=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「中二階のある家 ―ある画家の物語」 アントン・チェーホフ (ロシア)
<未知谷 単行本> 【Amazon】
画家として気楽に暮らす私は、6、7年前、T県のとある郡で、ベロクーロフという若い地主の領地で暮らしていた。ある日、散歩を楽しんでいた私は、 近所に母親と美しい二人の娘が暮らす、中二階のある家があることに気づいた。 | |
みなさん、ご存じだったかしら。今年(2004年)は、チェーホフの没後100年にあたります。 | |
チェーホフといえば、「かもめ」や「桜の園」といった戯曲や、「可愛い女」「犬を連れた奥さん」といった短編小説で知られるロシアの作家だよね。 って、こんなことわざわざ言わなくても、誰でも知ってるか(笑) | |
生まれたのが1860年で、亡くなったのが1904年だから、わりと短い生涯だよね。自国ではなく、ドイツに旅行中に亡くなったそうなんだけど。 | |
で、没後百年という節目に出版されたのが、この本っていうわけね。 | |
薄い本で、しかも、作品が半分、解説が半分ってところなのよね。普通に短い短編小説だから、こういう年にあたらなかったら、たぶん1作で1冊の本にすることはなかっただろうね。 | |
挿し絵もわざわざ、ロシアの画家、マイ・ミトゥーリチ=フレーブニコフさんに描いてもらってあるのよね。この方は、現代ロシアグラフィック派の創始者ピョートル・ミトゥーリチの息子さん(もしかしたら娘さんかも)だそうです。 | |
素晴らしい企画だよね。私には、どうってことのない普通の挿し絵にしか見えないけど、そういう問題じゃないんでしょう(笑) | |
正直言って、小説じたいも、古めかしさがいい雰囲気を出して、なかなか味わい深い作品ではあるんだけど、短編集の中の1作としてならまだしも、わざわざこの1作だけで、1冊の本として出すほどのものかなって気もしなくもないような・・・。 | |
まあ、それもひっくるめて記念ということで(笑) | |
小説じたいは、2つの印象が残る作品だったかな。ひとつは、若い男女の淡い恋物語、もうひとつは、社会主義思想。 | |
画家ということで、労働をしなくても暮らしていける主人公の青年が、同じく働かなくていい地主の青年の家に住み、のんびりと暮らしているところに、 ある家族と出会うのよね。 | |
その家族も、父親こそいないけど、遺されたもののおかげで裕福で、働く必要のない家族なの。 | |
母親と娘二人の家族。裕福な家とはいえ、長女のリーダは村の学校で教師として働き、自立していることを誇りにしているのよね。 | |
かなり自己主張の強い女性だよね。母親と妹は、リーダの言いなりって感じで、絶対に口答えしないの。 | |
リーダは社会問題への関心も強くて、村に診療所を作る活動をしていたりとかしてて、あと、政治にも深い関心を寄せてるみたい。 | |
のらくら暮らしている主人公はリーダに嫌われてしまうんだけど、嫌われる理由はそれだけじゃなく、思想が違うってこともあるんだよね。主人公は社会主義思想の強い人だから。 もちろん、今読むと古い時代の社会主義思想ってことになるんだけど。 | |
妹のミシューシは読書に明け暮れ、美しいものだけを見て、だれにでも優しく接する、といった感じの女性よね。 | |
で、主人公はリーダと対立しながらも、ミシューシと惹かれあう、と。 | |
美しくも儚い、現代では考えられないような、だからこそ魅力的にうつる恋物語だよね。でも、現代人の感動を呼ぶには、あまりにも遠慮がちで、あまりにも格差のある道徳心が基盤になっちゃってるかな。 | |
とにかくまあ、チェーホフの没後100年ということで、この機会になにか読んでみてはいかがでしょうかってことで。もし、記念品的に本を買うつもりなら、これはまさにオススメの1冊。 | |