すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「失われし書庫」 ジョン・ダニング (アメリカ)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
クリフは、友人の判事リーの家でピュリッツァー賞受賞作家ハル・アーチャーと知り合った。ずっとファンだったその作家が作品ほど優れた人格者ではないことには失望したが、 リチャード・バートンに興味を持つきっかけとはなってくれた。短期間とはいえ、みっちりと勉強したあと、クリスはオークションでリチャード・バートンの稀覯本を手に入れた。その本にはバートン卿からチャールズ・ウォレンという男性への献辞が書かれていたが、 チャールズというのが何者なのかはわからない。たまたま出演したラジオ番組がきっかけで、バートンの研究者として祭りあげられてしまったクリスのもとには、得体の知れないバートン卿の掘り出し物とやらを売り込んでくる電話や手紙が殺到した。 そんな中、店に訪ねてきた老婆は、自分こそがチャールズの孫娘で、クリスの手に入れた本は自分が受け継いだバートン・コレクションから盗まれたものだと告げた。
すみ これは、ジョン・ダニングのクリフ・ジェーンウェイ・シリーズの3作目です。
にえ 3作目といっても、2作目からかなりあいだがあいてるのよね。前2作はこのHP開設前に読んだものだから紹介していないのでここで触れると、1作目の「死の蔵書」は1992年に発表された作品で、邦訳出版は1996年、 2作目の「幻の特装本」は1995年発表で、邦訳出版が1997年、で、この3作目が2004年発表だから、9年ぶりってことね。
すみ 古書店主クリスが主人公のシリーズなんだよね。もともとジョン・ダニング本人が一時期、出版社と揉めて作家をやめ、古書店経営をしていたそうで、その経験を生かして書かれたのがこのシリーズ。
にえ 1作目の「死の蔵書」は、本好きだったらたまらない古書稀覯本の楽しい蘊蓄がたっぷり詰めこまれてて、私たちもすっかり夢中になっちゃったよね。
すみ そうそう、ミステリだから殺人事件が起きていたと思うけど、それはすっかり忘れちゃった(笑) でも、傷んだ稀覯本を上手に修復して高値で売る方法とか、そういうお話はしっかり覚えてるよね〜。
にえ 2作目の「幻の特装本」では亡くなった方のコレクションを丸ごとってのが印象的だった。ずらりと並んだ本棚に稀覯本が・・・うひゃ〜っ。って、こっちもそういうのばっかりが記憶に残っていて、かんじんの事件は覚えてないけど(笑)
すみ とにかく1作目も2作目も古書店主クリスが主人公で、どっちも古書稀覯本の世界が舞台になっているけど、趣はだいぶ異なるのよね。そして期待のこの3作目は・・・。
にえ あんまり古書稀覯本にまつわる蘊蓄は出てこなかったよね。出版社ごとに違う初版本の見分け方とか、ちょっとは出てきたけど。
すみ どっちかというと、歴史ミステリの趣? リチャード・バートンに関する謎、それに絡む殺人事件、と。
にえ 正直、ちょっと薄味だったかな。歴史ミステリとしてはバートン卿の人物像が浮かび上がってくるってほどではなかったし、たいした謎でもなかったし、それ以外の部分ではちょっとむだに長いような気がしてしまったし。
すみ バートン卿については私たち、「バートン版千夜一夜物語」を読んだばかりってこともあって、かなり興味深く読みはじめたんだけどね。
にえ 36カ国語を流暢に使いこなしたという語学の天才、軍人としても才を発揮し、冒険家としても超一流、世界を渡り歩いて多方面の優れた著作をたくさん残し・・・とまさにスーパーな傑人でありながら、 その生涯は不遇で、強烈な才と性格がたたったのか、人々に攻撃されることが多かったというバートン卿。どうしても知れば興味を持っちゃうよね。
すみ 「バートン版千夜一夜物語」のバートンがつけた注釈を読むだけでも、時代の先を行きすぎていた特殊な人だったんだな〜と察するよね。そのへんにもうちょっと触れてくれているのかと思ったら、そうでもなかったかなあ。
にえ 嬉しいことに、バートン卿ご本人が登場してくれるんだけどね。でも、う〜ん、意外と普通の紳士って感じだったかなあ、もうちょっと魅力をほとばしらせてほしかった。
すみ とはいえ、それほど面白くない!ってほどでもなかったんだけどね。まあ、そこそこ楽しめた。これがきっかけでバートン卿に興味を持つ人が増えれば、それはそれで良いんじゃないかと。
にえ そうだね、まあ、そこそこは面白かった。前2作から期待しすぎたのと、出だしにワクワクしすぎたのがよくなかったかな。
すみ 出だしは良かったよね。1冊の稀覯本を手に入れたのがきっかけで、バートン卿研究の権威のような扱われ方をしたクリスのもとに謎の老婆が現れ、 我こそがその本の真の所有者であり、献辞に書かれているチャールズ・ウォレンの孫であるって言ってくるところから話が始まるの。
にえ チャールズ・ウォレンっていう人物は、数多くのバートン卿の伝記、研究書等々にまったく出ていない謎の人物なんだよね。しかも、その人物は、そういう数多くの本の中でも謎のまま残っている、 バートン卿の足取りがつかめない、謎のアメリカ旅行に関係する人物みたいなの。
すみ そのアメリカ旅行については、スパイ活動をしていたんじゃないかって説が有力なんだよね。あの時代、海外に出掛けることの多いイギリスの貴族や作家たちの多くがスパイ活動をやっていたらしいから、可能性は高そうだけど。
にえ いくつかの手がかりを残して老婆は亡くなり、老婆に頼まれていたチャールズ・ウォレンのバートン卿コレクションを探し始めるクリス。そこに性格の悪いピュリッツァー賞受賞作家とか、何代にも渡って阿漕な商売をやってきた古書店とか、 鼻っ柱の強い美人弁護士とか、その他もろもろ、なかなか個性的な登場人物たちがからんできて、と、こういうところは面白いんだよね。
すみ そうそう、登場人物はなかなかいいんだよね。ストーリーが冗漫、というか、内容のわりに長すぎたってのがちょっと不満なところかな。このシリーズとしては、次回作が2005年3月に発表予定ってことで、また邦訳出版してもらえるかもしれないから、ここで見放したくはないところだけど。
にえ そうだね、今回はまあまあ、次作に期待ってことで。