すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「さむけ」 ロス・マクドナルド (アメリカ)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
ひとつの裁判が終り、休暇をとろうとしていたアーチャーは、裁判所で切迫した雰囲気の青年アレックス に呼び止められた。アレックスは結婚したばかりで、しかも新婚旅行の初日に新妻が姿を消したと言う。 妻の名はドリー。アーチャーによってドリーはすぐに見つけだされた。ただ、名前を変えて大学に通って いたドリーと話してはみたものの、その言動は理解に苦しむものだった。ひとまずは解決かと思われたが、 血まみれで半狂乱になったドリーに、アーチャーの捜査はふたたび始まった。
にえ こ、これはまた、力ずくでしたね〜(笑)
すみ そうね、前に読んだ『運命』でも、精神医学にかこつけて、 かなり力ずくにまとめてるな、と思ったけど、これはそれ以上だったね。
にえ 驚愕の結末を用意するためには、これぐらいの無茶も無理矢理も必要悪?
すみ まあ、おもしろいことは、おもしろかったよ。おもしろければ、OKですかね。
にえ アーチャーは一段とよかったよね。ヒステリックになっちゃっ てる人にも、この人はきっと精神的にこういう状態だからこうなっちゃうんだろう、みたいな深読みのやさ しさを見せてくれて、いい人だな〜とシミジミ(笑)
すみ なんか『運命』の時も思ったけど、アーチャーって、もと警察 の人っていうより、カウンセラーかセラピスト?って感じがする。すごい人の心に対して感受性が豊かだよね。
にえ 感受性も豊かだけど、記憶力もいいってことになってるよね。 でも、この本のなかでは一カ所、なんで名前聞いてすぐ思い出さないの〜ってところがあったでしょ?
すみ ああ、あそこはなんですぐ気づかないんだろうって不思議だっ たね。わざととぼけてるのかと思った。
にえ それはともかく、今回のお話は、最近起こった殺人、十年前に 起きた冤罪疑惑のある殺人、二十二年前の事故に見せかけた殺人、の3つの殺人が絡んでるのよね。
すみ 同じアメリカとはいえ、場所がぜんぜん離れてるし、人間関係 にもつながりがありそうでないし、これがどうつながっていくんだろうとイヤでも興味は高まっていきます。
にえ そんな中に、ファザコン気味の青年とか、強烈にマザコンの中年 とか、こわもてのババアとか、なかなか個性的な人が次々と出てくるのよね。
すみ 私はこの本で気づいたんだけど、マザコンの中年男には慣れる けど、ファザコン気味の青年は、いつまでも気持ち悪いね(笑)
にえ それはともかく、アーチャーは『運命』でもそうだったけど、 もと警察の人なのに、警察の人とはうまくいかないね。2作とも、警察の人と反目しあってた。
すみ 他の人とは多少感じ悪くても、なんとか仲良くしていくのにね〜。
にえ この2回ともの対立からして、冤罪をかけられた弱い立場の 依頼者側と、ちゃんとした捜査もしないで逮捕しようとする強気な警察側、で、そこに弱い立場の味方を するアーチャー登場ってのが定番の構図になってるのかしら。
すみ そこに、冤罪をかけられるのが精神を病んだ人だってのと、 精神科医の登場と、お金持ちの地元の名士の家、登場人物がそこそこインテリな人たちってあたりも共 通してたよね。
にえ ただ、『運命』は家庭の悲劇だったけど、『さむけ』は 男女の複雑な愛憎関係の悲劇だったよね。
すみ まあ、そのぶん、しょせん他人事って感じで、気楽に読めたね。
にえ 物足りないといえば、物足りなかった。なんか誰にも同情でき なかったしな〜。
すみ まあ、話は複雑で展開はおもしろく、夢中になって読んだけど、 深い感動はなかったかなって感じ。
にえ エンターテイメント系のミステリってことで、驚かされて喜んで ればいいんじゃないでしょうか? 力ずくなだけに、この本のラストはドヒャ〜っと凄かった。やっぱりな、 でもあったけど(笑)
すみ 私は『運命』のほうが好きだったな〜。
にえ 私はアーチャーが好き〜(笑)