すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ダンス・ミー・アウトサイド」 W・P・キンセラ (カナダ)  <集英社 文庫本> 【Amazon】
カナダのアルバータ州にある、ホッベマというインディアン居留地に住む18歳の青年サイラス・アーミンスキンは、 機械工になるための講座を受けている。その講座の教官ニコルズ先生が、サイラスの作文をとても気に入り、もっと書くようにと励ました。 サイラスは文章が上手いわけではなかったが、独特のユーモアがあった。そこでサイラスは、日常の出来事を書きためることにした。
にえ W・P・キンセラというと、映画「フィールド・オブ・ドリームス」の原作者としか知らなくて、 野球の小説を書く作家さんなのかなと読んでもみなかったんだけど、カナダでは短編小説の名手として名高い作家さんなのだそうです。
すみ これもそうだけど、アルバータ州の居留地に住むインディアンの青年サイラス・アーミンスキンを語り手とした短編小説をとくにたくさん書いてるんだってね。
にえ 雑誌かなにかに連載しているのかな。これを読むかぎりでは、連作短編集なんだけど、どの作品を初めて読むことになっても大丈夫なように、 前に出てきた人のことも、また登場するたびに説明が入ってた。
すみ それだったら、キンセラはサイラスと同じアルバータ州の出身らしいんだけど、白人であってインディアンではないみたいなのね。それがどうしてこんなにも、居留地のインディアンたちの生活に詳しくて、 インディアンの一青年の気持ちになってたくさんの短編小説が書けるのかなあ。
にえ 調べたけどわからなかったよ。とにかく、1作ずつが突飛な話のようでいて、なんだかとてもリアルで、クスッとなったり、ジンときたりで、共感しまくって読んだよね。
すみ 人はやたらと死ぬし、ちょっとした盗みていどの軽犯罪なんて罪悪感もなくやっちゃうし、良いお話とはとても言い難いところがあるけど、でも、 どこか生きていることに純粋で、時にはインディアンを不利にしか扱わない法律なんかで左右されない、自分たちなりのしっかりとした判断基準を見せてくれて、ハッとさせられたり。なんかいいよね、惹かれまくった。
にえ ウィリアム・サロイヤンの「わが名はアラム」がもうちょっとハードに不良化したような感じかな。善人だとは言い切れないけど、人としての温かい魅力のある人たちの織りなす風景に惹かれまくり、 でも、主人公には、いつかもっと大きな世界へ羽ばたけよと言いたくなるところもあって。
すみ これはもう、迷わずオススメだね。超オススメっ!
<イリアナ、家に帰る>
白人と結婚したサイラスの姉、イリアナが夫を連れて戻ってきた。二人は素敵な車に乗ってきていた。トランクを開けて、荷物を運んでやろうとしたサイラスは、ついでにちょっと乗ってみることにした。
にえ とにかくまあ、悪気があるのかないのか、イリアナの夫に悪の限りを尽くすサイラスたち。
すみ サイラスたちだけでなく、イリアナの昔の恋人で、イリアナと結婚できると思いこんでいたイーサン・ファーストライダーとイリアナの母、それにマッド・エッタという大女のまじない師が加わって、とんでもないことをたくらんでるの。
<外で踊ろうぜ ダンス・ミー・アウトサイド>
去年の秋、リトル・マーガレットが殺された。殺したのは白人の乱暴者、クレアランス・ギャスケルだ。リトル・マーガレットの恋人だったロバート・コヨーテは、 たった90日の拘留ですんだクレアランスが釈放されしだい、殺しに行くと言いだした。
にえ これが表題作の「ダンス・ミー・アウトサイド」。本当は「ダンス・ウイズ・ミー・アウトサイド」ってなるところを、サイラスは「ダンス・ミー・アウトサイド」って綴っちゃうぐらいの文章レベル。 原文はかなりのものみたい。
すみ お話はハードよね。法律ではキッチリ裁いてもらえなかった白人の男をみんなで殺しに行く話。その結末は・・・意外で、しかも胸にズキンと来たなあ。
<馬の首輪>
サイラスがまだ9歳か10歳だった頃、居留地にウィルバー・イエローニーズの馬車がやって来た。イエローニーズの馬は赤いリボンのついた馬具と、鮮やかな黄色の首輪をつけていた。 ウィルバーはサクランボ色のウエスタン・シャツを着ていた。サイラスにはそのすべてが素敵に見えた。
