すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「小さな町で」 シャルル=ルイ・フィリップ (フランス)  <みすず書房 単行本> 【Amazon】
35歳という若さで夭折した作家、シャルル=ルイ・フィリップ(1874年〜1909年)のコント(短編小説)33編を収録。
帰宅/求婚/小さな弟/箱車/アリス/いちばん罪深い者/聖水/贋金/犯罪の後で/自殺未遂/素朴な人々の死/老人の死/来訪者/降誕/ジャン・モランタン/ある生涯 /やきもち/ふたりの乞食/火口屋の娘/囚人の帰宅/無言/お隣同士/強情な娘/火あそび/子供の悲しみ/犬の死/ふたりの泥棒/死にぞこない/バターの中の猫/仔犬/再会/ティエンヌ/ずるやすみ
にえ フランスの作家シャルル=ルイ・フィリップが、パリの新聞ル・マタンに掲載した49編のごく短い小説のうちの26編に、2編の作品が加えられて28編入った「小さな町で」という本に収録された全作品と、残りの作品が収録された「朝のコント」という本から抽出した5編が加えられたのがこの翻訳本です。
すみ シャルル=ルイ・フィリップは、セリイという小さな町の木靴職人の息子で、双子の妹がいたんだって。この本に収録した作品のほとんどは、そのセリイという小さな町が舞台。
にえ フィリップが生まれた年には町の人口は約2900人、それが1900年になると町の人口は約1600人になってしまっていたというんだから、なんとなくどんな町か想像できるよね。
すみ セリイのまわりには大きな森があって、町の人たちの職業は樵、製材業、桶屋、指物師、車大工、木靴職人など、だって。ますます想像が膨らむじゃない。
にえ お話は四百字詰め原稿用紙で10枚程度だそうで、本当に短いものばかり。別にオチがついてるわけでもなく、起承転結があるわけでもなく、だよね。
すみ そんなに特別キラキラと美しい描写があるわけでもないしね。どちらかというと、わりと淡々と書いてあるって感じかなあ。
にえ 悲しく美しいお話というわけでもなく、やさしく微笑ましい話ばかりというわけでもなく、ものすごく魅力的な話ぞろいってわけでもないよね。
すみ でも、なんか心地よく読めたよね。そこに生活ってものが感じとれるからかな。それほど登場人物すべてが愛おしくなる人たちってわけでもないんだけど、生きてるなあ、暮らしてるなあ、って、そういう単純なことに不思議なほど共感してしまった。
にえ いい意味でも、悪い意味でも、フランス人作家というものを強く感じさせてくれるところがあったよね。
すみ そうだね。当時のフランス人になったつもりで、朝、新聞を開いて読んでいる自分を想像しながら一編ずつを読んでいくと楽しいかも。強くオススメはしないけど、良かったですってことで。
<帰宅>
突然、家族を捨てて姿を消していた蹄鉄工のラルマンジャが数年ぶりに我が家へ戻ってきた。しかし、そこはもう我が家とは言えなかった。
<求婚>
妻を亡くしたサン=ジェルヴェの道路工夫ギャゼは、新しい妻を捜しにラ・マドレーヌまで出掛けていった。
にえ 「帰宅」は良かった。久しぶりに帰ってきた夫と妻、夫の親友でもあった新しい主人、子供たち、そういう微妙な関係の人たちが小さな家の中でわりと淡々と会話をするところに真実味を感じた。「求婚」は無神経ぶりにちょっと唖然、でもちょっと納得、かな。
<小さな弟>
ラルティゴーの家の子供たちは、両親が旅行に行くので小父さんのところへ泊まりに行くよう言いつけられた。しかし、10歳になる長女のジュリーは、両親が旅行になんて行かないことを知っていた。
<箱車>
ラティルゴーは子供たちがいろいろなものを入れて運べるような箱車をつくってやった。子供たちは箱車に食べ物を積み、ピクニックへ出掛けた。
<アリス>
ラティルゴーの家の末っ子アリスは、家で一番かわいがられる子供だった。7歳になっても学校へ行かず、母親にくっついている。ところが自分よりももっと小さな弟が出来てしまった。
すみ この3作は、ラティルゴーさんの一家のお話。ラティルゴーさんちは子沢山で、その子供たちが主役の話。2作はほのぼの、最後の一作はちょっと残酷。どれも子供心がほんのり伝わってきた。
<いちばん罪深い者>
町の教会にカプチン会の神父が説教にやってきた。木靴職人のペティパトンや鍛冶屋のボルドーたちは、昼間から酔っぱらっているというのに教会へ行ってしまった。
<聖水>
聖土曜日にぼくとジラルダンは、教会に忍びこんで聖水の入った桶の栓を抜いてしまった。
<贋金>
司祭のベリガンさんは、例の聖水の一件が自分の人の良さのためだと思った。あまりにも親切すぎて、教会の秩序が失われてしまっている。そこで少しばかり意地悪な態度をとるようになった。
