=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ある愛書狂の告白」 ジョン・バクスター (オーストラリア→)
<晶文社 単行本> 【Amazon】
映画批評家であり、伝記作家でもあるジョン・バクスターは、図書館も本屋もないオーストラリアの片田舎の町ジュニーで暮らすうち、熱狂的な愛書家となった。 イギリスに、アメリカに、フランスに移り住み、稀覯本を蒐集し、作家たちや名物古本屋店主と親交を深めた半生を振り返る。 | |
映画批評家であり、伝記作家であり、その他もろもろ多彩な才能を発揮しつつ、古書蒐集家としても名高いジョン・バクスターの自伝?です。 | |
映画評論本や伝記本がすでに何冊か邦訳されてるけど、私たちにはまったく知らない人だし、そんな知らない人の自伝がおもしろいかな〜と不安だったけど、 これが読んだらメチャメチャおもしろかったね。 | |
自伝っていっても、ジョン・バクスターの人生そのものについては、細い糸1本ってぐらいにしか書かれてないのよね、だから、ジョン・バクスターって人にまったく興味がわかなくても、 この本を楽しむにはまったく問題ないの。 | |
そうそう、書かれているのは、ひたすら古書集め、それも稀覯本のたぐい、それにまつわるお話だよね。 | |
まず、最初の第1章、第2章に、ジョン・バクスターの人生がまったく語られていないってところから、おや、と思ったよね。 | |
そうなの、第1章は「グレアム・グリーン蒐集」ってタイトルなんだけど、ホントにそのままグレアム・グリーンの著書にまつわるお話ばかり、自伝の始まり方じゃないよね。 | |
なるほど、こういうエピソード集なのかなと思ったよね。まあ、内容がかなりおもしろいから、それでもいいやと思ったんだけど。 | |
グレアム・グリーンは多作家でありながら、サインをしないことでも有名。しかも、住所が定まらないからつかまえづらく、サイン本の値は上がり放題なのよね。 | |
おもしろいのはそれだけじゃなく、グレアム・グリーン自身が古書蒐集家で、古書蒐集家たちの気持ちがわかってたってところだよね。どういうことかというと、グレアム・グリーンは、サイゴンの阿片窟に立ち寄ったとき、ベッドの脇に自分の著書が2冊あるのを発見し、 おもしろいと思ったのでサインしておいた、なんて書き残してるの。 | |
グレアム・グリーンのサイン本が欲しくてしかたない蒐集家からすれば、そんな洒落たエピソードまでついているサイン本は絶対ほしいって思っちゃうよね。もうサイゴンに行って、阿片窟を虱潰しにあたるしかないっ、でも、いつの時代にも作家の語るエピソードなんて、どこからどこまでが本当かどうか、 わかったものじゃない。 | |
グレアム・グリーンはそこまで見越して、あえてそういうことを書いた可能性が高いのよね。なんて意地悪な人、でも、おもしろい(笑) そういうグレアム・グリーンに関するエピソードが、第1章ではいろいろと語られてた。 | |
第2章は、ジョン・バクスターが古書蒐集を始めて最初の頃に知り合った、マーティン・ストーンという人にまつわる話。 | |
この人は、この本のいろんな場面で唐突に現われるから、憶えておいたほうがいいよね。ジョン・バクスターはいろんな国を渡り歩くことになるのに、その人生の端々でマーティンに出会っているの、これが実話なんだから、人の縁の不思議さを思っちゃうね。 | |
でも、この章で語られてるのは、マーティンに導かれるようにしてゲットした、数々の稀覯本の話、ではなくて、マーティンのような異業種から転身して古本屋になった人たちの話。 | |
おもにミュージシャンだよね。マーティン・ストーンは、知る人ぞ知る凄腕のロックギタリストだったんだけど、古本屋に転職してるの。変わり種ね〜と思ったら、イギリスやアメリカの成功したミュージシャンは、有り余るお金を古書蒐集に使う人が多くて、 ミュージシャンと古書売買には深い繋がりがあるんだとか、知らなかった。 | |
そして第3章でいよいよジョン・バクスターの人生が語られるんだけど、これも意外や意外、おもしろかったな。 | |
オーストラリアのランドウィックという町から、本屋も図書館もない町に連れてこられたジョン・バクスター少年が、本の入手に苦労しながらも、読書にのめり込んでいくのよね。 | |
父親はおもにミート・パイを作っていたペストリー職人、家に読書家がいた形跡もなく、本好きとしては劣悪な環境、そんな中で、バクスターは飛行機の本を読みあさり、それからSFへと興味を移し、 ひたすら読書、読書、読書なの。 | |
