=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「箱の女」 G・K・ウオリ (アメリカ)
<早川書房 文庫本> 【Amazon】
メイン州の田舎町キリファーキーグ(通称キリ)で、エレン・ディレイは200発の銃弾を浴び、4人の婦人警官に射殺された。エレンは夫ジョーがうっかり閉めた工具箱に3日間閉じ込められて以来、 25年の結婚生活を捨て、一人で森に住み、ハンターが撃った獣をさばく仕事をしていた。生肉を食べ、めったに風呂に入らないエレンは、いつのまにか町の人々から、狂女のような扱いを受けていた。 しかし、親友ウィルマは、エレンが噂とは違って、ごく真っ当な精神状態の女性であったことを知っていた。ウィルマは父スプロッチーに、すべての真実を書くように頼んだ。 | |
G・K・ウオリの初翻訳本です。GとKはなんの略なんでしょ。調べてみたけど、わからなかった。とりあえず、男性だということはわかったけど。あと、ウオリはフィンランド系の苗字だそうです。 | |
本に書いてあるところによると、この小説は、全米書籍販売商協会で、2000年度の最優秀作品に選ばれているんだって。 | |
もともとは、架空の田舎町キリファーキーグ、通称キリの町を舞台とした短編小説をいくつも書いていて、そのキリの町を舞台とした初長編小説が本書ってことになるみたいね。 | |
キリは閉ざされた田舎町で、少しゆがんだ感じのする、変わった名前の人たちが住む町だよね。 | |
なぜか町の人のほとんどが大学教育を受けていて、しかも、ほとんどが学んだことを生かしていない職業に就いているみたい。 | |
この小説は、キリの町で起きた悲惨な事件の顛末を、簡単な大工仕事などをこなす何でも屋をやっているスプロッテンブラン、通称スプロッチーが書いているって設定なのよね。 | |
それでもって、事件については先にわかっていて、なぜどうして、そしてどうなったかということはあとに書く、倒叙形式なの。 | |
夫のうっかりで工具箱に3日間閉じ込められて以来、一人で森のなかで暮らしていたエレンという女性が、200発の銃弾を浴び、4人の婦人警官に射殺された。さて、そこにはどんな真実が隠されているのか。そういうお話よね。 | |
エレンは25年も幸せな結婚生活を続けていたのに、突然家を出て、原始的な生活をしはじめたおかげで、町の人たちには狂女みたいな扱いを受け、 ありもしない魔女的な噂をいろいろと立てられていた女性なの。 | |
閉ざされた田舎町ならではで、変わった行動をする人がいると、あれこれ変な噂をされ、その噂が本当のことのように信じられてしまう。エレンは噂に殺されてしまったと言ってもいいのかもしれない。 | |
でもさあ、そのことだけに焦点を絞られた小説ってわけでもないんだよね。町の人たちはみんな個性的で、そのへんのプロフィールもいろいろ紹介されていて。 | |
そうそう、たとえば語り手のスプロッチーは、同じ女性と何度も離婚と結婚を繰り返していて、今は独身中。 | |
娘のウィルマは未婚の母で長身、背の低いポイズンって男の人と、あまりにも長くつきあっていたせいで恋人にはならず、親友になったって女性なんだよね。ポイズンはポイズンでまた、ひきずっている過去があったりするし。 | |
エレンに去られてしまった夫ジョーも、なにげに風変わりな人だよね。なにもかも、あるがままに受けとめて、まあ、その通りでいいさって流してしまう、 ちょっと不思議な性格で。あと、他にも個性的で複雑な人がたくさん。 | |
流れはわりとゆったりめだったよね。キリの町を存分にご堪能くださいって感じ。住民たちは複雑な人間関係を築いているし、町じたいも独特の雰囲気だし。 | |
おもしろい小説だった。たくさん小説を読んでいる人たちにこそ選ばれる小説なんだろうなと、ものすごく納得。ただ、読むことを楽しめたかとなると、 私は微妙なんだけど。 | |
そうなの? 私も最初のうちは、なかなか核心に触れなくて、だらだらと周囲の話が続いてる感じにちょっとイラッとしたけど、読み進めて馴染んできたら、 独特のユーモアがそこここに散りばめられてたりして、なかなかおもしろいなと思うようになったんだけど。 | |
うん、私もなかなかおもしろいなとは思ったんだけどね。でも、なんだろう、エレンについても、他の人たちについても、頭で理解はできるんだけど、なんか心で感じるものがないというか、 ものすごく遠い存在で、共感するどころか、存在を実感できず、なんか書いてあるものを読んでるんだな〜って感覚で最後まで読んじゃったみたいなところがあって、なにも残らなかったような。 | |
まあ、エレンはたしかにわかりづらかったかも。エレンに同情できると、悲劇性も理解しやすくなるし、エレンの死から抜け出せないウィルマの気持ちも理解しやすくなるはずなんだけど。 | |
なんかなにもかもが上滑って、実感できなかったんだよね〜。あと、いまひとつメリハリもきいていなかったし。でも、それでダメって切り捨てちゃうには、あまりにももったいない、おもしろい小説でもあったんだけど。 | |
勝手な噂が立ち、真実よりもそっちに流されてしまう集団心理の描き方とか、これからもたくさんの逸話を生み出しそうな雰囲気のある架空の町とか、魅力はタップリあったよね。 | |
変な言い方になっちゃうけど、オススメかどうかは微妙、でも、一読の価値はあるかもよってことで。 | |