=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「鎮魂歌(レクイエム)」 グレアム・ジョイス (イギリス)
<早川書房 文庫本> 【Amazon】
妻ケイティーを亡くしたトムは、学校教師を辞め、学生時代からの女友達シャロンのいる、エルサレムを訪れることにした。そこはケイティーが行きたがっていた場所でもあった。 連絡もせずに訪問したため、シャロンは留守だった。トムはひとまず安ホテルに滞在することにした。そこには、ホテルから何年も出ていないという学者ふうの老人デイヴィッド・フェルドバーグがいた。 夜の街に出たトムは、不思議な老女に出会った。英国幻想文学賞受賞作品。 | |
英国幻想文学賞を4度も受賞しながら、これまで邦訳本が一冊も出ていなかったグレアム・ジョイスの初邦訳本です。 | |
いきなりで申し訳ないんだけど、これは読みはじめに私が期待しちゃったものと、その後の話の展開が食い違ってしまって、ちょっと正しい評価ってものができそうにないんだけど。 | |
いきなりそんなこと言われても(笑) とりあえず、話せる範囲で話しましょうよ。 | |
じゃあ、まず、英国幻想文学賞受賞作ってことなんだけど、幻想文学といってもいろいろあるでしょ、これはどうだろう、ホラー要素が強いかなと思ったんだけど。 | |
そうだね、ホラーって一括りにされちゃうと、ちょっと抵抗があるけど、全体的にはゾゾッとする怖い内容だったし、主人公がどんどん精神的に追いつめられていったしね。 | |
その恐怖の方向性が、私が期待したものと違ってたんだよな〜。最初のほうで死海文書の話になって、てっきりトム個人のことより、そっちの話が中心になると思っちゃったんだけど。 | |
まあ、正直、私も読んでて、べつに愛着もわかないトムの個人的な悩みより、そっちの部分のほうにより興味を惹かれたけどね。 | |
でしょ、そっちは雰囲気を醸しだす道具のひとつで、本筋がトムのほうだと最初からわかってればよかったんだけど、最初のほうに書かれてるものがそっち中心だったから、それで勘違いしちゃったんだなあ。 | |
最初のほうでは、トムの悩みについてはわりとサラッと書かれてるよね、だんだんと浮き彫りになっていく感じ。 | |
トムは35才、妻が車の運転中、倒れてきた大木によって亡くなってしまい、学校でもなにやらあったらしく、教師を辞めて、妻が行きたがっていたエルサレムへ出掛けていくの。 | |
トムの亡くなった妻ケイティーは、自分が死ぬことを前から知っていたふうなんだよね。その話も少しずつ挿入されていくんだけど。 | |
で、トムはエルサレムにいる女友達シャロンを訪ねていくんだけど、留守なの。 | |
シャロンとは学生時代からの親友なんだよね。男と女の親友ってことで、ケイティーも初めのうちはいい顔しなかったみたいだけど、そのうちに三人が仲良しって関係になれたみたい。 | |
シャロンはユダヤ人で、リハビリセンターのセラピストなんだよね。 | |
エルサレムはユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒が混在し、中に入れば、その中でまた細分化してて、かなり複雑みたいだったね。この小説の中でも、暴動が起きたりして、治安の不安定さがうかがえた。 | |
なにしろエルサレムは、ユダヤ教の聖地でもあり、キリスト教の聖地でもあり、イスラム教の聖地でもあるんだから、ややこしくなるのも当たり前だよね。 | |
美しくもあり、醜くもあるエルサレムが細やかに描写されてた。神聖とされる場所の本当の歴史とかが、どの宗教寄りでもなく書かれていて、ちょっと勉強にもなったし。 | |
で、安ホテルに滞在したトムは、そこでデイヴィッドという不思議な老人と出会うの。デイヴィッドは長いことホテルから一歩も出ていないギリシャ生まれのユダヤ人で、学術論文の翻訳者としてわずかな収入を得て、暮らしていってるらしいんだけど。 | |
デイヴィッドの出現が、死海文書、マグダラのマリアに関するイエス・キリストの真実へと繋がっていくんだよね。 | |
しかも、シャロンの友人で、アフマドっていう40才ぐらいのアラブ人が登場し、これでキリスト教徒であるトムに、ユダヤ教徒、イスラム教徒が加わり、そんな中で聖書の秘密が暴かれていくのね〜と期待しちゃったんだけど。しかもアフマドは、ジンに取り憑かれているってことで、そこでまた話が複雑になっていって、期待が膨らみまくっちゃったし。 | |
たしかにあるていどは暴かれていったよ。私はそっちが興味津々で、わりと楽しく読めたんだけど。でも、死海文書とかはあくまでも道具立てで、本筋はトムの過去、トムが巻き込まれていく霊的な現象のほうに重きを置かれて、進んでいくのよね。 | |
やっぱり期待したものと違ってたから、オススメはできない〜。かなり綿密に書き込まれてて、どうなるんだろう、どうなるんだろうと一気に読んじゃったんだけど、ラストも期待したスケールのものとかけ離れてたし。悪くはなかったんだけど・・・。 | |