=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「長い日曜日」 セバスチアン・ジャプリゾ (フランス)
<東京創元社 文庫本> 【Amazon】
1919年夏、マチルドは国士防衛軍の伍長だったダニエル・エスペランザという男性と会うことになった。エスペランザは第一次世界大戦中の1917年1月初めの日曜日、ソンムの前線で、マチルドの婚約者マネクを含む5人の受刑兵士の身になにが起きたか、知っていると言う。 それはビンゴ・クレピュスキュルという塹壕から、手を縛られた5人をドイツ軍と睨み合う中立地帯に放り出したという、にわかには信じられないような話だった。 アンテラリエ賞受賞作。 | |
これは1994年に単行本で出版され、2005年に映画が公開されたのを機に文庫化された作品です。 | |
セバスチアン・ジャプリゾは私たち、以前に「シンデレラの罠」と「殺意の夏」は読んだのよね。どちらを先に読んだか忘れたけど、この作家さん、いいな〜とかなり惹かれるものがあって、すぐに2冊めを読んだはず。 | |
そうそう。内容はもう忘れてしまったけど、いかにもフランス的なミステリで、雰囲気があって良いな〜と思ったことは記憶に残ってるよ。たしか、この人の本はまたなにか出版されたらかならず読もうね、なんて話していたはず。 | |
だよね。その時点では、まさか次に読むまでにこんなに間があくとは思ってなかったんだけど(笑) | |
でもさあ、久しぶりに読んでみたら、ちょっと、あれ?っと思ったんだけど。この人、こんなに大らかな小説を書く方だったっけ。 | |
うん、ちょっとイメージが違ったよね。緻密で、最初から最後まで巧く練ってあるな〜って唸らせるようなストーリーは記憶通りなんだけど、こんなふうにシリアスな内容をうまく息抜きさせてくれて柔らかく、読みやすくしてくれる方だったかどうか。 | |
主人公のマチルドが良かったからなんだよね。マチルドは19才で、子供の頃からずっと車椅子生活で、今でも入院したり、手術を受けたりの日々、そのうえ今度は、心から愛していた婚約者を亡くすという悲劇にあって。でも、不自由も不幸な出来事も、彼女自身の若さが放つ、ぐんぐん伸びる若草のような活気を少しも妨げていないのよね。その若さの輝きが眩しかった〜(笑) | |
活気があるだけじゃなく、しっかりとした大人の分別のあるお嬢さんでもあるよね。父親が建設業を営んでいて、とても裕福で、しかもマチルドに甘いから、なんでも好きにできるような立場なの。で、マチルドは画家としてやっていきたいと思っていて、この話のなかで最初の個展が開かれたりするんだけど、買ってくれるのはマチルドの父親のご機嫌を取りたいらしき銀行家、たいして絵も見ずにまとめ買いしちゃうんだけど、 そういう時でもマチルドは、それをすべてわかった上で素直に受けとっていて。 | |
マチルドが調査していく長い道のりでも、一度も弱音を吐かなかったし、苛立つこともなかったよね。諦めることもなく、諦めようと思いもせず、ホントに粘り強かった。 | |
マチルドが主人公じゃなかったら、戦争にまつわる重い話だから、読むのもちょっと辛くなったかもね。重苦しい話と、マチルドの明るさがいいコントラストになっていた。 | |
そうそう、これは言っておかないと。この本は記憶に自信がなかったら、メモを取りながら読んだほうがいいかもしれない。ずっと取りつづけるんじゃなくて、最初の2章分の、ダニエル・エスペランザの話が終わるところぐらいまででいいと思うんだけど。 | |
うん、そんなに登場人物が多いわけじゃないけど、戦争中に呼ばれていた別名があったり、ずっとあとになってもう一度出てくる名前があったりで、私たちにはメモなしじゃ無理だったよね。 | |
1917年、自分の手を撃って、兵役を逃れようとする兵士が続出、そこで裁判が行われ、見せしめもあって死刑を宣告されてしまう兵士たちがたくさんにて、そのうちの5人が、ビンゴ・クレピュスキュルに連れて行かれるの。まず、その5人のフルネームと兵士時代の渾名はメモしておいたほうがいいでしょ。 | |
それから、その5人がだれ宛に手紙を書いたかっていうのも書いたほうがいいかな。 | |
あとは5人がビンゴ・クレピュスキュルへ連れて行かれ、中立地帯へ放り出され、任務を終えたダニエル・エスペランザが書類にサインをしてもらう。そこまでに出てくる大尉、中尉、上等兵、軍医などはぜんぶメモっておいたほうがいいかも。 | |
あとの章は、そのメモを見ればいいだけで、別にメモをしなくても話についていけるよね。文庫の栞がわりに使えるぐらいの大きさのメモ用紙で充分なはず。 | |
あ、でも、映画を先に見ている人だったら、巻頭にある登場人物一覧で充分かもしれない。そのへんは映画を観ていない私にはわからないけど。 | |
さてさて、解かれていく謎なんだけど、第一次世界大戦中の1917年1月、片手を怪我して、しかも両腕を縛られた状態で、5人の受刑兵士が中立地帯へ放り出される。その後すぐ、その中立地帯をはさんで睨み合っていたフランス軍とドイツ軍は激しい戦闘状態に。 | |
5人のうちの少なくとも1人か2人は、うまく逃げ延びたんじゃないかって説があるのよね。これはマチルドの追跡調査で徐々に浮かび上がってくる疑惑なんだけど。 | |
その1人が自分の愛する人なんじゃないかと探しているらしき女性の影が見え隠れしたり、なにかを隠しているらしき人がいたり、秘密の鍵を握っているみたいなのに行方不明の人がいたり、行動に不自然さを感じる人がいたり、マチルドはそんな人たちを追い、綿密に調べていくのよね。 | |
これがまたすごく良くできてなかった? 同じ話が違う人によって何度も繰り返されていくようでいて、少しずつ違っていたり、些細なことと思えるようなことがちょこっと加えられていて、それが実はあとになってみると重要だったり。読んでるうちにだんだんと、謎解きに引き込まれてしまったな〜。 | |
婚約者マネクの身になにがあったのか知りたいと願い、調査の手をゆるめないマチルド。その中で出会う人たちの交流も素敵だったし、マチルドと比べるとちょっと頼りなげで、釣り合わないようにも思えたマネクが、マチルドにとってどんなに大切な人かも読んでいくうちにわかってきたし。深みがあって、ミステリをあまり読まない方にも堪能していただけるはず。ラストはちょっとアレだったけど(笑)、でも、オススメです。 | |