すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ジョコンダ夫人の肖像」 E・L・カニグズバーグ (アメリカ)  <岩波書店 単行本> 【Amazon】
イタリアじゅうの諸公、公妃、そしてフランスの王までもがレオナルド・ダ・ヴィンチに肖像画を描いて欲しがっていた。しつこく頼んでくる者もあったし、金に糸目をつけないという者もいた。 それなのになぜ、レオナルド・ダ・ヴィンチは、よりによってフィレンツェの名もない商人の二度目の妻の肖像画<モナ・リザ>を描いたのか。 老いた天才レオナルドのそばには、サライという少年がいた。サライはこそ泥で、嘘つきだったが、レオナルドはサライの姉の持参金まで出してやり、庭園を遺産に遺した。 そのサライの存在こそが、レオナルドが<モナ・リザ>を描くに至る謎の鍵だった。
すみ 初めて読みました、アメリカの児童文学作家E・L・カニグズバーグの翻訳本です。
にえ カニグズバーグって有名な作家さんみたいだけど、児童書は子供の頃から敬遠してきた私たちは、読んだことなかったんだよね。
すみ これは歴史小説で、長くはないし、読みやすいから、読者の年齢層は広いと思うけど、別に児童書ってこだわらなくても、大人が読んでも充分、読み応えがあるよね。
にえ 感想を先に言っちゃおうか。上手いね、上手すぎるっ。次に古典名作物を読む予定にしておいてよかった。こんなに完璧に出来上がった小説のあとに中途半端なものを読まされたら、とても冷静に読めなかったはず。
すみ 紆余曲折を経て作られる長い長い物語を、短い文章の中にキッチリ封じ込めてあるんだよね。しかも、一番ついて行けるか行けないか微妙になる、登場人物の感情の変化までもが無理なく滑らかに描き出されていて。う〜、こりゃマイッタ!
にえ 残念なのは、これが新人作家のデビュー作じゃないことだな。もしそうだったら、天才を発見したってみんなに吹聴してまわれたのに(笑)
すみ それどころか、これを見てくれてる人の多くがすでに何年も前に読んでしまっていて、なにをいまさらって思ってるんだろうね。でもやっぱり感激したな〜。なんでこんなに上手に書けるんだろうと、そんな根本的なところをシミジミ考えてしまった。
にえ まあ、上手い上手いってそればっかり言っていてもなにも伝わらないから、お話を先に進めましょうか。
すみ あ、でも、ここで読んでないから読まなきゃって思った方は、もうこんなの見てないで、読む準備はじめたほうがいいかも。
にえ こんなのって・・・(笑) え〜っとですね、この小説はレオナルド・ダ・ヴィンチの<モナ・リザ>の話なんだけど、冒頭から<モナ・リザ>のモデルであるジョコンダ夫人が、レオナルド・ダ・ヴィンチのもとを訪ねてくるのかと思ったら、 そういうわけではないのよね。
すみ サライ視線で語られていくって感じかな。サライが語り手というわけではないんだけどね。
にえ サライはこそ泥で嘘つき、まあ、当時のミラノの町では、どこにでもいそうな少年なの。そのサライを気に入って、レオナルド・ダ・ヴィンチは弟子として引き取ることにするんだけど。
すみ その時、レオナルド・ダ・ヴィンチはすでに芸術家として、科学者としての名声を築き上げていて、知らない人はいないって存在なのよね。
にえ サライは知らなかったみたいだけどね。で、弟子といっても、べつにサライは絵が上手いとか、抜群に頭がいいとか、そういう育てたくなる芽がありそうな逸材ってわけでもないの。
すみ うん、最初のうち、どうしてサライは気にいられたんだろうってかなり不思議な感じがしたよね。
にえ 当時、レオナルド・ダ・ヴィンチが仕えていたのがミラノの領主ロドヴィコ・スフォルツァ公、イル・モロって呼ばれていた人なんだけど。
すみ イル・モロは長年の恋人チェチリア・ガレラーニの肖像をレオナルド・ダ・ヴィンチに描かせているんだよね。白テンを抱いた肖像画はこの本の巻末にもおさめられているけど、女性と白テンの視線がかなり印象的。
にえ でも、イル・モロはチェチリア・ガレラーニとは結婚しないんだよね。美しく、才気あふれると評判のフェララ公の長女、イザベラと結婚することに決めて求婚に。でも、イザベラはすでに婚約者がいて、姉に比べて美しくも才気煥発でもないと言われる妹のベアトリチェと結婚することになってしまうの。
すみ そのベアトリチェとレオナルド・ダ・ヴィンチ、そしてサライ、この3人の関係が主軸となって、他の人たちとの人間模様が織りなされていき・・・とそういう小説なのよね。
にえ じゃあ、ジョコンダ夫人は? というと、これは読んでのお楽しみだね。
すみ 史実との絡みも無理なく、お見事だったよね。真実を推理した歴史小説っていうわけじゃなく、史実として残っているものを背景として、説得力のあるフィクションの小説に仕上げているって感じかな。
にえ こんなにうまくまとめられてしまうと、もう、ちょっとでもそのすばらしい才能に近づくために書写しましょうかって気になるね。読んでない人はぜひっ。
  
 E・L・カニグズバーグ関連サイト(翻訳問題について)→やみぃさん「E.L.カニグズバーグをめぐる冒険」