すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「古い庭園 ―メルヒェン―」 マリー・ルイーゼ・カシュニッツ (ドイツ)  <同学社 単行本> 【Amazon】
大きな町の真ん中にある古い庭園。そのそばにある大きなアパートに、9才と8才の兄妹のいる家族が越してきた。子供たちのあいだでは古い庭園に関する怖ろしい噂話がいくつもあったが、 二人はどうしても古い庭園に入ってみたかった。そんなある日、二人の両親が小旅行に出かけた。さっそく古い庭園に足を向けた二人だが・・・。
すみ 私たちの苦手な「ですます調」のメルヒェンですが、がんばって読みました(笑)
にえ 子供の頃から「ですます調」に耐えられず、何冊の本をこれまで途中で放り出したことかっ、だよね。でも、これは大丈夫だった〜。
すみ 9才の兄と8才の妹が主人公で、小さくなっていろんな世界を旅する物語ってことで、こりゃそうとう子供っぽい感じなんだろうなと身構えてしまったけど、読んだら予想していたのとは、ちょっと違ったね。
にえ 子供っぽいかどうかっていうより、私たちの嫌いな子供だましっぽさがなかったんじゃない。だから抵抗なく読めたんだと思うよ。
すみ そうだね、これぞメルヒェンって言いたくなるぐらい、メルヒェンな世界なんだけど、キッチリ自然科学をふまえてるなってところが多々あったり、大人のシビアな悩みを垣間見せるシーンがいくつもあったり、それになんといっても、さすが詩人、ごまかしなしに美しかったし。
にえ そうそう、あとで知ってみれば、このマリー・ルイーゼ・カシュニッツって方は高名な詩人であり、作家であるそうなんだけど、児童文学を書く方ではなかったみたいなのよね。なるほどと思った。
すみ 本当に詩情あふれる美しさだったよね。影響を受けやすい私としては、この本を読んでから、道端にはえてる草や植えてある花が、急に鮮やかに美しくなって見えた。小さな生命がキラキラと輝きを放っているわ! な〜んて(笑)
にえ というか、地上に伸びてる草や木の枝葉を見て、見えない地下の脈々とした息づきを意識するようになったよね。あ、私も影響を受けてる(笑)
すみ お話はね、兄妹がアパートのそばの古い庭園に忍び込み、植物や鳥や昆虫を片っ端から痛めつけてしまうの。
にえ この兄妹、最初から最後まで名前がなかったよね。兄とか妹とか、少年とか少女とかって書き方をされてて。そうか、ムクドリはムクドリで、ミツバチはミツバチで、花に栄養を与えて老いてきているチューリップの球根は球根おばさんだから、少年は少年、少女は少女なんだ、と妙に納得してしまったんだけど。
すみ で、庭園には怖い庭師がいるって話だったんだけど、現われたのは美しいブナ夫人。ブナの木の精なのね。この方が、古い庭園の長のような役割をしているみたい。
にえ そのブナ夫人が裁判長で、兄妹に痛めつけられた鳥や昆虫、草木の精が原告兼検察官みたいなもので、兄妹が被告、という裁判のようなものが行われることになるのよね。
すみ だいたいそんなところなんだけど、なんかあなたの説明だと、メルヒェンじゃなくなるなあ(笑)
にえ でもさあ、さすがドイツ人作家というか、メルヒェンとはいえ、そういうキッチリした構図を作ってるところが、この作品の良さでもあると思うんだけど。
すみ じゃあ、いいよ。検察側は死刑を求刑するんだけど、裁判長は被告に条件付きで猶予期間を与えるのよ。公正な裁判をするための弁護人がいないから、探してこいってね。
にえ ごめんなさい、やっぱり雰囲気こわれるから止めてほしい(笑)
すみ で、兄妹は大地の母、海の父、太陽、風に会うために旅立つことになるの。
にえ 四元素をキッチリふまえてるよね。それに、四季もキッチリ経験するの。まさにこの世のすべてを短い間に知ることになるって感じ。8才と9才でここまで一気に経験させていいものかと思うほどだけど、これもまた、日本じゃまだ子供っていう時期に自分の将来を決めさせるというドイツの方ならではの厳しさかなと思ったり。
すみ 旅の途中で兄妹は、孤独に死んでいこうとする男と出会ったり、飛べない若鷲に出会ったり、ナナホシテントウの旅立ちに立ち会ったり、沈没船の幽霊と話したり。どの経験もシンとするような美しさがあって、巻末解説で宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」があげられていたけど、 本当にそういう美しさがあるなと思った。
にえ そうそう、生と死をかなり強く意識させられるような美しさだよね。甘やかなようでいて、とてもシリアス。つねに寂寥感のようなものが漂ってるの。
すみ あ、あとねえ、冒頭のほうで、あれ、これってもしかして、と思う記述があったんだけど、巻末解説を読んだらやっぱりそうだった、名前をあげられずにある絵について言及されてるんだけど、それがこのカバー絵だった。そういうのも嬉しいよね。
にえ まさに読み継がれるべき名作メルヒェンだったね。オススメです。ちなみに、別の方の訳で1980年に、「精霊たちの庭」というタイトルで一度邦訳出版されているそうです。