読書遍歴もおもしろかったし、読書熱がかなり低かった当時のオーストラリアで、少人数のささやかなSF愛好会に参加する話もおもしろかった。意外とそんな中でも揉め事があったりして。 | |
でもさあ、ジョン・バクスター少年は、15才で学校を辞め、それから10年間、鉄道事務所で働くでしょ。身近になにか教えてくれる人もいなかったみたいだし。つまり、ひたすら読書をするだけで、 書くことについてはほとんど学んでないといっていいの。それなのに、早くからSF短編小説を雑誌で掲載してもらえたり、やがては批評本や伝記を書いてベストセラーになったり、大学で教鞭を執ったり・・・すごいよね。 | |
そうなの、そうなの。この本を読むと、文章の上手さ、表現の巧みさはもちろん、文章じたいに品の良さがあって、しかも、吹き出したり、ニンマリしてしまうユーモアも散りばめられていて、本当に書くことにたいして卓越した能力を持ってる人だなってことがわかるのよね。 読んでるだけで、こんなに素敵に文章が綴れるようになるなんて。何冊本を読んでも、同じような表現を繰り返してしゃべってる私たちは、ホントに恥ずかしいよね。それを思うと、赤面しながら読むしかないっ。 | |
さてさて、そんなジョン・バクスター少年は、やがて大人になり、広い世界へと羽ばたいていくんだけど、そこからはもう古書蒐集、古書蒐集、古書蒐集、そして、古書蒐集(笑) | |
ものすごく意外なところで、つかんだとたんに手が震えるような本を見つける話は、どれもこれも、読んでるこっちまでワクワク、ドキドキしちゃうよね。ああ、私はまたこの稚拙な表現か(笑) | |
たぶん、この方だって、つまらない本を高値で買ってしまってあとで大後悔、本棚の隅の隅に押し込んで、そんな本ははじめから存在しなかったふりをする、なんてことは多々あったはずなんだけど、そんな、今さら教えていただかなくても、 私だって経験ありますよ、みたいな話はまったく書かれていないのよね。書かれているのは、とびきりの、古本屋を回ることを日課としている人たちなら、だれでも一度は経験してみたいと夢憧れる遭遇の数々。 | |
まあ私たちのように、古本屋に行くたびに、ネットでうん万円もする本が、百円棚に当たり前のように置いてあって、それを震える手でつかむ自分、なんてものを想像してしまうような、おめでたい人たちには、ジョン・バクスターに自分を投影して、何回でもプルプルできちゃうんじゃない?(笑) | |
いいよね〜、さびれた町の小汚い古本屋にフラリと立ち寄り、おや、と手にしてみたら、それはかの有名な幻本の初版第1刷、しかも見開きを開いてみれば、著者から、日頃から世話になっていて、自分の小説にも登場させている人物への献辞が書いてある、何喰わぬ顔でそれをレジに持っていくと、 レジにいた疲れぎみのオバサンは、「あんた、そんな本、本当に買うの?」とか言いながら、「じゃあ、300円にしとこうか」なんて。 | |
それってこの本の内容と、自分の願望がごちゃ混ぜになってない?(笑) とにかくまあ、いろんな状況で、いろんなエピソードを絡めつつ、稀覯本を手に入れた経緯が語られていて、これがもう本当に千差万別というか、じつに様々で、 読んでて飽きないのよ。 | |
まあ、V・S・ナイポールにあてた、マイケル・ムアコック直筆の献呈本、なんてものが実在するそうなんだけど、それを聞いただけで、え、え、どういうこと? 知りたい、知りたいと思った人なら、読んで楽しめること間違いないんじゃないかな。 | |
あと、いろんな作家との交友や、いろんな人から聞いた有名作家のエピソードもタップリ載ってて、それもまた、どれもこれもおもしろかったね。どちらかというと、SF作家と映画関係の作家の話が多いかな。そうとも限らないんだけど。 | |
とにかくおもしろかったね。読んだことなくても良いから、有名作家の名前ぐらいはだいたい知ってれば、充分楽しめるはず。本文から引用すると、<愛書家にとってブックハントは農作業と同じである。年に一、二度、特定の店や市に出向くことを、コレクターは「収穫する」と表現する。私が「毎日鋤を入れにいく」、自宅アパルトマンすじむかいの古本屋を、妻は「私のキャベツ畑」と呼ぶ。狩猟の用語で表現すれば、「しかけたワナを見回る」となる。>、 これを読んで、くだらないと思った人はサヨウナラ、わかる、わかると思った人ならオススメ!! | |