にえ ウィルバーには二人の娘がいるの。少年のサイラスには、ウィルバーのなにもかもが素敵に見えてたんだけど、ね。
すみ 綺麗な馬具にお洒落な服、そういうものに憧れながらも、真実に気づかないほど子供じゃない、そういう年頃よね。
<パナーシュ>
ニコルズ先生から教えてもらったパナーシュという言葉を胸に刻んだサイラスとフランクとトムは、夏のあいだ炭坑で働くことになった。 下宿先の白人老夫婦はとても親切だったが、炭坑ではあまり歓迎されなかった。
にえ ニコルズ先生って、サイラスの語りを通じてからしかわからないんだけど、本当にいい先生みたい。「パナーシュ」っていうのは、「かぶとの羽根飾り、 それが発散する堂々たる印象」。つまり、どんな格好をしていても、心に「パナーシュ」を持てってことね。
すみ でも、ニコルズ先生は励ましてくれるけど、白人中心の世間はインディアンには露骨に冷たいよね。それでも3人は、なんとか頑張ろうとするんだけど。
<蝶>
ここ何年か、町のインディアンであるドロシー叔母さんの娘ポーリーンは、夏になると白人なのにインディアンになりたがっている、ウィニーという女友達を連れて居留地にやってくる。 そのうちに、ウィニーはルーファスの恋人になった。
にえ ウィニーを心から愛するようになったルーファス。その恋の結末は・・・。切ないねえ。
すみ 予想していた結末とはあまりにも違っていたね。
<マクガフィン>
サイラスは友達のフランクを連れ、姉のイリアナのところへ遊びに行った。イリアナには可愛い赤ん坊ができていた。翌日、サイラスは赤ん坊を連れ、フランクと町に出掛けた。
にえ イリアナの旦那さんを散々な目に遭わせたくせに、ちゃっかり遊びに行っちゃうサイラスたち。まったくもう、この子たちったら(笑)
すみ インディアンなりの道徳ってものが、さっぱりわからないイリアナの夫は、振りまわされる一方だよね。
<ヒメウイキョウ>
サイラスが12歳の頃、ジョー・バッファローの娘、ルースが自殺した。ラッセル・ベヴァンズに犯され、永遠に汚れてしまったと言い残して。 ジョーは白人からも、インディアンからも嫌われていたが、サイラスは大好きだった。
にえ ただ、だれにも頼らず自立しようとしただけなのに、誰からも疎まれるようになった老人のジョーと友達になったサイラス。 サイラスは居留地ではもはや教えてもらえなくなった、インディアンとしての生き方をジョーから学ぶの。
すみ ジョーは娘を亡くしたうえに、だれにも助けてもらえないけど、孤立したってジョーはショボショボの老人ではなく、誇り高きインディアンなんだよね。
<リンダ・スター>
機械工になるため、工科大学で三週間の授業を受けに、サイラスはエドモントンを訪れていた。そこで知り合った売春婦の女の子リンダ・スターは、 サイラスと同じインディアンだった。
にえ 自分で望んで娼婦になって、新しい名前で浮かれ暮らすリンダ・スター。サイラスと一緒に、インディアンに戻ると言うけれど。
すみ リンダには、クリフトンというヒモ兼用心棒の男がついているのよね。リンダさえ望めば、いつでもクリフトンと縁が切れるみたいだけどね。
<コンロに隠れた子ども>
サイラスの家では、ずっと語り継がれている子供向けの話がある。それはダイツマンという白人の男が、インディアンのラザルス・ボブテイルと4人の子どもたちを殺したが、 1人の子どもだけは、コンロに隠れていて助かったという怖いお話だ。
にえ 夜になると、サイラスは妹や弟たちにお話をしてあげるんだけど、一番人気があるのが、このとびきり怖い、コンロに隠れた子どもの話。
すみ 実話だというこの話を、サイラスは調べてみることにするのよね。
<浮き沈み>
ライオンズ・クラブのくじ引きで、サイラスはラスヴェガスまでのペア往復チケットを手に入れた。恋人のサディは盲腸で入院中だったので、 しかたなく親友のフランクと行くことになったが、二人とも金はなく、泊まりに行ける知人などいるはずもなく、ラスヴェガスに滞在する2週間をどう過ごすかが問題だった。
にえ とにかく悪気もないままに、ろくな事をしないサイラスとフランクが、お金も持たずにラスヴェガスに行くんだから、大変なことに。
すみ 題名どおりに浮いたり沈んだり、とんでもない二週間よね(笑)
<罪の償い>
19歳のサイラスとフランクとルーファスは、聖アンナ湖に出掛けた。ここは前に聖母マリアの母アンナが目撃されたことにより、 インディアン達の新しい聖地となっていた。3人はそこで、疲れ切った8人の子持ち主婦アニー・ボトルが倒れているのを見つけた。
