=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「グリーンヴォー ある村の夏の不思議な一週間」 ジョージ・マッカイ・ブラウン (イギリス)
<あるば書房 単行本> 【Amazon】 スコットランド、オークニー諸島のひとつ、ヘルヤ島の村グリーンヴォーに住む人々は、子だくさんの母子家庭や老齢などで国から扶助を受けていた。 島に逗留するようになった謎の男は、なにやら島について調査をしているらしいが、人々はいつもの生活を続けるだけだった。 | |
初めて読みます、詩人であるジョージ・マッカイ・ブラウン(1921〜1996年)の最初の小説だそうです。 | |
ジョージ・マッカイ・ブラウンはオークニー諸島出身だそうで、この小説もオークニー諸島に架空の島をひとつ作って、そこを舞台としているのよね。 | |
その架空の島ヘルヤの村グリーンヴォーに住んでいるのは、うっすら変わった人ばかりなの。 | |
ホント、うっすらだよね。ものすごく変わっているということはなくて、どこかがユル〜く歪んでいる、みたいな。 | |
どこから話していいかわからないから、とりあえず登場人物についてざっと話しましょうか。まずは町の中心的存在、人々が集まる雑貨店の夫婦。旦那さんは郵便や国家扶助の支給などの仕事も兼任しているんだけど、 奥さんはものすごーいゴシップ屋。町の人々についてたえず、あーだのこーだのと言っているんだけど、それに対する旦那さんの返事は新聞についてとか、まったく違う内容。 | |
あとは、飲んべの夫に怒る妻とか、父親違いの子供が7人もいる色気のある女性、すけこましの渡し守とか。 | |
存在感が強いのはティミーかな。知的障害があるみたいで、生活扶助を受けながら、海岸で貝を拾ったりして暮らしているんだけど、メチルアルコールを飲む悪癖が抜けないみたいで、生活そのものもかなり危なっかしいの。家はちょっと焼けこげちゃってるし。 | |
ちょっと変わったしゃべり方をするんだよね、他人に話しかけるときでも、独り言を言うときでも、かならず「ティミーは」から始めるの。 | |
それからエリザベス・マッキーでしょう。エリザベスは息子の教区牧師サイモンと一緒に暮らしているんだけど、エリザベスが家に一人でいるときには、常に亡霊たちがやってくるみたい。その亡霊たちがなにをするかといえば、 エリザベスが過去に犯した大小の過ちをひとつずつあげつらい、裁判にかけるの。 | |
つまりは罪悪感ってことなんだろうね。ひとつずつはホンの小さなことなのに。遺産をもらったときに間違えてティーポットも一緒に持って帰っちゃったとか、小さなキスの思い出とか。 | |
そのうちに核心に触れるような裁判が始まるけどね。あとはスカーフでしょ。スカーフは漁師で、社会主義者で、ヘルヤ島の歴史物語を書いているの。 | |
つまり、スカーフの書いたものを追っていけば、自然とヘルヤ島の歴史がわかるってことよね。その伝統とか文化とかがあとになってこの小説を理解するために大切なものだとわかってくるけど。 | |
まあ、そのへんは全部、出版社のHPでこの本の紹介文を読むとわかっちゃったりするけどね(笑) あんなに結末までキッチリ書いた紹介文は珍しいかも。 | |
わかったところでこの小説の味わいが薄れるわけじゃないから、別にかまわないと思ったんじゃない。私はそれより、詩人が書いた小説ってたまに合わないパターンってのがあって、これも心配だったんだけど、どうやらそのパターンみたい。前に味わったことのある疎外感がここで甦る・・・。 | |
とりあえず、詩人が書いたうんぬんより、登場人物が多くて、しかもこの人も漁師、あの人も漁師と職業はかぶりまくり、男女一組で暮らしている家庭がいくつもあって、こっちは夫婦、こっちは兄妹、こっちは母子とちょっと混乱しやすい設定で、各登場人物の短い話がいくつも交差していくって感じだから、登場人物一覧を見ながらどうにかついていくのが精一杯で、乗りにくいっていうのはあったよね。 | |
なんて言うのかな〜、登場人物が多くても、それぞれの人物像に魅力を感じれば、それなりに集中できるんだけどね、どうもそういうのがなくって、だからって他に惹かれるものもなく、上滑りな感覚で読んでしまったの。以前に他の詩人が書いた小説を読んだときも、これとそっくり同じような感覚を持ったことがあるのよ。 なんというのかな、著者が書く方向と私が求めている方向が合わない、すれ違いがじれったい、みたいな。 | |
心理描写とか、過去について詳細に語られるとかってのがほとんどなかったもんね。でも、牧師のサイモンだけはわりとキッチリ過去が語られてるでしょ。アルコール依存症みたいなんだけど、そこに至るまでのことが子供時代から書かれていて。だから私はそこのところだけはじっくりと集中して読めたんだけど。 | |
そうね、サイモンについてはわかりづらいながらもキッチリ書かれていて、惹かれるものがあったよね。 | |
あとは島の破滅と再生っていうのかな、そういう個々人じゃなく、島全体の歴史のうねりというか、もっと大きな視野で語られていたというか。近い視点から見るとこんな小さなことの寄せ集めだけど、遠い視点から大きく見渡せば、こういう流れとなるのだ、みたいな。その小さい大きいっていうのは時を含めてのことだけどね。 | |
それはわからないでもないけど、でもラストに至るまでを登場人物で楽しめないのだったら、美しい文章、描写で持っていってほしかったけど、そうでもなかったような〜。 | |
それは言わない方がいいんじゃない? 過去にも詩人が書いた小説で他の方々が美しいとおっしゃる文章をあなたがダメ〜と言ってたことがあるよ。って、私もあるか(笑) んでもって、偉そうに語ってみた私も、実はこの小説は乗りづらくて、読み疲れがしてしまったのだけれどね(笑) | |
けなしたくはないんだけどね。この小説の良さというか、価値ある小説だってことはなんとなくわかるから。ただ、私たちは合いませんでしたってことで。 | |