=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「フォー・レターズ・オブ・ラブ」 ニール・ウィリアムズ (アイルランド)
<アーティストハウス 単行本> 【Amazon】
ダブリンに住むニコラス・コホランが12才のとき、父のウィリアムは神の啓示を受け、役所勤めを辞めて画家になった。ウィリアムは夏になると旅に出て、夏の終わりにたくさんの絵を持ち帰ったが、どれもわけのわからない、 とても売れそうにない絵ばかりだった。ウィリアムの理解できない行動に、母のベティは精神を病んでいき、ニコラスだけは父を信じようとしていた。同じ頃、西の島でたった一人の校長ミリシュの、11才の娘イザベルと10才の息子ショーンは、 海岸でショーンが歌い、イザベルがそれにあわせて踊っていたが、突然、ショーンの様子がおかしくなり、そのまま植物状態になってしまった。 | |
なんだか、もうちょっと邦題をどうにかできなかったものかって気はしますが、読んでみました(笑) 新刊じゃないんだけどね。 | |
タイトルには引きまくっちゃうけど、内容は素晴らしかったよね。 | |
題名からすると、ベッタベタの恋愛ものかなあ、と思っちゃうけど、違ったよね。逆に濃厚な恋愛ものを期待して読みはじめたら、かなり戸惑うかも。 | |
二人の主人公のそれぞれの人生が、並行して語られているんだよね。あ、それとあと、二人の両親のそれぞれの結婚にいたるまでの過程についても細やかに描かれているんだった。 | |
一人はニコラス。ニコラスはダブリンに住んでいる12才の少年ってところからスタート。役所勤めで無口な父親と、きれい好きの母親、平穏な生活を送る少年だったのに、大変なことに・・・。 | |
父親のウィリアムがある日突然、神様のお告げがあったとか言って、役所勤めを辞めて画家になってしまうんだよね。 | |
画家っていっても自称で、絵が売れるわけでも、売れるあてがあるわけでもないからね。それまでウィリアムに頼って生きるだけだった母親のベティは、ウィリアムについていけず、どんどん内にこもってしまうようになるの。 | |
ウィリアムが売れそうな絵を描いてくれているなら、まだよかったんだろうけどねえ。ウィリアムの行動は、ベティから見ても、世間から見ても、常軌を逸して狂気に走っているとしか思えない。 | |
急速に壊れていく家庭のなかで、ニコラスだけはなんとか、ウィリアムのやっていることに意味があるんだと信じつづけるのよね。少年の一途な思いが切なかった。 | |
私はラスト近くまで、どんどん遠いところに行ってしまう父親に不安を感じて、必死でしがみついているのかな〜なんて思いながら読んでいたんだけどね。 | |
もう一人の主人公がイザベル。イザベルはアイルランドの西ノ島に住む11才の少女、ってところから始まるの。 | |
イザベルの父親ミリシュは、教師をやりながら詩人を目指していたんだけど、今は夢をあきらめて島の学校の校長先生。ちょっとアルコール依存症ぎみ。 | |
夢をあきらめたとはいえミリシュは、頭がよくて美しい娘と、音楽の才能のある息子に期待を寄せ、それを生きる希望にしているから、それほど不幸ってこともないんだけどね。 | |
それがある日、一転してしまうんだよね。息子のショーンがまったくの原因不明で、突然、植物状態のようになってしまい、それっきり。 | |
期待の娘も期待通りにいかないしね。 | |
二つの家庭が本当に細やかに描かれていたよね。どの人の心情もジンジンと伝わってきて、わかるだけにどうしたらいいかわからなくなっちゃった。 | |
だけど、不思議と読んでて息が詰まってはこなかったよね。それぞれに不幸を抱えてはいるんだけど。 | |
小さな希望を抱いていたり、そんな中でも忘れられなくなるような、美しい思い出ができたりするもんね。 | |
やっぱりアイルランドっていう背景が大きいでしょう。うまく説明できないんだけど、読んでいる間中、アイルランドの地だってことを意識しつづけてしまったのよね。 それがヒンヤリとした、燻った透明感になっていて、人の存在が大きくなりすぎないというか。 | |
つねに意識させられる大きな存在なのは、アイルランドの地とその自然だけじゃなくて、すべてを包括する運命というか、神というか、そういうものの存在もあったよね。 | |
うんうん。島が舞台になっているせいか、E.アニー・プルーの「シッピング・ニュース」もちょっと連想しちゃったな。あと、マジックリアリズム的な描写もあって、それがまた寒い地でもピタッとはまっているの。 とにかく登場人物はみんな繊細なところがあって、少しだけ傷つきやすい人たちで、でも、重く息苦しい話ではなくて、やさしい視線があって・・・ああ、うまく説明できない。とにかく良かったのっ。 | |
これはもう間違いなく、オススメでしょう。きびしくも柔らかな光を放つような美しさがあって、きわどいところで止めて大げさになり過ぎないストーリーになっていたし。読書の喜びを存分に味わえる1冊でした。 | |