すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「北極星号の船長」 コナン・ドイル (イギリス)  <東京創元社 文庫本> 【Amazon】
アーサー・コナン・ドイル(1859年〜1930年):スコットランドのエディンバラ生まれ。10人兄弟の2番目の子供。祖父と父はともに妖精画家。医師から作家へ転身し、 シャーロック・ホームズ・シリーズで、第一級のミステリ作家としての地位を築く。第一次世界大戦で息子を亡くした後は心霊現象に関心を寄せ、オカルト的な作品を数多く残す。
大空の恐怖/北極星号の船長/樽工場の怪/青の洞窟の恐怖/革の漏斗/銀の斧/ヴェールの向こう/深き淵より/いかにしてそれは起こったか/火あそび/ジョン・バリントン・カウルズ/寄生体
にえ これは、アーサー・コナン・ドイルの怪奇幻想ものだけを集めた短編集です。
すみ コナン・ドイルといえば、シャーロック・ホームズ・シリーズで推理作家としての名声を得ながらも、晩年は降霊会などのオカルト世界にはまりこみ、コティングリー妖精事件で妖精写真を信じて擁護したために世間の信用を失ってしまったというのは有名な話。 で、そのオカルト世界にはまりこんだ晩年にどんな作品を書いたのか、前から読んでみたかったんだけど、ちょうどこの短編集が出たので読んでみました。
にえ でもさあ、「晩年にはおかしくなっちゃいました」みたいなイメージが強かったから、書かれた怪奇ものもそうとうなキワモノだろうなと思っていたんだけど、どれもすごくきれいにまとまっていて、書く姿勢は冷静そのものって感じがしたよね。
すみ うん、とにかく上手いし、古めかしい奇譚ものの味わいが楽しくて、こりゃぜんぜんOKだよと思った。
にえ コナン・ドイルは怪奇作家としても一流だったって言っていいんじゃないかな。オカルトに傾倒していても、作家としての腕は最後まで衰えず、推理小説と同じくらいに怪奇小説でも才能が輝いていたんだなと納得。
すみ この文庫は時代を感じる挿絵もたっぷり入っていて、それもまた楽しかったよね。古めかしい奇譚ものなら嫌いじゃないよって方にはオススメ。
<大空の恐怖>
ケント州とサセックス州の境にあるウィジアムという村で、高名な飛行士ジョイス=アームストロングのノートが見つかった。そのノートには、空のだれも達したことのない高度での恐るべき経験が書かれていた。
にえ これはSFとして考えると、飛行機がこの高度に達するのはごく近い未来と予測できるわけだから、すぐにバカバカしいって言われるようになりそうな話なわけで、それを堂々と書く大胆さ、潔さには感心してしまうなあ。
すみ でも、バカバカしい話となってしまった今でも、航空奇譚ものとでも呼びたくなるようなこの小説は、本当におもしろくて、情景がクッキリと浮ぶ別の意味でのリアルさがあるよね。ジュブナイルっぽくもあるし、いい雰囲気が出てるな〜。
<北極星号の船長>
医学生ジョン・マカリスター・レイの日記によると、氷原のなかで立ち往生していた船、北極星号では、洋上になにかを見た、聞いたという船員が絶えなかった。そんな中、ジョンは船長の様子がしだいにおかしくなっていくことに気づいていた。
にえ 海洋奇譚はコナン・ドイルの得意とするところだったのかな。他の作品でイギリスと海は切り離せないとも言っているし。医学生が主人公のものが多いのも含め、かなり作者の経験が反映されているのかなと思ったり。
すみ 海上での船の様子がありありと語られているもんね。閉じこめられた小さな世界で起きる怪奇現象、これは怖いでしょう。
<樽工場の怪>
闘鶏号で河を行き、アンゴラのサンパウロ・デ・ロアンダをめざしていた船長メルドラムは、樽工場のある島に寄港した。そこには支配人のウォーカーと医師セヴラルという二人の白人がいて、メルドラムを歓迎してくれたが、樽工場では夜番の者が消えてしまうという事件が相次いでいた。
にえ 得体の知れないものの存在、その姿を見たとき・・・っていうのもコナン・ドイルが好んで書いたテーマなのかも。
すみ ギョッとするラストで、同時にどういうことかわかり納得、という流れはさすがにミステリー作家、巧いよね。伏線のはり方が上手。
<青の洞窟の恐怖>
ドクター・ジェイムズ・ハードキャッスルは肺結核の療養のため、ダービーシャー州北西部のアラートン姉妹の農場に滞在していた。空気もよく、景色も綺麗で、二人の老嬢もとても親切だったが、ただ一つ、少し気になることがあった。近隣の農場で羊が次々に消えていたのだ。 そして、だれも奥まで入ったことがないらしき洞窟で、ハードキャッスルはその秘密を知ってしまった。
