すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「馬鹿★テキサス」 ベン・レーダー (アメリカ)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
テキサス州ブランコ郡で、狩猟監視官になって19年のジョン・マーリンは、ジョンソン・シティの南西にあるロイ・スワンクの牧場に呼び出された。禁猟期間の最中だというのに、 鹿を撃ったやつがいる。しかも、撃たれた鹿は、鹿の着ぐるみを着た野生動物学者トレイ・スウィーニーだった。マーリンが到着してみると、スウィーニーはどうやら命に別状はないようだったが、そのそばで暴れている鹿がいた。 こっちは本物。マーリンの親友フィル・コルビーが可愛がっている鹿、バックだ。しかし、なぜバックはあんなに暴れ回っているのだろう。
公式HP←開いたとたんに鹿撃ち弾の炸裂音がしますので、ご注意ください。///表紙CGイラストのトモチさんのHP
すみ カバー絵に惹かれて読んでみました、2003年アメリカ探偵作家クラブ賞の最優秀新人賞にもノミネートされた、ベン・レーダーのデビュー作です。
にえ シリーズ化する予定みたいね。アメリカでは、同じ主人公でもう第2弾が出てるんだって。
すみ そんなことより、スゴイ表紙だったよね〜(笑) 読むと意外に内容に添った表紙だってわかるの。
にえ 上に張ってあるリンクで、原書と邦訳本の表紙を見比べられると思うんだけど、原書のほうも鹿が車を運転してて、充分変な表紙だよ。
すみ でも、やっぱり邦訳本の表紙のほうがスゴイよ。牡鹿がテンガロンハットを手に持ってるけど、どうやってかぶるんだ〜(笑)
にえ タイトルもインパクトがあるけどね。そういえば、原書にもタイトルの"Buck"と"Fever"のあいだに「★」がついてた。邦題は、ヴィム・ヴェンダース監督の映画「パリ、テキサス」を意識してつけたと噂で聞いたけど、ホントかな。
すみ まあ、そっちも「馬鹿」って言葉のインパクトの強さで、邦訳本の勝ちでしょう(笑) ちょうど今、馬鹿ブームだし。「馬鹿」で「★」で「テキサス」だよ〜っ。
にえ ご満悦のところを申しわけないんだけど、そろそろ内容のほうに話を進めてよろしいでしょうか。
すみ そうそう、中身の小説のほうなんだけど、こっちは意外と無難というか、普通におもしろいミステリ小説だったよね。
にえ 気楽に読むにはもってこいって感じでしょ。爆笑必至ってことはないけど、窮地に陥ってもなぜかうまいこと死なない、なかなか気持ちのいいところのある男が主人公の典型的なお手軽ミステリで、楽しく読めた。
すみ 舞台背景が良かったよね。テキサス州の鹿の猟がさかんな地方、南部男の粗野なやさしさを持つ主人公に、あんまり豊かじゃないけど、どうにかこうにか生きてる人たち。
にえ 主人公は密猟者を捕まえる狩猟監視官だけど、規則にギチギチになってるタイプじゃなくて、心やさしく、それぞれの人の事情ってものも考えるタイプなのよね。
すみ そこに暮らす人たちの、家族の食べるぶんだけの猟は見逃すこともあるけど、そうじゃない密猟者は赦さないって、その姿勢は共感できるしね。
にえ 食べる目的以外で、レジャーやスポーツとして猟をするってのは、私たちには理解できないよね。ましてや剥製を飾るっていうのは、まともとは思えない。
すみ 主人公以外もなかなか魅力のある人たちだったよね。悪人すらも、妙にかわいらしさがあったりして。
にえ そうそう、初っぱなに撃たれた動物学者スウィーニーも面白キャラだったのに、今回は活躍の場がなかったね。次作ではもうちょっと出番があるのかな。
すみ 主人公マーリンの取り締まってる地域は、大地主のロイ・スワンクってのが幅を利かせてるの。保安官のマッキーもロイの言いなりだし、 マーリンの親友フィル・コルビーの土地も、ロイに取られちゃったみたいだし。
にえ ロイ・スワンクは元ロビイストなんだよね。このロビイストっていうのがわからなかったから広辞苑で調べてみたんだけど、 「圧力団体の代理人として、政党や議員や官僚、さらには世論に働きかけてその団体に有利な政治的決定を行わせようとする者。」だって。
すみ 時期はもうじき鹿猟が解禁になろうかという頃、ロイの牧場で、鹿の着ぐるみを着て鹿の生態を観察していたスウィーニーが撃たれたところから。
にえ ちなみに、この地方の鹿の種類はオジロジカ。スウィーニーはそのオジロジカの生態を調べてたんだけど、一頭だけ妙に暴れてる牡鹿がいて、 マーリンがこれを捕獲。この鹿、じつはマーリンの親友フィル・コルビーがかわいがってる、バックって名前の鹿だったの。まあ、鹿だからバックなんだけど、この場合のバックはこの鹿のことなのよ(笑)
すみ 異常なまでにバックを欲しがるロイ。まあ、猟が始まれば、自分の土地に名士を集めて狩りをさせるから、とくに立派な角をしたバックを欲しがるのもわからないではないけど、それにしてもちょっと変。そこに地元でも有名なろくでなしのトリオ、 レッドとビリーがからんできて、謎のコロンビア人が現われて・・・と事件の様相を呈してくるのよね。
にえ まあ、大爆笑もないし、奇妙奇天烈でもないけど、普通に楽しめるミステリ。期待しなければおもしろかったと言うだろうし、 期待しちゃうと、それほどでもないと言うかもしれないってところかな。なかなか好感の持てる作風で、私はけっこう気に入りましたよってことで。