=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「サンセット・ヒート」 ジョー・R・ランズデール (アメリカ)
<早川書房 単行本> 【Amazon】
1930年代、大恐慌のさなか、テキサス東部の町キャンプ・ラプチャーに大竜巻が襲った。そのとき、サンセットは夫ピートに暴力を振われていた。このままでは殺される。 サンセットはピートのホルスターから38口径のリボルバーを抜き、彼のこめかみに一発撃ち込んだ。大竜巻が過ぎ去ると、サンセットはすぐにピートの両親のもとに向かった。 そこに娘カレンを預けていたのだ。罪を問われると思っていたサンセットだが、ピートの母マリリンはわかると言った。自分も同じ目に遭ってきたから。さらにマリリンはピートに替わって町の治安官を決める集会で、 なんとサンセットを推薦してくれた。 | |
さてさて、ランズデールの邦訳最新刊です。どうかな〜と読む前は心配だったんだよね。 | |
ランズデールは私たち的には当たり外れが激しいからね。でも、これはアタリでしょう。 | |
うん、おもしろかった。ピリリとスパイスの効いた、しまりのあるおもしろさだったし、いつものランズデールのミステリだと、どんなに良くてもラストで、まあ、こんなものかって思ったりもするんだけど、 これはラストも納得。完成度高いぞ〜って感じだった。 | |
主人公がよかったから、読みはじめに期待が大きくなっちゃったけど、裏切られなかったよね。 | |
そうそう、ランズデールで女性の主人公って初めて読むよね。意外と、と言ったら失礼かも知れないけど、女性の心理描写が細やかで、違和感がなかった。 | |
主人公は燃えるような赤毛の美人、でっかいオッパイに長い脚、男たちからはいやらしい目でしか見られないような女性なのよね。燃える夕陽のような赤毛だから、サンセットって呼ばれてるの。 | |
サンセットは結婚もしていない男に妊娠したとたんに捨てられた母に育てられるけど、母親もサンセットを捨て、そこからは苦労の連続だったみたいよね。 | |
そのうえ、素敵だなあと心を奪われた男性ピートとつきあってすぐに妊娠、結婚してもらえたからのはよかったけど、ピートは暴力夫。さんざんよね。 | |
ピートは町の収入源のほとんどを占めるような大きな製材所の息子で、町の治安官だったのよね。 | |
で、結局、暴力のすえに殺されると予感したサンセットはピートを殺すことに。 | |
正当防衛かもしれないけど、サンセットには両親がいないし、ピートはサンセットには暴力を振っていたけど、一人娘のカレンにはやさしくて、いい父親だったから、カレンもサンセットの味方になってくれるような感じじゃなくて、かなりヤバイ状況なのよね。 | |
ところが、ところが、だよね。なんとピートの母親マリリンが味方になってくれるの。実はマリリンもまた夫の暴力にずっと耐えてきた人で、ピートが暴力夫になったのは、自分たちのせいだと気づいたみたいなの。 | |
ピートの母親一人じゃあ、と思うけど、じつは製材所はマリリンが父親から受けついだものだったのよね。この後ろ盾は大きい。 | |
そのマリリンの後ろ盾のおかげで、サンセットは治安官になるの。治安官っていうのは、保安官を置くほどの規模じゃない町に置かれるものらしいんだけど。 | |
助手を二人つけてもらえることになるのよね。一人は体が大きく、気持ちはやさしく、でも、ちょっと不潔ではあるクライドっていう男性。もう一人はヒルビリー。ヒルビリーは田舎ものって意味の綽名みたいなんだけど。 | |
ヒルビリーは流れ者なんだよね。でも、とってもハンサムで、サンセットは一目見るなり惹かれちゃうんだけど。 | |
で、治安官になったサンセットは、ピートが残した業務日誌から、大きな犯罪に気づき、戦うことに、というお話。 | |
そっちの戦いだけじゃなく、サンセットとカレンの母娘の関係の修復とか、小さい町ならではの人間関係とか、新しい出会いとか、 そのへんもキッチリ書かれてて、読み応えがあったよね。 | |
1930年代の南部の小さな町って背景もきっちり描かれてたから、ランズデールというと期待してしまうそっちのほうでも大満足だったでしょ。 | |
ヌママムシもちょっと言及されてたしね(笑) あとはイナゴの大群とか、そしてランズデール作品には欠かせない、黒人と白人の二層構造の複雑さも、ワンパターンにならずにまた新しい方向からキッチリ書いてくれてあったし。 | |
もうちょっと栄えてる隣町の様子も書かれてて、映画を見てるみたいに景色がはっきり浮かんだよね。これはホント、ランズデールが円熟期に入ったなって感じさせてくれるような完成度の高さだった。 | |
シリーズ化されるのかなと思ったけど、そうではないみたいよね。ちょっと残念。サンセットのその後が気になるぐらいよかったんだけど。ランズデールはわりと好きな方、そうじゃなくてもおもしろそうだなと思った方にはオススメです。 | |