは一体なにを意味するのか。
にえ うぉー、第2巻の冒頭から、クトゥルフの謎がわかってしまう〜! と興奮しながら読んだけど、う〜ん、これはどうなんでしょ〜。
すみ 世界各地のいろんな現象とかが結びついていって、どんどん盛り上がっていく面白い話ではあったよね。でも、クトゥルフの正体については、ちょっとなんだったかな。
にえ 途中で何度か、ダンセイニ卿を思い出すような記述があったんだけど、ダンセイニ卿と比べたら、可哀想かなと思ってしまったんだけど。なんか、ねえ、この程度のものだったのか。言い過ぎかもしれないけど、クトゥルフがあまりにも子供騙しっていうか、陳腐っていうか・・・。
すみ 大事そうな言葉だから、これだけは記しておくね。
「フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー・ウガ=ナグル・フタグン」
(死せるクトゥルフが、ル・リエーの家で、夢見ながら待っている。)
<エーリッヒ・ツァンの音楽>
わたしは学生の頃、オーゼイユ街というところにある古家の5階に住んでいた。その家の屋根裏には、エーリッヒ・ツァンというドイツ人の老人が住んでいて、ヴィオル(ヴァイオリン以前に愛好された6絃の楽器)でこの世ならぬ調べを奏でていた。
にえ 今となっては、探しても見つからないオーゼイユ街、ヴィオルを弾く老人、老人がひた隠しにする何者かの存在・・・これは短くてもきれいにまとまっていて、良かったな。
すみ 謎をあんまり明確に書いていないところが幻想的で、良い雰囲気だったよね。ホントに短編らしい短編だった。
<チャールズ・ウォードの奇怪な事件>
ロード・アイランドのプロヴィデンスに近い精神病院に収容されていた、26才の青年チャールズ・ウォードが失踪した。チャールズは子供の頃から古物愛好家の傾向にあり、1919年8月、自分の先祖でありながら、その存在をひた隠しにされていたジョゼフ・カーウィンという謎の男が遺した2つの品を発見してからは、その研究に文字どおり、すべてを捧げるようになってしまった。
にえ この長編はおもしろかった〜。珍しく、スッキリとするラストだったしね。
すみ チャールズ青年が一体いつから精神に異常をきたしたのかって話から始まって、そこから200年ぐらい遡って、何年経ってもまったく歳をとらず、なにか秘密裏のうちに行っていたらしきジョゼフ・カーウィンの話になって、それからまたチャールズ青年の不可思議な行動の数々が紹介されていき、とウネウネしながらも、一つの方向へ話は進んでいき、最後にはすべてが見えてくるんだよね。
にえ ホントにもう隅々まで、シッカリ完成されてるお話だったよね。過去の話のエピソードなんて、ちょっと硬質的な感じが話の内容をよりリアルにして、雰囲気も満点だったし。
すみ 巻末解説によると、この作品はラヴクラフトも物凄く思い入れが強くて、そのため生前は編集者に渡さず、発表されたのは死後4年めになってからだとか。わかる〜。ホントに練り上げられた素晴らしい完成度だもの。