すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「石、紙、鋏」 アンリ・トロワイヤ (ロシア→フランス)  <草思社 単行本> 【Amazon】
かつて、マリー・アントワネットが断頭台に引かれていく姿を、画家ダヴィッドが窓からスケッチしたという古い建物に住む、画家アンドレは、たまに頼まれて室内装飾の仕事も請け負っていた。 親友ジェラールの代理として室内装飾の仕事に行った先で、アンドレは一人の青年と出会った。名前はフレデリク、少し謎めいた、精悍な容姿をもつ青年だった。アンドレの女友達サビーヌとジェラールの妻クローディアは、 彼を容姿にふさわしい、オレリオという名で呼ぶようになった。
すみ さてさて、3冊つづけて紹介のアンリ・トロワイヤの小説の最後、「石、紙、鋏」です。
にえ ちなみに、私たちは逆行してしまったけど、「石、紙、鋏」が1972年の作品、「クレモニエール事件」が1997年の作品、「サトラップの息子」が1998年の作品だそうです。
すみ これだけちょっと間があいて古いってことになるね。
にえ 冒頭部分が他2作と違って、ちょっとゴチャついた感じがしたから、やっぱり遡って、あとから古い作品を読んじゃうと、アラも目立っちゃうかな、失敗したかな、なんて思ったんだけど、 読み進めていったらとんでもなかった。ものすごく余韻を残す小説で、やっぱり無駄のない素晴らしい小説だった。
すみ 「石、紙、鋏」は普通はすぐわかるんだと思うけど、私自身がすぐにわからなかったから念のため(笑)、これは”じゃんけん”のこと。つまりは三角関係を暗示しているのよね。
にえ でも、この小説に書かれている三角関係はじゃんけんのような正三角形ではないよね、1点だけが少し離れた二等辺三角形。
すみ 一人はもちろん、主人公のアンドレ。アンドレは同性愛者だけど、恋愛よりも精神的な繋がり、深い友達づきあいを大事にするタイプ。
にえ とってもとっても親切なんだよね。だれにでも、すぐに親身になって世話をしだしちゃう。この小説の初めでも、前に部屋に置いてあげてた青年を捜しに来た、その弟をずっと泊めてあげてるの。
すみ その弟ってのが、フランス語がまったくしゃべられないんだよね。置いてあげても、話し相手にすらならないの。それなのに長いこと家賃もとらずに置いてあげて、世話を焼くんだからホントに親切。
にえ でもさあ、アンドレの優しさについては、最初のうちから疑問視する面もあったよ。拾ってきた犬や猫を、自分では飼えないからって、次々と姉のコリアンドルに預けてしまっているの。ただのいい顔しいの、安請け合い? 単に断れないタイプ?  とかなり疑いながら読み進めた。
すみ アンドレは画家だけど、そっちではあまり収入はないみたいで、室内装飾の仕事をたまにやったり、親友のジェラールや姉からお金を借りたりして、なんとかその日その日を過ごしてるのよね。
にえ あんまりガツガツお金を稼ぎたいって気はないみたいね。その日その日をどうにかこうにかで、ふわふわと生きるのが好きみたい。三十代半ばで、自分が中年になっていくのは気になるみたいだけど。
すみ もう一人が、アンドレの女友達のサビーヌ。サビーヌは二十代前半でしょ。
にえ アンドレは60代の男の友達ジェラール、20代前半の女の友達サビーヌ、と同じぐらいの年頃の友達がいないんだよね。なんかそこもとても変な感じ。
すみ そういうふうに怪しみながら読むと、たしかにアンドレは様子のおかしなところが気になるけど、でも、実際には常識もわきまえてる人だし、道徳心もあるし、 自分が正しいと思えば、ハッキリ意見も言うし、それに自分の画家という仕事に信念も持ってるし、かなりキチンとした人だよ。
にえ だからよけいややこしいって気もするけどね。
すみ で、3人目がオレリオ。ある日、降ってわいたようにアンドレの前に現われた、22歳の青年。オレリオは両性愛者みたい。
にえ 美男子で、口が上手く、世渡り上手みたいで、かなり身勝手な性格だよね。アンドレのことをうまく利用しようとしているのかと思えば、 意外と尊敬の念を抱いているみたいで。
すみ サビーヌだって、アンドレを振りまわしているようでいても、敬愛の念は懐いているよ。
にえ なんだか二人とも、やたらとそのことを口にするのが、妙に違和感があったけどね。
すみ 3人はアンドレの部屋で一緒に暮らすことになるんだけど、これが想像した以上にややこしくなって、いろんなことがあるの。
にえ 読み終わってから思うのは、やっぱりアンドレの性格についてだね。いつのまにか共感してしまってるところも多くて、だからこそいっそう、この人のなにが間違ってるのかと考えこんでしまう。 とにかく、妙に余韻が残りつづけるの。ということで、これもオススメです。際だって優れたアンリ・トロワイヤの小説を3冊続けて読めて、本当に至福の時を過ごせました。幸せ〜。