=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「青ひげ」 カート・ヴォネガット (アメリカ)
<早川書房 文庫本> 【Amazon】
絵の具を選び間違えたばかりに嘲笑の的となり、画壇を去ったラボー・カラベキアンは、二番めの妻が 残した大邸宅で、自分が集めた膨大な抽象画のコレクションに囲まれて、孤独な生活をしていた。彼は戦争 で片目をなくし、彼の唯一の友人、廃業しかけの作家ポール・スラジンジャーもまた大きな傷を負っていた。 そんな老人ラボー・カラベキアンのもとに、すべてを知りたがるエネルギッシュな女性サーシ・バーマンが 闖入してきた。ラボーは彼女の詮索を拒まないが、裏にあるジャガイモの納屋だけには、絶対入らせなかった。そこには何が隠されているのか。 | |
SF作家の本を読もうとしたら、SFじゃない作品を選んでしまいました(笑) | |
でも、こういう老人回想録ものは、シリーズのように書いているとのこと、別に特異な作品ってわけじゃなさそうね。 | |
で、読んだ感想ですが、すんばらしくよかった! オススメです!! | |
うん。たまに、最初の2,3ページで、お、これは絶対最後ま でおもしろいぞってピンとくる本があるけど、これはまさにそうだった。 | |
まず、文章は読みやすくって、口語体に近いテンポのよさ。 ユーモアも皮肉もたっぷり。 | |
リズム感を大事にしてる文章だったよね。工夫が感じられた。 ヴォネガットはもちろんだけど、翻訳家の人も上手い。ヴォネガットの作品を何作も訳してるみたいだから、 ヴォネガットの文章が好きで、その良さを伝えたいと考えながら訳してるんじゃないかなって感じがした。 | |
で、ストーリーなんだけど、老人ラボー・カラベキアンの もとに、突如として現れた女性サーシ・バーマンは、ラボーに自伝を書けと勧めるの。 | |
その自伝が、この小説なのよね。ラボーが交互に、今起こって ることを書いたり、過去のことを書いたりしてる。現在の話もおもしろいけど、過去の話がいいのよね。 | |
アルメニア人が村ごと惨殺されたときの生き残りである両親に 育てられたラボー少年は、画家になりたくてダン・グレゴリーの弟子になる。 | |
ラボーのお父さんは苦労の末に精神が歪んでしまったような人、 ダン・グレゴリーは当時、超有名な挿絵画家で、写実主義に徹した人なのよね。 | |
ダンはムッソリーニに傾倒してて、人を虐めることに快感を抱 くようなねじ曲がった性格の人でもあるの。でも、読んでいくと、人として理解できるんだな〜。 | |
そこにいるのは美貌の愛人マリリー。教養はなくても、 自分の身を犠牲にしてまで、ラボー少年をかばってくれる、慈母のような性格の人。 | |
この人は最終的には、スゴイ成長を遂げるのよね。 | |
それから、第二次世界大戦があり、抽象画家への鞍替えがあり、と波瀾万丈の人生。 | |
画家の友だちの話がまた素晴らしい。自殺した親友の画家の話 やら、ピカソなんかの実名の画家の話まで出てくる。 | |
ただね、これは苦労話、ある男の半生の物語って、それだけの 内容じゃないの。 | |
芸術家の苦悩の物語だよね。 | |
そう、魂のこもった絵が描けないと言われつづけるラボー・ カラベキアンが、写実主義と抽象主義の狭間で揺れながら、本当に人の心を揺さぶる絵画を見つける話。 | |
軽い口調でさらっと書かれてるけど、けっこう深い芸術論だよ ね。他の画家や作家の話にしても。 | |
人の愛し方を学ぶ魂の旅でもあったし。 | |
登場人物が魅力的だし、ストーリーも楽しめるし、気取りはま ったくなかったけど、美しさがあった。ほんとにステキな小説。 | |
あ、あとジャガイモの納屋の謎が最後にとける、ひとつのお 楽しみになっているけど、これはSF小説でも、ミステリーでもないから、そういう期待はしないでほしい。 | |
あっと驚かす仕掛けじゃなくて、すべての答えがそこにあるのよね。 | |
あとさ、男が書いたフェミニストな女性像も、男が書いたな〜 って感じはしたけど、それはそれでよかったよね。女性も快感をもって読めるんじゃないかな。 | |
これは本当にオススメ。読みやすくて、後味も良くて、ステキ なお話。言うことなしっ。カート・ヴォネガット、気に入ったぞ!! | |