すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「木曜日に生まれた子ども」 ソーニャ・ハートネット (オーストラリア)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
オーストラリアの開拓地、兵役を終えた報酬にもらった、もと金鉱掘りの粗末な家と手つかずの痩せた土地に暮らすフルート一家。 一家は父のコートがウサギを狩って、毛皮を売り、肉を食べて、貧しいながらもどうにか暮らしていた。すでに男2人女2人の子どもがいるのに、さらにまたカフィという息子が生まれようとしている。 カフィが生まれたとき、それまでは末っ子だったティンは、泥の穴に落ちていた。どうにか助け出されたティンだが、それ以来、穴を掘ることに執着しはじめた。 ガーディアン賞受賞作品。
すみ これは、オーストラリアの人気YA作家ソーニャ・ハートネットの初翻訳本、ガーディアン賞受賞作です。
にえ ファンタジックなものを想像してたんだけど、不運な一家がもっと不運になっていくというかなり暗い話だったよね。
すみ でも、上手い作家さんだなと感心したよ。登場人物といい、背景といい、ストーリーの運びかたといい、厚みがあるというか、きっちり作ってあったよね。
にえ まあ、ストーリーはこうなるなってほうに進んでいくところもあったし、ラストについては大部分の読者がこういうラストだろうと想像したそのままって感じだけど、 たしかにキッチリ書いてある小説って印象は残るね。
すみ 語り手はフルート家の3番目の子ども、ハーパーっていう少女なんだけど、この娘のこまっしゃくれたところとか、大人が気づかないところで見える気遣いとか、 そういう細かな描写がグッと来たな。
にえ フルート家は、父のコートに母のソラ、長女のオードリー、長男のデヴォン、それに次女のハーパー、次男のティンの順番なんだよね。そこにカフィっていう三男が生まれるんだけど。
すみ 農地として開拓するために与えられた土地だけど、コートはぜんぜん開墾しようとしてないんだよね。痩せた土地だってこともあるけど、農家をやったこともなく、戦争に行っていたときの怪我もあり、で。
にえ そもそもやろうって気がないのよ。じゃあ、どうしてこんなところに住むことにしたのかとか、そういう過去の話についてはだんだんとわかってくるんだけど。
すみ それについては、コートと父親との凄まじい確執が描かれてたよね。YA本としてはギョッとするほどの内容だけど、10代の頃の私はこういう話のほうがむしろ好きだったし、なにより、妙に説得力があった。
にえ あとは、ソラは失望感が滲み出てるけど、どこまでもやさしい女性で、オードリーはおませなお姉さん、デヴォンは自分の馬を手に入れることを夢見ている普通の少年、お父さんが大好きなハーパー、 ちょっとおとなしめの弟ティン、と、はじめはそれほど目立ったところもない家族。
すみ それが、カフィが生まれるときにティンが泥のなかに落っこちて、そこからおかしなことになっていくのよね。
にえ 泥のなかに空洞があったみたいだよね。もともとが金鉱を掘ってた所だから、地面の下は、あっちこっち掘り返してあったみたいだけど。
すみ ティンはそれがきっかけで穴掘りの情熱に目覚めたというか、とにかくひたすら掘って掘って掘りまくり、学校にも行かず、家で食事をすることもなく、 地下生活を始めちゃうの。
にえ だけどさあ、私はその話が中心となる、なんとも奇妙なテイストのファンタジックなお話ってのを想像してたんだけど、そうではなかったよね。
すみ うん、あくまで話の中心は、ティンが地下へ行ってしまったあとの、フルート一家だったよね。現実的な、貧乏一家のお話。
にえ これがまあ、これでもか、これでもかって不幸な出来事の連続で、読んでて、どわ〜っ、暗いなあ、とちょっと引き気味になってしまったんだけど(笑)
すみ でもまあ、そこはYA本だからってことで、気持ちのどこかで安心しているようなところもあったけどね。あと、語り手のハーパーが不幸ななかでも、多感な少女らしく活き活きしてて、 そのへんでも救われたから、息が詰まりすぎなかったし。
にえ そりゃそうなんだけど。とりあず、上手い作家さんですわね。ガーディアン賞もダテじゃない、たしかな作品。でも、けっこう読んでるあいだは暗いよってことで、お好みでどうぞ。