すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「待ち合わせ」 クリスチャン・オステール (フランス)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
フランシスはいつもの待ち合わせ場所で、3ヶ月前に別れた恋人クレマンスを待っていた。しかし、クレマンスは現れない。それでもフランシスはいつもの時間に、いつもの場所で、クレマンスを待ちつづけた。 その日もクレマンスは現れないので、フランシスは幼なじみのシモンを呼び出した。シモンはすぐにやって来て、妻のオドレイが出て行ってしまったと話した。
にえ これは、なぜか私たちが読み続けている、と言い続けている、河出書房新社のModern&Classicシリーズの1冊です。
すみ 毎度、毎度、このシリーズのコンセプトはなんなんだろうと悩まされるけど、この本でようやく確信した、やっぱりこのシリーズのコンセプトは、「世界中からちょっと風変わりで、他の出版社はおそらく邦訳出版しないだろう作品をあえて集める」で間違いないね、違うかな(笑)
にえ この「待ち合わせ」に関しては、著者の紹介から度肝を抜かれたんだけど(笑) ミニュイ社という出版社の中堅作家、だって。
すみ そうねえ、翻訳本というと、その国で1、2を争う人気作家だとか実力作家だとか、ノーベル文学賞候補との呼び声が高いとか、多国語に訳された大ベストセラーだとか、権威ある文学賞をとった作品だとか、そういうなにかしらのハクのあるものが大半を占めているもんね。
にえ でしょう、賞もとっていないし、ベストセラーでもなく、地位的にも出版社内の中堅どころって作家の作品は、翻訳本では珍しいよね。じゃあ、なんであえてこれを選んで邦訳出版したのってツッコミたくなる(笑)
すみ いや、でも、かなり風変わりな読感で、Modern&Classicシリーズにはふさわしいって感じはしたよね。
にえ そうだね、このシリーズで紹介された小説って、ちょっと変わってるんだけど、ものすごく個性的で一部の熱狂的ファンを作ってしまうってほどのパワーはないような、そういう不思議な位置にあるようなものが多かったけど、これもそうだった。
すみ なんかでも、他のもだいたいそうだったけど、いい読書経験にはなったな、とまずまず納得もするよね。これもなんだか不思議な感じが残って、読めて良かったという気にはなれたんだけど。
にえ 先に読んだ私はじつは、2、3行読んだ時点で、パスしようかな〜とかなり強く思ったりはしたんだけどね(笑) なんか合わないパターンの小説っぽくて。
すみ え〜、でも、最初っから妙な違和感みたいなものがあって、それが読み進めるとどんどん妙度が高まっていって、ラストはホントに妙な感じで読み終わって、で、なかなかおもしろかったんじゃない?
にえ そうね、まあ、最初に予感してたほど面白くなくはなかったかな(笑)
すみ 文章もかなり変わってるんだよね。会話部分の「かぎ括弧」なしで、一文が時にウネウネと長ったらしい、と、まあ、最近では珍しいってほどではないんだけど、でも、この方にはこの方の独特さがあって。
にえ おもに男性主人公のフランシスの考えていることの描写がウネウネとしていたよね。頭の中の思考回路そのものがウネウネしてるみたいで。
すみ 理論的なようで、じつはこじつけやら歪んだ方向性だったりして、どうしようかと考えているようで、じつはむりやりにでも納得するために自分を屁理屈で説得しているみたいな、そういう感じだよね。だからウネウネした文章がピッタリだった。
にえ 出だしから訳わかんないもんね。きちんと約束したわけでもないのに、3ヶ月前に別れたクレマンスという恋人を待ち合わせ場所で待ってるの。
すみ しかも、クレマンスを愛し続けていたからってわけでもなさそうなんだよね。別れたからこそ邪魔もなく、愛することを続けられる、みたいなことを言っていて。やり直したいとか、絶対にまた一緒に居られるようになりたいとか、そういう感情はないみたい。
にえ あとのほうになってくると、もうムリクリのこじつけがましい自己説得みたいになっていくけどね。とにかく変わった、というか、理解しがたい思考回路だった。
すみ で、待っても待ってもクレマンスは現れないから、幼なじみのシモンを呼び出すことに。シモンは動物園勤務で、なんとその動物園のなかの猛獣館の2階に住んでるの。
にえ 奥さんが出ていって、男の子が二人残されているのよね。子供がいるのに猛獣館の2階に住んでいて、しかも子供に猛獣を触らせようとしたりもして、これはもう小説の中だけの設定だなあ。
すみ それを言ったら、なにもかもが小説だからの設定だよね。その後、少しずつ人間関係がおかしくなっていくんだけど、それがもう、現実とのわずかなズレとはいえ、作り物でしか有り得ないような話で。
にえ 主人公が巻き込まれて流されてっていう話はよくあるけど、こういう巻き込まれて流されるために自分の嗜好まで変えていこうとするような主人公は初めてだったよね。それだけに、あのラストでは、うわ、これってどうなるの?って強く思ったのだけれど。
すみ とにかくまあ、うっすらと変わった小説だよね。ものすごく変わった小説を期待するとガッカリするかもしれないけど、淡々と読んでいけば、そのうっすら妙な感じが、ちょっとおもしろくもなっていくかも。ずっと中堅作家でいられるってことは、買って読みつづけている読者があるていどの人数はいるってことで、読んでみて、それについてはものすごく納得したよ。なんか、クセになりそう(笑)