すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ポンペイの四日間」 ロバート・ハリス (イギリス)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
前任者エクソムニウスが失踪したため、若くしてアウグスタ水道の管理官に任命されたアッティリウスは、着任早々、広域で水道の水が出なくなるという難題に直面することとなった。 いったい水道の母管のどこが、どんな原因で流れを止められてしまったのか。アッティリウスはさっそくポンペイ経由で調査に向かうが、行く手には前もって知ることのできない、ヴェスヴィオ山の大噴火の時が待ち受けていたのだった。
にえ 初めて読みました、ロバート・ハリスの小説です。ロバート・ハリスはこれまで第二次世界大戦から現代にいたる国際政治の舞台を背景にした謀略スリラー長編を3作発表しているそうですが、4作めのこの「ポンペイの四日間」は、これまでとはちょっと毛色の違う作品。
すみ 歴史小説と言えばいいのかな。でも、史実を忠実に描いているんじゃなくて、歴史を背景として新たな物語を作り出しているといった感じよね。
にえ そうだね。三年かけて書いたってだけあって、綿密なリサーチに基づく、本当にあった出来事を描くリアルさはたしかにあったけど、主軸となるのは架空の人物たちが織りなす物語だから。
すみ 私は正直なところ、ローマ史ってそれほど興味がなくて、そのへんの時代を扱った小説も避けてきたようなところがあるんだけど、これは面白かった〜。
にえ うん、おもしろかったよね。私もローマの水道設備の素晴らしさとか、ヴェスヴィオ山の噴火によって埋没した古代都市ポンペイとか、なんとなく知っているってていどで、もっと詳しく知りたいってほどではなかったんだけど、この小説では興味深く読めたな〜。
すみ 紀元79年というから、今からおよそ2000年も前に、大規模な水道設備がこれほど整っていたなんて、それだけでも驚きだったけど、セメントを使ったコンクリートまであったのね、もうそういう細かいところまで驚きまくりだった。
にえ あとさあ、元老院とか、行政官とか、そういうローマの政治的なものもあんまり知らないし、長々と説明されたらウンザリしちゃうな〜とか心配だったんだけど、ゴチャゴチャ説明されることもなく、でもスンナリと引っかからずに読めたよね、そういうのが嬉しかった。
すみ うんうん、苦手意識が顔を出さずに、ただ面白いと感じるだけで夢中になって読めたよね。とにかく物語が始まってから四日後にはヴェスヴィオ火山が噴火するとわかっていて、そのうえでさまざまな出来事が起こるのを読んでいくから、最初から最後までいい感じの緊張がとぎれなかった。
にえ 期待が高まっていく噴火のシーンについては、ボカーン! バーン! みたいな、単純なスペクタクルを予想していたんだけど、そういうんじゃなくて、もっと細やかな、ああいうことがあった、こういうことがあったってことが書かれていて、ほぼ全部知らないことだったから、これまもう、歴史についてっていうより、火山の噴火ってそういうものなのかと、そこから驚いてしまった。
すみ そういう自然現象というか、歴史的背景のもとで、登場人物たちが織りなす物語は、わりと前に出すぎずに抑えめではあったけれど、でもそれぞれに複雑さや味わいがあって、良かったな。
にえ 主人公が一番地味だよね。若くして妻を亡くした水道の管理官アッティリウス。アッティリウスは、なぜだかやたらと自分を憎んでいる現場監督のコラックスとの問題を抱え、前任者のエクソムニウスがなぜ突然、失踪してしまったのかという謎を抱えつつ、水道の流れが止まってしまったという難題に挑戦することになるのだけど。
すみ アッティリウスが知り合うことになる、アンプリアトゥスというのがけっこう強烈な人物だよね。アンプリアトゥスは元奴隷で、今は政治を裏で動かすような大富豪。
にえ アンプリアトゥスは自分を愛した好色な主人の死とともに奴隷の身分から解放され、前のヴェスヴィオ山の噴火のどさくさで多くの不動産を得て、それでのし上がった成り上がり者なんだよね。
すみ 支配的で、悪趣味で、残酷なことが大好きで、人の心をつかむのが上手いのよね。娘のコレリアを利用して、地位を不動のものにしようとしている最中なんだけど。
にえ アッティリウスはコレリアに初めて会ったときから心惹かれてしまうのよね。とはいえ大富豪の娘と一介の水道官、この二人がどうなっていくのか、かなり気になるところ。
すみ コレリアは美しいだけじゃなく、気が強く、勇気があって、そのうえ弱者に対する思いやりもあって、かなり魅力のあるヒロインだったよね。私はコレリアがどうなるのかと心配しながら読んでたところが大きいなあ。
にえ 魅力ある登場人物といえば、プリニウスでしょう。この方は実在した人物で、高齢でありながら、艦隊司令長官であり、後世に名を残した博物学者でもあるんだけど、その学者らしい好奇心の強さとか、勇敢さには惹かれまくったな。
すみ 噴火の時に向かって進みながらも、謎が解け、登場人物たちの思惑が錯綜し、淡いロマンスは予期せぬ方へと向かっていき・・・う〜ん、しつこいようだけど、本当におもしろかった。 知識の乏しい私たちでも楽しく読めたし、この時代を扱った小説をたくさん読んでいる方でも満足できる内容だったみたいだし、これはもうオススメでしょう。密度が濃いから文庫本ってことで、お得感もあり、でした。