にえ 子供はどんどん出来ちゃうし、夫はたちの悪いアル中だし、25歳ぐらいなのにもう40歳は過ぎて見えるようになってしまったアニー・ボトルは、 いったいなんの目的で、はるばる聖アンナ湖まで行ったのでしょう。
すみ アニーについては、必要最小限の出来事でしか語られてないのよね。それだからよけい胸に迫ってくるものがあったんだけど。
<決起集会>
アメリカインディアン運動の創設者の一人であるホバート・サンダーがホッベマで決起集会を開くためにわざわざ訪れたということで、 サイラスたちは行ってみた。しかし集まっているのはサイラスたちを入れても8人ぐらい。おまけにホバート・サンダーの言うことは、まったく賛成しかねる内容だった。
にえ 8人しか集まってないのに、大衆の面前のようにがなり立て、しかもたえずメモを見ながらの演説とあっては、 みんなホバート・サンダーに冷めていくばかり。
すみ それでも礼儀正しく気遣って、サイラスたちは同意したふりをし、言われたことを実行しようとするのよね。これがおかしい。盗みは平気でするくせに、 人の言うことを否定するのは、悪いことだと思ってるのよ。なんか、わかるんだけど(笑)
<マキバドリの歌>
サイラスの兄ジョゼフはもう22歳になるが、赤ん坊の時に猩紅熱にかかったのが原因で、いつまでも子供のようだった。満足にしゃべることすらできないし、 いつもにこにこ笑っているだけだ。ただ、鳥の鳴き真似だけはうまかった。
にえ ジョゼフは大きな体をしているけれど、いつもニコニコしてて、なんにも悪いことはしないのよ。子供が大好きで、子供もジョゼフが大好きで。でも、 アメリカの社会では、放ってはおけない存在なの。
すみ どっちが間違っているんだろうと、本当に思うよね。
<羽>
トム・クロウ=アイ酋長の奥さんは、インディアン部族間の大事な会議で、チキンダンスを踊るつもりだった。奥さんは、それで他の女に気が行っている酋長の気持ちを取り戻せると思っていたが、 奥さんのチキンダンスはひどいものだった。
にえ 酋長の奥さんはとってもいい人で、みんな大好きなんだけど、酋長は白人きどりで、気取った女と付きあいだしちゃうの。
すみ へたくそなチキンダンスを必死に練習する奥さんを応援しちゃうよね。奥さんはチキンダンスで、酋長の心を取り戻せると思ってるの。
<板ばさみ>
奥さんと愛人との狭間に苦しむライダー・ストーンチャイルドは、解決策を求め、大女のまじない師マッド・エッタのもとを訪れた。 ライダーはエッタと二人で話したがったが、エッタはサイラスを弟子だと言い、どうしても同席させると言い張った。
にえ 大女のまじない師マッド・エッタも、主要な登場人物で、このお話の前にも何度も現われるんだけど、なかなか楽しい人なのよ。
すみ それにしても、登場人物の名前がみんな素敵よね。居留地のホッベマという名前は意外な由来だったけど。
<ロングハウス>
ポピー・トウェルヴトゥリーズが町に行くと言いだした。恋人であり、将来は結婚するものと思っていたチャーリーは、どうすればポピーを改心させられるか、悩んでいた。 そこによその居留地からやって来た、インディアン局のポールさんが現われた。ポールさんは自分たちの居留地では、そういうときにはロングハウスに閉じこめると話した。
にえ サイラスはポピーを軟禁状態に。まあ、軟禁状態といっても、子供の頃から良く知ってる者どうしってことで、 ポピーはゆったり構えてるんだけど。
すみ 居留地を出たいというポピーの他にも、自分の居留地のために働こうと一生懸命勉強した末、全然関係のない居留地に配属になってしまったポールさんの悲哀もかいま見えるよね。
<グーチ>
アラスカのトリンギット・インディアンであるグーチが、ホッベマに流れ着いてきた。男らしいが少しも威張ったところのないグーチは、たちまち居留地にとけ込んだが、 恋人のサンドラをとられそうなポールだけは、グーチが気に入らなかった。
にえ サイラスの家に下宿することになったグーチ。最初から感じが良かったけど、一緒に過ごすうちにグーチの人柄がしだいにわかってきて、どんどん好きになるサイラスだけど。
すみ 本当の男らしさってなにか、サイラスはグーチから学ぶのね。それにしても、切ない話。どの話もそうだけど、読み終わると余韻にしばし手が動かなくなるね。