にえ 得体の知れないものパート2って感じのお話。これもまた、最後には話がひとつにつながって、そういうことかと納得だよね。
すみ うん、巧いよねえ。途中ではなんじゃそりゃ、と思ったけど、最後には、そうか、それだったらアリかもしれない、と思ってしまった。
<革の漏斗>
1882年、私はパリのヴァグラム通りに屋敷を構える友、リヨネル・ダクルのもとを訪ねた。ダクルは数多くの貴重なオカルト文学の典籍を蔵していて、私はその図書室に泊めてもらえることになった。 しかし、そこにはあるおぞましい由来をもつ、風変わりな革の漏斗が置かれていた。
にえ これは漏斗ひとつから、遠い昔にあった怖ろしい出来事、凄まじい存在感を放つ悪女のことがわかるってお話。
すみ こんなの泊まりに行った友達の家で聞かされたら怖いよね〜。
<銀の斧>
1861年、ブタペスト大学に故フォン・シュリング伯爵のコレクションが遺贈された。貴重な中世の武器などが含まれるそのコレクションが大学に運びこまれた直後、 同大学付属博物館館長ホプシュタイン教授は、黄門のすぐ外で惨殺死体となって発見された。
にえ 謎の連続殺人事件、その裏にはオカルト的な秘密が隠されいたの。これはまあ、童話というか、民話なんかでもありがちなパターンって気もするけど、でもまあ、きれいにまとまっているから、読み応えは充分。
<ヴェールの向こう>
スコットランド南東部の町メルローズで百貨店を営み、町会議員や教会役員などを兼任するブラウンは、神経質なところのある妻マギーを伴い、ニューステッドにあるローマ人の砦の跡を見物に訪れた。ところが、遺跡を見るうちにマギーの様子がおかしくなり、そのうちにマギーは知るはずのない時代のことをありありと語りはじめた。
すみ これもまあ、わかってみると、ありがちといえばありがちなんだろうけど、短いながらもドラマティックで、淡い悲劇的なラストも良かった。
<深き淵より>
セイロン島でコーヒーを輸出する商会の共同経営者の一人ジョン・ヴァンシタートは、イギリスに戻ってくると、エミリー・ロースンという美しい令嬢と婚約した。 ヴァンシタートの友人アトキンスンは、二人と一緒にセイロン島へ渡ることにしたが、ヴァンシタートは一足先に船に乗り、アトキンスンはエミリー嬢とファルマスのホテルで船を待つことになった。 しかし、待てど暮らせど船は来ず、やっと届いたのは良くない報せだった。
にえ これもありがちな・・・と思ったら、わっ、そういうことか、と巧く虚を突かれてしまった。うまく雰囲気で持って行かれちゃうから、あとでハッとさせられるのよね。
<いかにしてそれは起こったか>
夜中にロンドンから戻ってきた僕は、駅で運転手のパーキンズが、届けられたばかりの新車で自分を待ってくれていることを知ると、どうしても自分で新車を運転してみたくなった。
すみ これも・・・いやいや、多くは語るまい(笑) どうしてもいい味出しているパーキンズに気持ちが行っちゃうのよね。
<火あそび>
マーカムはパダリー・ガーデンズ17番地のハーヴィ・ディーコンのアトリエで、気心の知れた仲間だけの降霊会に参加した。ところが、仲間の一人ジョン・モイアは見知らぬ人を連れてきた。 それが高名なオカルティズムの研究者であるフランス人ムッシュー・ポール・ラ・デュークだと知って参加してもらうことにしたが、フランス人は降霊の最中にちょっとした実験がしたいと言いだした。
にえ 降霊会とはいえ、仲間内だけでわりとホノボノとやっていたらしいんだけど、ムッシュー・ポール・ラ・デュークが加わったために、とんでもないことに。怖いというより、ちょっと滑稽で笑ってしまうような話だったかな。
<ジョン・バリントン・カウルズ>
インド生まれで、エディンバラ大学で優秀な成績をおさめる美貌の青年ジョン・バリントン・カウルズは、1879年に行われた王立スコットランド美術院の展覧会で、ギリシア風美女ミス・ノースコットに一目惚れしてしまった。 しかし、ミス・ノースコットとかつて婚約していた男たちはみな、普通では考えられないような悲惨な運命をたどっていた。
すみ 完璧なまでに美しいけれど、どこか邪悪な感じのするミス・ノースコット。人知の及ばない力で、自分に惚れた男を不幸にしていっているようだけど、その存在は謎だらけ。次の「寄生体」に答えがあるような気もしなくもないけど・・・。
<寄生体>
大学で生物学を教えるギルロイ教授は、同じ大学で心理学を教えるウィルスン教授のもとに滞在する、インドから来た催眠術師ミス・ペネロサの能力の高さに驚き、研究対象にしたいと申し出た。それが大きな過ちだと気づいたときには、すべてが遅すぎたのだった。
にえ これはホントに怖かった。どんどん追いつめられていくギルロイ、どうなってしまうの〜っ。