すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ラヴ」 トニ・モリスン (アメリカ)  <早川書房 単行本> 【Amazon】
ミニスカートにブーツ、野性的な髪型に飢えた目をした18才のジュニア・ヴィヴィアンは、ヒード・コージーという老婦人が新聞に出した秘書兼付添人の募集広告に応募することにした。 訪れた先は古びて朽ちかけてはいるが、三階建ての堂々とした優雅な屋敷だった。そこには二人の老婦人が住んでいた。一人はヒード、貧民地区の出身で、部屋から一歩も出ないこの屋敷の持ち主、もう一人はクリスティン、給金ももらえないまま家政婦のように家事全般を受け持っている居候だが、この屋敷のもとの持ち主ビル・コージーの孫娘だった。 二人は幼い頃には親友、そして今は激しく憎み合っていた。
すみ これは1993年にノーベル文学賞を受賞しているアメリカの黒人女性作家、トニ・モリスンの受賞後2作めにあたる作品だそうです。私たちにとっては、初めて読むトニ・モリスン作品です。
にえ 私たちは初めてだけど、すでに邦訳本が何冊か出てるよね。どれを読んだらいいんだか、迷っているいあいだにここまで来てしまった〜。でも、これは女たちの愛憎劇みたいだったから、迷わず飛びついた(笑)
すみ でもさ、激しい愛憎劇が繰り広げられるのかなと思ったら、けっこう焦らされるというか、メラメラ燃えるものがあるのは伝わってくるんだけど、小出しにされてなかなか真相は見えてこないんだよね。
にえ 少しずつ、少しずつだよね。最終ページまで読んだあとには、焦らしただけのことはあったなと納得するんだけど。
すみ うん、ちょっと読む努力を要する小説だったから、最後には報われて良かった。大満足だよ。
にえ そうなんだよね〜。現在の話が進行しつつ、過去の出来事が少しずつ挿入され、あかされていくって構成なんだけど、その区切りが一行あけてあるとか、ガラッと書き方が変わるとか、そういうことがまったくないから、 たびたび置いていかれそうになるし、ときには混乱しそうになるから、もうホント丁寧に読んでいくしかなかった。
すみ 過去と現在どころか、語っているのがだれなのかわからなくなりそうになったことも何度かあったよ。2,3行戻って読み返したりもしたし。
にえ でも、べつに最後だけ良くて、読んでる途中はつらいだけってことはないよね。じっくり読み進めていくと、ドス暗い雰囲気がジワジワと盛り上がってきて。
すみ 最初のうちは、登場人物が全員、黒人だってこともわからなかったよね。トニ・モリスンの小説を読みつづけている人なら当然と思って、わざわざ書いてなくてもわかるのかもしれないけど。
にえ 時をさかのぼれば、ビル・コージーという男性が、黒人のための高級リゾートを作ったところから話が始まるんだよね。
すみ ビル・コージーは陽気で、親切で、でも線引きというものがしっかりできている人で、お金持ちだけじゃなく、地元の貧乏な人たちからも愛される人だったみたい。
にえ そうなの、ホテルを利用する金持ちは遠くからやって来て、ホテルのまわりには貧乏な人たちが住んでいるの。缶詰工場で働いている人たち、そして、それ以下の働くことさえ厭う人たち。
すみ 現在のコージー屋敷の所有者ヒードは、そんな最低級層のなかでも特にタチが悪いと言われる家の娘だったんだよね。それがビル・コージーとの結婚によって、最上級の仲間入り。
にえ コージー屋敷に住んでいる、もう一人の老嬢クリスティンは真逆で、ビル・コージーの孫娘として裕福な家庭に育っているんだよね。
すみ なのに、若いうちに家を出て、放蕩生活をしたなかで、売春をしたり、愛人になったりしたという評判。どこまでが本当かはすぐにはわからないけど、すっかりあばずれ女のなれの果てって見かけになっているのはたしか。
にえ その二人を取り巻く過去を知る人物は、まずLでしょ。それから過去にホテルで働いたことのあるサンドラーとヴィーダという夫婦。
すみ Lは女性で、ホテルが名をあげるのに大きく貢献した腕のいいコックなんだよね。それだけじゃなく、コージー一家の仲を仲裁できる、唯一の人だったみたい。
にえ サンドラーとヴィーダは孫のローメンって青年と暮らしていて、ローメンは現在のコージー屋敷でアルバイトをしているんだよね。ホテルはビルが死ぬ前から傾きはじめていて、現在ではもう廃業となっているんだけど、ヒードにはまだ人を雇う経済力は残っているみたいで。
すみ なんだかみんな腹のなかにはモヤモヤとしたものをためこんでる様子なのよね。そこに現れるのがジュニア・ヴィヴィアンという18才の女性。
にえ ジュニアはセクシーで、頭の回転も速いけど、生まれ育ちが悪いのは、会った人がみんな一目でわかっちゃうような女性なんだよね。ジュニアが現れることでさざ波が立ち、真相が明らかになっていくんだけど。
すみ 真逆の人生を交差させながら、年老いてなお憎み合う二人の女性。その根っこにあるのは残酷な過去。でも、最後には殺伐とした気持ちじゃなく、やさしさに包まれたような気持ちで読み終えることができたな。さすがに素晴らしかった〜。
にえ タイトルの「ラヴ」がなにを指すのか、最後の最後までは頭を悩まされながら読んだけど、最後にはそのタイトルに、ゾワッとジーンときてしまった。チト読みづらかったけど、難しい文章とか、ややこしい言いまわしとかがあるわけじゃないしね、がんばって読む価値あり、オススメですっ。