=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「テレザ」 ジョルジ・アマード (ブラジル)
<東洋出版 単行本> 【Amazon】
幼いうちに乗り合いバスの事故で両親を亡くしたテレザ・バチスタは、叔母夫婦に育てられていた。テレザは近所の少年たちと野原をはね回り、ゴイアバの木に登って実を囓ったりする、悪戯小僧のような少女だったが、やがて美しさが花開くだろうことが見て取れた。テレザは13才になる前に、 15才にも満たない少女たちの処女を奪い、奪うたびに首にかけたネックレスに通す金のリングを増やしていくという、ジュスト大尉に目を付けられてしまった。叔母はテレザを150万レイスと食料品の山、それに偽物の石がついた指輪と交換に、テレザをジュスト大尉に売り渡してしまった。 | |
2001年に亡くなった、ノーベル文学賞候補の筆頭とも言われていた、ブラジルを代表する作家ジョルジ・アマードの大作の初邦訳本です。 | |
ホントに大作だね。2段がまえの文章がビッシリと、500ページを越す長さ。読んでも、読んでも、なかなか終わらない。 | |
変化は激しくあるけど、それほどスピーディーでもない展開だから、かなり長いな〜って感じはあるよね。時によっては完全に流れが停滞したようになって、うねるような文章が延々と続いていくし。 | |
それでも強く惹かれ、読み続けてしまうのは、芳醇な味わいと、原色を遠慮なく使った絵のような極彩色の美しさのためかな。 | |
うん、けっこうエロいというより、エグイと言ったほうがいいぐらいの内容だったりもしたんだけどね。やっぱり眩いばかりの生命力に引っぱられ、読み続けずにはいられなかったな。これぞ南米文学ってところを見せつけられた。 | |
ただ、こういう文学作品に、そういう穿った見方をするなよって叱られそうだけど、繰り返して語られる処女のみを好む情欲とか、若い女性を愛人にする老人とか、いつまでも純粋なままの売春婦とか、男性の願望的なものがかなり反映されているようなところがあるから、 女性読者より男性読者により受けそうな感はあるけどね。 | |
テレザじたいが、男性にとってのある種の理想像なのかなってところはあるかもね。お色気たっぷりなのに、じつは家庭的。でも、それにしたってこの彩りの鮮やかさ、この濃厚ながらも、どこか爽やかさのある味わいは、男女を問わず、抗えない魅力でしょ。 | |
とにかく急いで読もうとしないほうがいいよね。一年でも二年でもかけて、ノンビリこの本を読むぞ〜ぐらいの気持ちで読んだ方がいいと思う。ゆったりと身を任せてこそジワジワ伝わってくる魅力だと思うから。 | |
話としては女の一生ものなんだよね。テレザ・バチスタという伝説になった女性の足どりを追った、という内容。ただ、時系列に添ってはいなくて、かなり時が前後するんだけど。 | |
時が前後するってことは、先にどうなるかがわかっていて、読むところが多いってことよね。でも、そのへんはうまいんだけど、いざその話が始まると、その語られている過程のほうに魅力が大きいから、先がわかってるってことはほとんど気にならないの。 | |
テレザは両親を亡くし、叔母夫婦に育てられていたんだけど、13才にもならないうちに、土地のボスで、年端もいかない少女たちの処女を奪うことで悪名高い、ジュスト大尉に売られてしまうの。 | |
大尉といっても、雑貨屋の主人なんだけどね。 | |
そこで何年か、女奴隷のような生活を強いられたあと、エミリアノ博士の愛人となり、それから伝説となるような、いくつかの戦いを勝ち抜いていくことになるのよね。 | |
博士といっても、製糖工場の社長なんだけどね。 | |
そして、美しく成長したテレザは、高級売春宿で働きながらも、サンバの踊り手としてデビューを果たす。小説の冒頭がこの時期にあたるんだけど。 | |
テレザは決して泣かない、女性に暴力を振う男がいれば、後先考えずに殴りかかっていくような強い女で、だけど、じつは平凡な家庭を持つ幸せを望む、子供の好きな母性的な女性だったりもするのよね。 | |
賢く、行動力があって、光り輝くばかりのとびきりの美人、でも、心はつねに最も弱い立場の人たちに向けられているのよ。だから、テレザの戦いが熱狂を呼び、いつしか伝説となっていったの。 | |
作家がその伝説となった女性テレザの足跡を追うって設定なんだよね。 | |
戦う美女テレザは多くの本や歌や絵になっているんだけど、けっこうみんな好き勝手に語っちゃってて、あてにならないのよね。 | |
テレザはいろんな神々に譬えられ、守られていると言われてるの。オグンとか、オガンとかいう言葉が、「神に取り憑かれる存在」って意味らしいんだけど。 | |
あるときは、戦いの神イアンサン、あるいはオグン、疱瘡の神オモル、精霊オリシャなどなど、ブラジルの神の名がたくさん挙げられてた。こういうのも魅力だよね。読んでいるうちに、ブラジルの神話をもっと知りたくなってしまった〜。 | |
あえてオススメはしないけれど、南米文学好きなら、やっぱり読むべき作家さんでしょう。 | |