すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「修道院回想録」 ジョゼー・サラマーゴ (ポルトガル)  <而立書房 単行本> 【Amazon】
18世紀初頭のポルトガル。国王ジョアン5世は、愛する王妃ドナ・マリーア・アナとの間に、 世継ぎが生まれないことを嘆いていた。そこに現れたのは司教ドン・ヌーノと老フランシスコ修道会士。 老修道会士は、マフラに修道院を建てれば、かならず王妃は妊娠すると言う。 一方、町では魔女と認定された女たちの処刑が行われていた。その魔女の一人を母に持つブリムンダは、 戦争で片手を失った七太陽と呼ばれる男、バルタザルと処刑場で出会った。二人は発明家の神父バルト ロメトウ・ローレンソを手伝い、空飛ぶ機械『大鳥』を作ることとなる。
にえ 名前の最後に「ー」がついてますが、もちろん『白の闇』と 同じ作者です。頼むから、翻訳本のカナ名前は統一してくれ〜。
すみ で、この本なんですが、まあ、なんというか、凄まじい本でした(笑)
にえ とっても良い本ではあるのよね。まず、18世紀初頭のポルト ガルの、高貴な方たちの暮らしや街の風景を皮肉たっぷり、ユーモアもたっぷりに描写していて、楽しくも 味わい深いの。
すみ ストーリーもおもしろいよね。ブリムンダとバルタザルは互い をかばい合いながら、人生の旅を続けていく、すてきなお話。
にえ ブリムンダはお腹がすいてると、すべてのものが透けて見え るようになるの。人間の腹の中、土の下、鉄の棒の中身、なんでも透けて見えちゃう。
すみ 神父ローレンソの話もおもしろいよね。人間が飛ぶための 発明を続けてるんだけど、失敗談に不思議な理論、これはもう、ムフフと楽しむしかないよね。
にえ さあ、では何が凄まじいのでしょう。
すみ 文章! こ、これは凄まじすぎ。
にえ 『白の闇』でも会話は「 」で括られてなかったけど、この本 も同じ。ただし、その会話じたいがほとんどありません。
すみ では、何があるか。あるのはひたすら長々と、うねるような文 章でつづられた描写やら、解説的な記述やら。
にえ 改行は平均すると、1ページに1回、あるかないかだよね。
すみ 圧巻なのはちょうど真ん中あたりにあるパレードの描写! な んと12ページに渡って、一度も改行してません。
にえ これは字の洪水だ〜(笑)
すみ 文章じたいが読みづらいとか、難しすぎるってわけではないん だけど、さすがにこの襲いかかってくるような長い文章には、まいった。
にえ けなすような欠点のある本では決してないのよね。むしろ褒めたた えるべき、すっごくよく書けた美しい本。
すみ ただ、私たち程度の人間が読むべきじゃなかった。読んでて窒息するかと思ったよ(笑)
にえ 世界中に翻訳され、エーコやマルケスと比較されてるらしいよ ね。それはわかる、同じ匂いの路線かも。
すみ ただ、もしもサラマーゴさんが、私たち向けに書いてくれる気 になったら、やっぱり主体を物語の展開にして、描写や解説は二番め、三番めにしてほしい。
にえ そうね〜、話が一つ進むのに、何ページかかることか。けっこ う淡々とした文章だしね。まあ、私たちがいけないんでしょう。読書レベルに合わない本を選んでしまった。
すみ 『白の闇』は物語の流れが主体だったのにね。やっぱり18世 紀初頭を書くと、こうなるのかな。
にえ しんと静けさのある美しい描写とか、下世話な事を書いても、 どこか品の良さが漂ってるところは共通してたけど。この作家さんはこういう作風なんだね。
すみ うん、読むのはつらかったけど、好感度は落ちなかったよね。 懲りずに他の著作も読んでみましょう。
にえ この本は、覚悟があれば読んでみてねってことで。質の高い本 なのは確かです。最後の最後まで美しかった。