=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「父さんが言いたかったこと」 ロナルド・アンソニー (アメリカ)
<新潮社 単行本> 【Amazon】
50年以上連れ添った妻ドロシーを亡くした、83才のミッキー・シエナは、一人暮らしの自宅でボヤ騒ぎを起こしてしまった。 長女のダーリーン、長男のマッティ、次女のデニースは、ミッキーをケア付き住宅に入れようとしたが、一人だけ歳が離れ、独身の歳の末息子ジェシーは、 ミッキーを自宅に引き取って、一緒に暮らしたいと言いだした。 | |
これは、出版社の編集者だったロナルド・アンソニーのデビュー作で初翻訳本です。44才の時に、9ヶ月で書き上げたんだって。 | |
44才の男性が書いたってのが重要よね。巻末解説の作者の言葉を引用すると、「男性視線のロマンス小説」を書きたかったんだって。 | |
そうなのよね、ロマンスなのよね。読むまではてっきり、年老いた父親と、中年にさしかかった息子が一緒に暮らす、地味でハートウォーミングなお話なのかなと思いこんじゃったんだけど。 | |
とはいえ、ベッタベタで、濃厚なラブラブロマンスじゃないよね。そこが44才の男性が書いたってところで汲み取ってほしいところ。 | |
内容からいって、女性よりも男性読者のほうが、共感しやすいのかな。でも、女性でもジーンとくるよね、しっとり落ち着いた話で。ミッキーとジェシーの語りが交互に重ねられて、話が進んでいくの。 | |
ミッキーは83才、とはいっても、ヨボヨボのおじいちゃんを想像されちゃ困るよね。もと証券会社のエリート社員で、今もインターネットの株取引でで資産運用をしてて、歳は取ってもなかなかハンサムな人みたい。 | |
体はだいぶいうことをきかなくなってるみたいだけどね。膝とか痛そうだし。 | |
ジェシーはミッキーが50才になってからできた子供だから、まだ33才なんだよね。83才の父親と息子っていうから、息子ももっと上の年齢かと思ったんだけど。 | |
長女のダーリーンとは20才も歳が離れ、一番近い次女のデニースでも12才離れてるのよね。 | |
子供の頃は、大人の家族のなかに、ポツンと子供が一人いる感じだったっていうけど、これはちょっと共感したかな。私たちも兄が8つ上で、父、母、兄で家族がすでに出来上がってて、 そこに私たち2人がヒョコっと加わったって感じだったもんね。 | |
家族の思い出話を聞いてるだけって状態は非常に良くわかるよね。ジェシーは5対1で、しかも歳がもっと離れてるから、疎外感ももっと大きなものだったと思うよ。 | |
だけど、なにを言っても子供扱いで、軽く聞き流されて終わりっていう淋しさは特に共感しちゃう(笑) | |
ジェシーの場合は、2人の姉も兄も、かなりの成功者だから、よけいそうなっちゃうんだろうね。兄弟で話してるときも、もっぱら聞き役で、ほとんど発言権はないみたい。 | |
それが父親のことで、思い切って自分が一緒に暮らすって言いだすんだよね。 | |
それでもジェシーのお母さんはとても家庭的な人で、ジェシーとはとってもいい関係を築けてたみたいなんだけど、父親のミッキーとは、なんとなく遠い存在になっちゃったみたいなところがあるみたいね。 そういう気持ちがずっとあったから、ジェシーはミッキーと一緒に暮らすことにしたみたい。 | |
ジェシーはフリーの雑誌記者なんだよね。料理のこととか、インテリアのこととか、そういう記事が多いみたい。 | |
仕事は絶えずあるみたいだから、わりと上手くいってるんだよね。それでも、なかなかこれぞって仕事はなくて、食べるためにこなす、みたいな仕事が多いみたいだけど。 | |
ジェシーにはマリーナっていう恋人がいるんだよね。教師をしてるんだけど、とっても包容力のある、素敵な女性。でも、ジェシーもマリーナも過去の恋愛で傷つきすぎてて、 先の約束とかしないで、その日その日を積み重ねていくだけにしようって決めてるの。 | |
背景はこんなところかなあ。お話のほうは、実際にジェシーとミッキーが暮らしはじめてってその辺と、ジェシーとマリーナのつきあい、ジェシーの仕事、そして、 突然語り始められるミッキーの大事な思い出話。 | |
思い出は、ミッキーが結婚する前にした、ジーナという女性との恋愛の話だよね。ドキドキ、ワクワクの大恋愛話ってわけではないし、ものすごい展開ってわけでもないけど、 なんとも胸にキュキューっとくるお話だった。 | |
地味といえば地味なんだろうけど、父親と息子、33才にして愛に迷う男性、そして思いがけない父親の思い出話、それにいろんな話がからんできて、 なんともヤンワリと感動できる、いい小説だった。 | |
無理がないよね。読んでいて、ゆっくり、的確に時が進んでいく感じだった。地味といっても、派手さがないってだけで、飽きてやめたくなるようなところは全然ないと思う。むしろ読みはじめたら、途中でやめられなくなった。 しっとりと落ち着いた、男性視線のやさしく上品なロマンス小説、気になる人にはオススメ〜っ。 | |