=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「夢見るミノタウロス」 スティーヴン・シェリル (アメリカ)
<角川書店 単行本> 【Amazon】
迷宮ラビュリントスの奥深く、怪物退治に訪れた勇敢な若者テセウスはミノタウロスと対峙した。命乞いをすることになったテセウスは、取引きによって、 自分は怪物を倒した英雄として表口から、そしてミノタウロスを裏口から逃がす。悠久の時をこの世で過ごすこととなったミノタウロスは長い長い過去の記憶も薄れ、 今はトレーラーハウスで暮らし、レストラン<グラブズ・リブ>でコックとして働いている。 | |
これはアメリカの新鋭作家スティーヴン・シェリルのデビュー作で、初邦訳本だそうです。これの次に発表された作品は、ピュリッツァー賞にノミネートされたのだとか。 | |
そういうこれからが期待される作家さんは、これからも翻訳してほしいから、なるべく褒めておきたいところだよね。でも、まあ、ぶっちゃけ、好みに合わないものを褒めるのは難しかったりも〜。 | |
あ〜、でもでも、才能はものすごく感じたよね。綿密に作品世界を作り上げていくところとか、無駄がないけどキチンと伝わってくる心理描写とか。 | |
うん、評価が高いのもわかるよね。たしかにこれは口うるさい評論家も唸らせるって小説だわ。でもなんというか、自分が読んでおもしろいかどうかっていうと、話は別だからね(笑) | |
まあねえ、これはおもしろいという人も確実にいると思うんだけど、私たちにはちょっと、好きになるのは難しい小説だったよね。 | |
早い話が陰気で地味なんだよね。これといったことも起こらず、主人公がミノタウロスだってことを除くと、わざわざ小説にするほどでもないような、ありふれた日常がジクジクと語られていくだけで。 | |
私は後半になってドカンとドラマティックな変化が待ちかまえていると思って、けっきょく最後まで読んじゃったんだけどね。それを期待していなかったら、途中でやめてたかな。まあ、けっきょくはたいしたことも起きなかったんだけど(笑) | |
主人公のミノタウロスは、あのギリシャ神話のミノタウロスなんだよね。頭が牛で、体が人間。人間を食べて生きる怪物。本人に罪はないんじゃないのってところで、なんだか可哀想な気はしてしまうんだけど。著者もそのへんでミノタウロスを主人公にって考えたのかな。 | |
神話では、若き勇者テセウスによって殺されることになってるけど、この小説では取引きによって生き延び、そのまま現代まで生きつづけてるって設定なんだよね。 | |
人間を食べる怪物だったことも今は昔、現代人となったミノタウロスは、内気で、目立たず人間世界に溶け込もうとする、見かけがちょっと違うだけで普通の青年と言った風情。 | |
身だしなみにも気をつけているんだよね、かなり清潔好きみたいだし。 | |
自動車いじりが得意で、まあまあ腕のいいコックとして、レストランで働いているの。 | |
かなり人気のある、客数の多いレストランなんだよね。安くて美味しくて、ボリュームたっぷりって感じのメニューみたい。 | |
ミノタウロスは働き者で、休日にもレストランに顔を出すほど仕事熱心だけど、角があったり、真正面が見えづらい顔だったりするために、ちょっとしたミスもよくやらかすの。 | |
でも、オーナーは辞めさせる気はないみたいよね。けっこう気にいっているようで。 | |
そこで働いている若者たちをちょっと怖いと思いながらも、誘われれば出掛けていったり、ちょっといいなと思う娘ができたり。 | |
そうそう、ミノタウロスは顔が牛だから、言葉を明瞭に話せないんだよね。短い単語は練習でどうにか克服したみたいだけど、あとは「ウンンフフ」とか、そういう言葉にもならない言葉を発するだけで。 | |
あと、トレーラーハウスでも、他の住人たちと仲良くもなく、悪くもなくの距離のある微妙なおつきあい。で、そのトレーラーハウスでの、子供が遊んでいるのを見かけたとか、そういう日常と、レストランでコックとして忙しく働く姿、車の部品を買いに行くとかいうちょっとしたお出掛け、そういったものがかなり綿密に、かなり淡々と語られていくのよ。 | |
でもさあ、伝わってくるものはあるよね。ミノタウロスが、ミノタウロスでありながら、ミノタウロスという個性を押し殺して暮らす悲哀みたいなものとか。 | |
まあ、とにかく私たちにはおもしろさを感じられない小説だったってことで。敗因は、ミノタウロスとはまったく共通点がないために、どうがんばっても共感できそうになかったってところかな(笑) | |