すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ミリオンズ」 フランク・コットレル・ボイス (イギリス)  <新潮社 単行本> 【Amazon】
母を亡くして父さんと暮らすダミアンは5年生、兄のアンソニーは6年生。母の死を機に、カニンガム一家はクロマティ通り7番地の家に引っ越した。 聖人の存在を信じるダミアンは、家の近くに段ボール箱で自分の庵をつくった。そこで奇跡を待っていると、空から紙幣の詰まったスポーツバッグが降ってきた。 家に帰ってアンソニーと数えると、紙幣は22万9370ポンドもあった。しかし、ユーロへの通貨切替は間近に迫り、その日がきたら紙幣はただの紙となってしまう。 それまでに二人は大金を使い切れるのか。
にえ これは、「バタフライ・キス」「ウェルカム・トゥ・サラエボ」「ほんとうのジャクリーヌ・デュプレ」「24アワー・パーティ・ピープル」などの作品を手がけた脚本家フランク・コットレル・ボイスが初めて書いた小説だそうです。
すみ この「ミリオンズ」も好評を博して映画化されることになり、フランク・コットレル・ボイスが脚本を手がけたんだよね。2005年秋に日本公開予定だとか。
にえ でもさあ、脚本家が書いた小説ってことだから、まあ、脚本に毛が生えたていどというか、小説の深みはなく、ストーリーがサクサクッと進んでいくだけかなあ、なんて思ってたんだけど、キッチリ小説の深みがあったよね。
すみ うん、少年の心情がむりなく伝わってきた。ストーリー展開の何度もドキッとさせ、クルッと回転させっていう巧さは、さすが脚本家って感じだったけど。
にえ 個人的にはラストのところだけちょっといかにもって感じで気に入らなかったけど、それを除けばホントにワクワク、ドキドキで、夢中になって読めたな〜。
すみ なんと言っても主人公の少年がいいのよね。子供の頃ってなにかしらに凝ってるものだろうけど、ダミアンくんのマイブームは聖人なの。
にえ インターネットのグーグルで検索して聖人について調べまくってるから、すごく詳しいんだよね。その豆知識が随所に散りばめられていて、それがまた楽しかった。
すみ そのうちに聖人が現れて、話しかけてくるようになったりしてね。
にえ でも、学校でも聖人の話ばかりしているから、ちょっとした問題児のようになってしまっているんだけど。
すみ ま、授業中にいきなり、なんとかかんとかって聖人は首を切られてミルクが吹き出したとか、処女殉教者がどうのとか話しはじめられちゃったら、先生は困惑するわよね。
にえ 学校からお父さんに何度も連絡が行っているみたいなんだよね。母親が死んだせいで、ちょっと精神的に病んでいるんじゃないかと疑われているみたい。
すみ 子供想いだけど、戸惑いのほうが大きいお父さんの、うろたえを抑えて自然に振る舞おうとする様子も好感が持てたな。
にえ お父さんは豆知識博士なんだよね。クイズ番組とか大のお得意で、子供たちの質問にちょっとした蘊蓄をまじえて答えるところなんか、いいお父さんだな〜って感じがした。
すみ 1つ上のお兄ちゃんのアンソニーは、ダミアンとはまったく違う性格なんだよね。経済的なことにすごく興味があるみたいで、不動産投資とか、外貨投資とか、そんな話ばかりしているの。
にえ こういう大人びたことばかり言う子供ってのも、親としては戸惑うものかもね。これにもお父さんはちょっと困惑気味だった(笑)
すみ で、ダミアンが家の近所に段ボール箱で隠れ家をつくるんだけど、これはダミアンにとっては庵なの。聖人たちが庵に籠もり、80日食事を絶って神様に会ったとか、そういう逸話を自分でも実行しようとしているみたいだけど、でもまあ、それはそれとして食べてるんだけど(笑)
にえ その庵にいるときに、空からスポーツバッグが降ってきて、そのなかに22万9370ポンドもの紙幣が入っていたのよね。で、ダミアンはそのことをアンソニーにだけ話し、二人は大金持ちの子供になってしまうっ。
すみ でもでも、ポンド紙幣が使えるのは、ユーロへの通貨切替の日までなんだよね。これはもうあと18日ぐらいしかなくて、そのあいだに使ってしまわなければ、紙幣は価値のない紙となってしまうの。
にえ というところから話が始まるのよね。これが私たちじゃ想像もつかなかったぐらい、いろんな出来事を引き起こすことに。おもしろかった〜。
すみ 大人も子供も学校も、いろんなところに波及して、いろんな人が意外な一面を見せたりしてね。基本的にダミアンは聖人らしくボランティア的なことに使いたいのよね、で、アンソニーは投資に持っていきたいみたいだけど。
にえ とにかくダミアンくんが可愛いから、すっかり感情移入してしまって、自分の子供時代に戻って、あのとき大金を持ってしまったらどうなっただろうとドキドキしちゃったな〜。
すみ 楽しい読書をしたい人にオススメだよね。といっても夢物語のファンタジーじゃなく、ちゃんとスポーツバッグの存在理由も明らかになるし、そのせいで怖い目にあったりもするんだけど。でもやっぱり楽しさ最優先のお話だった、しかも薄っぺらくない上質の楽しさ。とにかくピュアな子供視線が心地よかった。楽しみましょー。