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 「ミス・ブロウディの青春」 ミュリエル・スパーク (イギリス)  <筑摩書房 単行本> 【Amazon】

<ミス・ブロウディの青春> 第一次世界大戦が一昔前のこととなり、ヨーロッパがつかの間の平和を享受していた頃、エディンバラのマーシア・ブレイン女子学園には、ミス・ブロウディという教師がいた。 ミス・ブロウディには彼女が選び、学校外でも個人的なつきあいをするようになっていた、ブロウディ組(セット)と呼ばれる6人の生徒がいた。
<貧しい娘たち>第二次世界大戦が終わった1945年、ロンドンにはメイ・オブ・テック・クラブの建物があった。ここは、ロンドンで職業に就く三十才未満の経済的余裕の充分でない婦人たちを保護する目的で建てられたもので、常に多くの女性たちが居住していた。 元詩人で、のちにハイチで宣教師として殉職したニコラスは、ここによく出入りしていた青年だった。
にえ 初めて読みました、ミュリエル・スパークの中編が2作入った本です。残念ながら、絶版なのだけれど。
すみ ミュリエル・スパークの小説は翻訳本が10冊以上あるんだけど、今はすべて絶版なんだよね。なんとかして〜っ。
にえ ちなみに、ミュリエル・スパークは1918年にエディンバラで生まれ、1936年には南アフリカに渡るけど、離婚して戻り、ロンドンで情報部に勤務、その後、作家になったという経歴の女性。若い頃の写真を見ると、なかなかの美人です。
すみ 他の作家にない面白味のある小説を書く方みたいなので、なんとか復刊していただきたいです。これ1冊読んだだけでも、この独特の意地悪さ? みたいなものは癖になりそうって感じだよね。
にえ だよね〜。まずは「ミス・ブロウディの青春」なんだけど、このミス・ブロウディっていうのが、まあ、ほんとに独特の存在なんだよね。
すみ 美人だけど三十才過ぎても独身で、保守的なお嬢様学校の教師なのに、なにやら革新的な性格で、年下の女校長にもにらまれて、いつ学校から追い出されても不思議はないって存在なの。
にえ 授業中に授業をしないで、自分の大戦中の悲恋を語ったり、休暇中の旅行の話をしたりするから、生徒には人気があるみたいなんだけどね。
すみ 本人がこれからもどんどん成長していこうって意欲に燃えている、というか煮えたぎってるんだよね。それをそのまま生徒たちにも伝えようとしているみたい。演劇や絵画や詩の世界、それに肌のお手入れ法とか、歩くときの姿勢とか、良いものはバシバシ伝えていこうって張り切っていて。
にえ 口癖は、「今が私の最良の時です」なの。だから、タイトルの「青春」も文字通りの思春期の時期を指すのではなくて、「最良の時」って意味あいで受けとったほうがいいかも。
すみ ここまでだと、熱意に満ちたわりといい先生じゃないって感じだよね。でも、読み進めていくと、これがなんとも言い難いような・・・。
にえ 読んでいくうちに、ミス・ブロウディへの気持ちはどんどん変化していくよね。怖い、やばいと思ったり、滑稽に感じたり、そのうちに哀れにも思いはじめたり。
すみ ミス・ブロウディは同僚に友達もなく、相談するのはすべてブロウディ組(セット)と呼ばれる6人の少女たち。この6人は担任だったときにミス・ブロウディが選んだのだけど、「あなたたちを一流中の一流にしてあげる」とたびたび言うにもかかわらず、 選んだ理由は、彼女たちを私物化しても、うるさく言ってこなさそうな親の子供なんて、けっこう打算的だったりして。
にえ マーシア・ブレイン女子学園っていうのは、私たちの理解の範囲だと、小中高一貫教育みたいな学校なんだよね。在学期間が長くて、下級生のあいだは自宅から登校するけど、上級生になると寮に入るみたいで。彼女たちが着ているのは、濃いすみれ色の制服にパナマ帽。このパナマ帽は上級生になると、ちょっと個性を出したかぶり方をしても叱られなくなるみたい。
すみ ミス・ブロウディはブロウディ・セットの6人を10才の時に受け持って、それから彼女たちが進級して、自分の担任ではなくなっても、ずっと自分の身近に置いているの。
にえ この6人は他の友人たちと一緒にいても、時には他校の男子生徒たちと楽しく歩いていても、ミス・ブロウディの招集がかかれば、すぐに集まるのよね。で、集められて聞かされるのは、校長がまた私を追い出そうとしてるの〜みたいな、そういう話だったり。
すみ 演劇や絵画鑑賞に連れていってもらったり、大人の女性としてのアドバイスをもらったり、ミス・ブロウディとつきあうのは、損だけじゃなく、得なことも多いけどね。
にえ だけど、ブロウディ・セットのメンバーであるかぎりは、学校で浮いた存在、常にマークされる存在になってしまうのよね。
すみ 別に強制されているわけじゃないから、ブロウディ・セットに入りたくないと言うこともできたし、いつでの抜けることはできたんだよね。でも、革新的なことをやる美人教師で、ある意味、学校ではカリスマ的存在、そんな教師から「あなたたちを一流中の一流にしてあげる」なんて言われて、特別扱いされているのに、「もうけっこうです」とは言えないよね。 私だってこの年頃に、少女期の虚栄心をこれほどくすぐられてしまったら、むしろ鼻高々に「わたし、ブロウディ・セットのメンバーなのよ」と学園を闊歩しちゃうだろうな。
にえ ミス・ブロウディと6人組のブロウディ・セット、そこに男性教師2人がからんできたりして、いろいろあるのよね。そして、どうやら最終的には、ブロウディ・セットの6人のうちの一人が、ミス・ブロウディを裏切り、学園から彼女を追い出す手助けをした様子、これはいったいだれなのか。
すみ ただ、少女たちを感化し、どんどん自分の思い通りに扱う女性教師、みたいな構図かと思ったら、そんなことでもないんだよね。しょせん、少女たちにとって、学校は社会に出るまでに一時期身を置く場所だって認識もあり、この時期独特の精神的な急成長ありで。一人一人には充分個性というものがあり、夢もあり、意志もあり、で、意外にミス・ブロウディに対する辛辣な目もあったり。
にえ とにかくおもしろかったよね〜。読んでいる間じゅう、頭のいろんなところを刺激された感じで、夢中になって読んでしまった。この独特なおもしろさは語り尽くせないな〜。こういうものを書く人がいるっていうのが、ちょっと怖くなったりもするけど(笑)
すみ で、もうひとつの「貧しい娘たち」なんだけど、「ミス・ブロウディの青春」が第一次世界大戦後の話なら、こちらは第二次世界大戦直後。社会で働く若い女性たちの話だけど、共同生活をしていて、やっぱり学園物的な雰囲気があるの。
にえ ニコラスという男性がハイチで宣教師として殉死したのを発端として、いろいろな出来事が思い出されていくって話よね。これは女性たちの物語であるとともに、美しい女性をロマンティックな視線でしか見られなくなる男性と女性の実像のギャップみたいな衝撃があったりもするよね。
すみ 逆もありでしょ。男性からこう見られているだろうなって女性の思いこみと、実際のところ。そういう男女のズレの皮肉さがおもしろくも一抹の悲しさを誘ったりもして。それに女性の集合体ならではのおもしろさも加わって、これもなかなかだった。インパクトでは断然「ミス・ブロウディの青春」のほうが強いけどね。ということで、ものすごく良かったです〜。