すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「存在の耐えられない軽さ」 ミラン・クンデラ(チェコスロバキア→フランス)  <集英社 文庫本> 【Amazon】
プラハの有能な外科医であり、数多くの女性と奔放な肉体関係を持ちつづけるトマーシュは、妻と別れ、 子供に会うことをやめ、気楽な独身生活をしていた。その生活は、テレザが押しかけてきて、一緒に暮らす ようになっても変わらなかった。「プラハの春」によって自由のない国となったチェコスロバキアを去り、 スイスに移住した二人だったが、異国の地になじめないテレザがチェコスロバキアに戻ると、トマーシュ もあとを追って戻った。それは、屈従できないトマーシュにとって、もう二度と医師として働けないことを意味していた。
にえ ず〜っと前にテレビで映画を見て気に入ってたんだけど、原作があると知ったのはつい最近。
すみ でも、この作家さんはそうとう有名な人なのよね。私は、なん となく名前は聞いたことがあるかな程度にしか知らなかったけど。
にえ もともとはチェコスロバキアの作家だけど、「プラハの春」で 著作がすべて発禁になり、フランスに亡命して文筆活動を続け、ヨーロッパで最高の作家と言われてる人なのよね。
すみ プラハの春については私たちのいい加減な知識を堂々と書くの もヤバイので、広辞苑からそのまま抜粋しておきましょう。
にえ 「チェコスロヴァキアで一九六八年、知識人らを中心として自由 化・民主化運動が活発となり、ドプチェク共産党第一書記はじめ政府もこれに応じたことを指す。しかし、 この年八月、ソビエト連邦およびワルシャワ条約機構加盟国の軍隊が軍事干渉をおこなって、自由化運動は 弾圧された。」とのことです。
すみ 要するに、社会主義のもと、知識人、芸術家などがこれをきっ かけに弾圧されるようになったってことでしょ。
にえ この本のなかでも、いろんな話が出てくるよね。
すみ 登場人物にサビナという女性の画家がいるんだけど、この人の 話が一番驚いた。社会主義では抽象画は認められず、絵は写真のように正確に描くことが正しいとされてい るなんて、知らなかった。
にえ で、この本なんだけど、映画とストーリーが近いのは当たり前 だけど、印象は正反対だったよね。
すみ そうだね、映画だと出来事だけを追って、あとの深層心理だの、 それにいたるまでの思考などっていうのは、観る人が想像で補ってくわけだけど、こ、この本は・・・。
にえ 心理から思考まで、まあ論文かいってぐらい事細かに書いてあるのよね。
すみ 小説の形式を借りた論文なんじゃないの? 「愛とはどこから来 て、どこに行くものなのか」とか「社会主義における人間性とは」なんて作者の語りたいことを、物語形式で 論じてるっていうか。
にえ やっぱりそうなのかな? でも、それにしても主軸になってる ストーリーが素晴らしく素敵。浮気ばかりしている男と、嫉妬に苦しみ、傷つきながらも、意識しないまま 男を振り回し、人生を狂わせてしまう女。せつなかった〜。
すみ けっきょく、二人が一緒にいるためには、自分たちの人生の 大半を犠牲にしなきゃならないのよね。別に物々交換みたいに愛と人生を引き替えにするわけじゃないけど。
にえ 二人が飼ってる犬の話もよかったよね。人間は進んでいきたが るけど、犬は同じ所をグルグル回りたがる。あの話には、はっとした。
すみ あとさ、ラストが美しかった〜。二人の人生の結末は、もっと 前のページでさりげなく出しておいて、ラストはその直前のシーンなのかなってところで止めてある。
にえ 出つくしたと思っても、まだまだラストの手法は残ってるのね。 力のある作家はラストが違う!
すみ それにしても、映画はアメリカ映画だったんだよね。だから 雰囲気があの感じなのかな。やけに画面が明るいっていうか。フランス映画とかだったら、また雰囲気が 違ってたかも。
にえ もっと原作に近くなってたのかな?
すみ でも、映画を見てから原作読んでよかったかもね。だいたいの ストーリーだけでもわかってて助かった。
にえ わからないまま読んでたら、途中で投げ出してたかも ね(笑) 後半はぐっと惹きつけられたけど、前の半分はちょっとつらかった。
すみ 論文的な文章は長いし、テレザの夢がたくさん出てくるんだ けど、夢と現実がはっきり区切ってないから混乱しそうになるのよね。
にえ ということで、「プラハの春」前後の重みのある背景に、風変わ りであっても納得のいく愛の物語、とっても素敵でしたが、長々とした著述に耐えられる方のみにオススメってことで。