すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「令嬢クリスティナ」 ミルチャ・エリアーデ (ルーマニア)  <作品社 単行本> 【Amazon】
ルーマニアのとある村、貴族屋敷に滞在することになった若き画家エゴールと考古学教授のナザリエ氏。 その屋敷には、モスク未亡人とその娘二人サンダとシミナが住んでいた。それに、亡霊となった美しき令嬢 クリスティナ。クリスティナは三十年前に亡くなった未亡人の姉で、その美貌と悪行が伝説となっている 女性だった。
にえ 私たちにとっては2冊めのエリアーデ、エリアーデにとっては、最初に書いた幻想小説です。
すみ 前に読んだ『ホーニヒベルガー博士の秘密』とは、だいぶ雰囲気が違ったよね。
にえ 『令嬢クリスティナ』の雰囲気の小説は、他にないって解説に 書いてあったから、『ホーニヒベルガー博士の秘密』のような東洋カルト宗教色の強い作品のほうが多いのかもね。
すみ 『令嬢クリスティナ』はルーマニアが舞台で、ぜんぜん東洋的 な雰囲気はないよね。完璧に西洋的。ゴシック小説、というか、ルーマニアならではのドラキュラ的作品よね。
にえ そうそう、魅惑的な霊の令嬢クリスティナが、若き男の生き血 ならぬ精気を吸い取っちゃうの。女版ドラキュラ。
すみ ちょっとエロティックで怖ろしい話、ゾクゾクしちゃうよね〜。
にえ クリスティナは20歳で死んだ美貌の女性なんだけど、地元の 村では悪女的な行動が今でも語りぐさになっているの。マルキ・ド・サドのジュリエットなみ。自分の魅力 を利用して男たちを惑わし、自らの欲望を満たすような女。
すみ で、恨みに怒りをかいまくり、1900年初頭の農民一揆で殺されてるのよね。
にえ でも、死体は見つかっていないのだっ。
すみ 屋敷の奥の部屋にひっそりと掛かる美しい令嬢クリスティナの 肖像画。それはもう、こっちを見つめて虜にしようとするような妖しい美しさ。
にえ 未亡人は奇怪な行動をするし、8歳の次女シミナがまた怖い。
すみ 天使みたいな、すっごく綺麗な子なのよね。でも、子供とは思えない悪魔っぷり。
にえ 大人顔負けの嘘はつくわ、罠にはめるわ、冷笑するわ、楳図かずおの『洗礼』なみだね。
すみ もう一回サド侯爵の本を例にとれば、姉妹が逆で、姉の サンダがサドの本では妹のジュスティーヌ的な聖女系、妹のシミナがサドでは姉のジュリエットなみの悪女って設定よね。
にえ 聖女はサドのに比べて格下だけど、悪女については8歳でこの ド迫力、シミナのほうが上かもね。
すみ で、みんなどんどん変になっちゃって、エゴールは シミナに翻弄され、クリスティナの霊に取憑かれ・・・。
にえ ルーマニアの古い詩が効果的に使われてたりするのよね。 ミハイ・エミネスクの『金星ルチャーファル』。
すみ 私たちは知らなかったけど、解説で説明してくれてあるので、 ご安心を。翻訳本の解説はこういう時のためにあるのよね、翻訳者さん、エライ!
にえ で、まあ、全体的なことを言うと、わりと説明は省いてて、 想像にお任せしますって部分が多い。
すみ そこで好き嫌いは分かれるかもね。妖しげな雰囲気に酔って、 いろいろ想像するのが好きな人にはもってこい。想像する材料はたっぷり与えてもらえます。
にえ 一から十まで全部説明して欲しいってタイプだと、物足りないかもね。
すみ ちなみに私は、女子供の容姿の説明はたっぷりしてるのに、 若き画家エゴールの容姿をほとんど書いてくれなかったのだけ、ちょっと不満。エリアーデ、汝は男だ、妾は女だ(笑)
にえ 読みこむより、雰囲気を存分に楽しみたい方にオススメです。 そういった意味では、ごく上質。ちなみにミルチャ・エリアーデ、私たち的には二重丸ということで。