=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ブラック・ヴィーナス」 アンジェラ・カーター (イギリス)
<河出書房新社 単行本> 【Amazon】
現代イギリス文学を代表する作家アンジェラ・カーター(1940年〜1992年)の自薦短編集。 ブラック・ヴィーナス/キス/わが殺戮の聖女/エドガー・アラン・ポーとその身内/『真夏の夜の夢』序曲と付随音楽/ピーターと狼/キッチン・チャイルド/フォール・リヴァー手斧殺人 | |
河出書房新社のModern&Classicのシリーズから、アンジェラ・カーターの短編集が出たので読んでみました。 | |
これはよくある日本で編集されたものっていうのじゃなくて、アンジェラ・カーター自らが選んで編んだ短編集なんだよね。 | |
収録された8編のなかには、ストーリーを追うだけで楽しい物語もあれば、文学は芸術だ!って感じの純文学の極みのような作品もあったよね。 | |
数えるとちょうど4つずつだね。芸術だ!ってほうは、読んでてクラクラするほどだったけど、短いからまだ読了にそれほど体力を消耗しないかな(笑) | |
ストーリー性のあるもののほうは、ホントにおもしろかったよね。長い物語を読んでるみたいに濃厚な味わいだったし。 | |
アンジェラ・カーターがどういう文学者だったかというのを知るには最適の1冊かも。単純に読書を楽しみた〜い、楽しませて〜って私たちのような人たちには、楽しくもあり、しんどくもあったけど。 | |
<ブラック・ヴィーナス>
愛人の前でくねくねと踊るクレオール出身の女、ジャンヌは褐色の肌、ボードレールの愛人の一人だった。 | |
冒頭から詩のような文章運びに戸惑ってしまったけど、凄い書き出しだったね。最後まで緊張感が途絶えないし。 | |
原書を確認したくなるような、鋭く研ぎ澄まされた文章だった〜。ジャンヌがボードレールと一緒にいるひとときを描写したって感じの内容でした。 | |
<キス>
サマルカンドで、タンバーレンの妻は夫の出征中にモスクを完成させようとしたが、まだ最後のアーチができていなかった。 | |
これは5ページちょっとのごく短い作品。 | |
サマルカンドという原色世界が鮮やかに浮き上がってくるような。とはいえ、あんまりわからなくて、雰囲気だけ楽しんだような(笑) | |
<わが殺戮の聖女>
開拓時代のアメリカ、オールド・イングランドのランカシャーで生まれたあたしは、両親を亡くし、9裁か10歳ごろから働きはじめた。 あげくに娼婦となって盗みをはたらき、監獄に送られて手に焼き印を押されてしまった。ヴァージニアのプランテーションで働かされることになったあたしは、いやらしいことをされそうになって監督に怪我を負わせ、インディアンの集落にもぐりこんだ。 | |
これはアメリカの、インディアンとヨーロッパから押し寄せてきた開拓者たちが戦っていた時代のお話。白人の娘である主人公がインディアンに共感して、インディアンとして生きようとするのだけど・・・。 | |
激しく、そして切ない物語だったよね。 | |
<エドガー・アラン・ポーとその身内>
母親は舞台の花形。踊り、歌い、どんな役でもこなす。父親は下手くそな俳優。槍持を演じるのがせいぜい。エドガー・アラン・ポーはそんな両親のもとに生まれた赤ん坊。泣きやまなければ、ウィスキーを脱脂綿に浸したものをくわえさせられる。 | |
これはエドガー・アラン・ポーの生い立ちというか、幼児時代に由来する心的背景を描いた作品だった。 | |
不思議なリアリティーにゾクゾクしたよね。 | |
<『真夏の夜の夢』序曲と付随音楽>
ゴールデン・ハーム(黄金の彫像)は南の国の荒野で生まれ、タイタニア(巨大な女)のおばあちゃんに育てられた。 | |
私が説明できるようなストーリーじゃないけど、雌雄同体、妖精、パック、森、女王さま・・・出てくる単語を並べるだけで、なんとなく雰囲気がつかめるのでは。 | |
というより、読む前からタイトルで予測できるかも。なにがなんだかわからないけど、ファンタジー色が濃厚だったのはたしか(笑) | |
<ピーターと狼>
ピーターがまだ生まれる前、ピーターの祖母が妊娠している娘の家に行ってみると、狼に襲われ、娘も娘の夫も殺されてしまっていた。ただ、娘は子供を産んだあとのようだったが、赤ん坊の姿はなかった。7歳の夏、ピーターは狼と一緒に小さな女の子がいるのを見た。 | |
狼に育てられた少女と、その身内の家族のお話。アンジェラ・カーターらしい展開と言っていいのかな。 | |
狼少女のと感受性の強い少年ピーターの邂逅、予想以上の緊張感だったね。 | |
<キッチン・チャイルド>
英国のカントリー・ハウスのキッチンで、コックのかあちゃんがスフレを作っている最中に、ぼくは作られた。前々からフランス人の一流コックをキッチンに置きたかった女執事は、ぼくがいることを理由に追い出そうとしたが、 他の使用人たちに阻まれ、ぼくはキッチンで育てられることになった。 | |
初めて作るスフレがうまく膨らむか心配しているふとっちょの女性コック、そこに忍びこんできたフランス人男性・・・語り手である「ぼく」の父親探しの物語、かな。 | |
ユーモラスな話運びで、最後はどうなるのかなとちょっと心配したけど、これは明るく楽しいお話だった。 | |
<フォール・リヴァー手斧殺人>
1892年、マサチューセッツ州フォール・リヴァーで、リジー・ボーデンは父親と母親に手斧を振り下ろし、惨殺した。 | |
これは、ご存じリジー・ボーデン事件の、おもに事件が起きる直前を綴った物語。 | |
短いなかに、リジー・ボーデンの深層心理がビシッと描かれていたね。もちろん、説明に納得させられる、なんて野暮な書き方じゃなくてだよ。 | |