すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「赤い高粱(こうりゃん)」 莫言 (中国)  <岩波書店 文庫本> 【Amazon】
中国山東省高密県東北郷には女傑がいた。わたしの祖母、戴鳳蓮(タイ・フォンリエン)である。見目麗しく、纏足の小さな足が美しい少女だった祖母は舅に見初められ、高密県一の高粱焼酎の酒造小屋に嫁いできた。 その祖母は酒造小屋を栄えさせ、東北郷の盗賊の首領であり、抗日ゲリラ隊の司令である余占鰲(ユィ・チャンアオ)の愛人として、支援者として、激しい銃撃戦のさなかに命を花と散らした。その生涯は、まさに鮮烈そのものだった。
にえ これは映画化もされ、莫言の名を世界に知らしめた出世作です。
すみ 原題は「紅高粱家族(赤い高粱一族)」、全5章で、それぞれが独立して、中編小説となっていて、もちろん通して一族の物語が語られているのよね。この本に収録されているのは、そのうちの前の2章。
にえ もともとは、徳間書店から出た「現代中国文学選集」の第6巻にこの2つの章が、残りの3章が第12巻に収録されていて、今は絶版。つまり、この本は「現代中国文学選集」第6巻の復刊本ということなのよね。
すみ 第12巻の復刊は予定されてないのかな。私たちはこの本に続けて、絶版になってる第12巻を読ませていだきます、あしからず〜。
にえ さてさて、この本に収められているのは、第1章の「赤い高粱」と第2章の「高粱の酒」。舞台は莫言の故郷でもある、赤い高粱畑の広がる中国山東省高密県東北郷。
すみ 第1章のなかばぐらいまで読んでるあいだは、この小説は莫言自身の一族のことを書いている、自伝的な小説なのかなと思っちゃった。
にえ 語り手が「わたし」で、登場人物が祖父や祖母、父と呼ばれているからね。もちろん、まったくの架空の話というわけではなく、莫言が高密県で聞いたことのある話などなどを繋ぎ合わせ、紡ぎだしたのがこの一族の物語で、まったくのフィクションって言うのにも抵抗があるけど、莫言の家族の話というわけではないみたい。
すみ 登場人物その他、話としては前に読んだ「白檀の刑」に似ているところが多かったよね。んでもって、これは「白檀の刑」よりもっと前に書かれたものだから、もっと素朴というか、ストレートな感じ。
にえ 「白檀の刑」でも辛かったけど、この小説にも、残酷な処刑の細かな描写が出てきたね。
すみ そうなの。しかも「白檀の刑」では処刑のところは、耐えられなくてちょっと飛ばし読みしちゃったんだけど、この本では、日本軍が中国人に対して行った処刑でしょ。本当にこんなことがあったのかもしれない、だとしたら、日本人としては目を逸らしてはいけないと思って、 読み飛ばすことはできなかった。正直、これは辛かったな〜。
にえ 本当にあんなことがあったのかな。あったのだとしたら、日本人っていうより人間として信じられないと言うか、酷すぎて、ただもう絶句してしまうね。
すみ 読んでる最中は、全身が硬直してしまいそうだった。なんて言うか、もう・・・。
にえ とにかく、第1章のちょうど真ん中あたりまでは、本当に読むのが辛かったね。正直、精神的に参っちゃいそうで、最後まで読めるか心配だったんだけど。でも、そこからは、「白檀の刑」に勝るとも劣らない、芳醇な物語に酔いしれた。
すみ 第1章は抗日ゲリラとして戦った祖父、余占鰲と、その戦いのなかで死んでいった祖母、戴鳳蓮の話なのよね。時間は激しく前後して、「白檀の刑」と同じように、最初に祖母の死に様、祖父の死に様などが語られていて、あとで、そこにどういう過程があったのかを語っていて。
にえ 語り手である「わたし」の父、豆官(トウクァン)はまだ少年で、義父ということになっている余占鰲のゲリラ部隊に加えられるの。
すみ 豆官はだれが自分の実父なのか、わからずにいるのよね。結婚してすぐに亡くなった祖母の夫、それからずっと愛人だった余占鰲、祖母の酒造小屋の番頭で、母を支え、母との関係を疑われていた劉羅漢大爺(リウ・ルオハン・ターイエ)、この三人の中のだれが血の繋がった父親か、 わからない。
にえ 第2章「高粱の酒」は、祖母の嫁入りから、余占鰲が当時の大盗賊のドンを殺すまでの話。
すみ 無理やり嫁に行かされた、か弱い少女である祖母が、いかにして酒造小屋のやり手女主人となり、高密県一の高粱焼酎をつくることができるようになったか、運命の人、余占鰲との出会いとその激しい愛のはぐくみ方、 などなど、この章はもう夢中になって読んだ。
にえ 金欲に目の眩んだ曾祖父、曾祖母と祖母との対決、当時、敏腕と恐れられていた高密県県長の曹夢九をどう扱って手中に収めたか、などなどゾクゾクする話の連続だった。
すみ そこにはまた凄まじい殺しやらがたくさん散りばめられていて、壮絶すぎるほど壮絶な話でもあるんだけどね。
にえ 翻訳者の方が、ハンセン病についての当時の間違った認識、偏見差別についての書き方にちょっと問題があるんじゃないかなというようなことを巻末の解説に書いてらして、 そこは私も、ちょっとこれでは、とは思ったけどね。ただ、そういう危険な粗暴さがあるにしても、やっぱり莫言はストーリーテラーとして素晴らしいなと、この本であらためて認識したけど。
すみ うん、そこだけは配慮不足と責められても仕方ないかも。読んでいただければわかるけど、書いちゃいけないんじゃなくて、書き方に問題があるんだよね。ただ、そういう問題は抱えつつも、やっぱり莫言好きなら、読むべき小説だったね。まだの方はこの機会にぜひっ。