にえ この3つは教会もの。とくに「贋金」は司祭のベリガンさんのいい人ぶりに、読み終わってニンマリしてしまった。他の2つもほのぼのしたお話。
<犯罪の後で>
ルウローは酒に酔った勢いで女房を殺してしまった。
<自殺未遂>
肝臓を悪くしてしまったラティエ爺さんは死ぬことにした。
すみ 「犯罪の後で」は朝読むにはちょっと不快かなって話。「自殺未遂」はちょっと暗いけどユーモラスなお話。この本には爺さん、婆さんがよく出てくるけど、どれにしてもとても愛情深く感じられたな。
<素朴な人々の死>
テュルパン婆さんが病気で寝込んでしまったので、テュルパン爺さんは励ましてやることにした。
<老人の死>
テュルパン婆さんが死んでしまったので、テュルパン爺さんは葬式をあげることにした。
にえ この本のなかでは、この2つが私はダントツに好き。ふたつともテュルパン爺さんの心の中を追っているんだけど、それがもう淡々としてても胸迫ってきて、ジンジンしてしまった。
<来訪者>
神の御子であるあなたが私の家に訪ねてきたら、どうなるか教えましょう。
<降誕>
ジョゼフは妊娠している妻を連れ、私たちの小さな町にやって来たが、泊まるところがなかったので、ルノン爺さんの牛小屋に寝ることにした。
<ジャン・モランタン>
ジャン・モランタンは大変な愛情を込めて家具を所有していたが、残念ながら彼のテーブルの脚は一本折れていた。
すみ 「来訪者」は敬虔なキリスト教徒ならではのお話で、あまりおもしろくはなかったかな。「降誕」はあたたかい気持ちになるけど、最後にピリッとしたものを感じるお話。 「ジャン・モランタン」は性格の悪そうな男がそれなりの運命をたどるというユーモラスなお話。
<ある生涯>
ボネは妻や子供を持つかわりに、何かあっても困らないよう金を貯めることにした。
<やきもち>
薪割り人夫ヴァレの女房リザベットは、ヴァレが浮気をしていると疑っていた。
<ふたりの乞食>
サンテュレルの爺さんと婆さんは町の人に愛される乞食だった。なぜなら二人はとても礼節をわきまえた乞食だったからだ。
にえ このなかだと、「ふたりの乞食」がとても良かった。乞食になっても人としての品を失わないサンテュレルの婆さんにグッときた。
<火口屋の娘>
火口屋が羽振りのよかった頃、修道院で教育を受けた二人の娘は、父が亡くなったあと、ドレスを着た乞食になった。
<囚人の帰宅>
ちょっとした喧嘩から人を殺してしまい、5年間牢獄に入っていたルグランが町に戻ってきた。
<無言>
弟テオフィルの医者に見放された病を治そうと、マダム・フェリシーは祈祷師を訪ねた。祈祷師はマダム・フェリシーに、家に戻るまで口をきいてはいけないと言った。
すみ テュルパン爺さんの話も大好きだったけど、私はこの「囚人の帰宅」も好き。他のみんなが拒んでも、やっぱり親は子を拒まないのね。「火口屋の娘」も切ないリアルさがあった。「無言」はブラックなユーモアのきいたお話。
<お隣同士>
長い間、隣どうしで暮らしていたマルキュイ婆さんとショタール婆さんは、たがいに少しずつ意地悪をしあっていた。
<強情な娘>
授業中に不当な罰を受けたと思ったジュリーは、賞状授与式のための歌の練習で、先生と一緒に歌を教えることを拒否した。
<火あそび>
テーブルの上にマッチ箱があるのを見つけた子供は、外に持ち出してこっそり火をつけてみることにした。
にえ 「お隣同士」は長年にわたって親しくつきあいながらも、どこか憎みあっているようなところもあった二人の老婆が、離れて暮らすことになるとどうなるかって話。 あとの2つは、子供の頃ってそういうものだよなと思いつつ、読んでて胸が苦しくなるようなところもあるお話。子供の描写がうまい人だな。
<子供の悲しみ>
都会の空気にたえられず、ヴィレ小母さんのところに預けられていたマドレーヌは、母が亡くなったことを知った。
<犬の死>
家の中でカービン銃を見つけたポールは、ほんの悪戯のつもりがオリヴィエさんの犬を撃ち殺してしまった。
<ふたりの泥棒>
老人の家に忍びこんだバティストとラパンは、老人を殺して金を探した。
すみ 「子供の悲しみ」はタイトルのまま、子供が悲しむってこんなものだろうなと妙に納得する話。残りの2つは、後味の悪いお話。「ふたりの泥棒」の残酷なユーモアは、個人的にはあまり好きじゃないかな。
<死にぞこない>
棺桶に閉じこめられていたバティストは生きていた。葬式は中止になり、家族は食事をとることにした。
<バターの中の猫>
肉屋のボワイヨーはルグランの家で待たされているあいだに、仔猫をバターの攪乳機のなかに入れてしまった。
<仔犬>
子供が5人もいて部屋を貸してもらえないルーセルと女房は、犬を5匹飼っていると嘘をついて部屋を借りることにした。
にえ 「死にぞこない」は棺桶から人が生き返ったのに妙に家族が淡々としているところがおもしろかった。「バターの中の猫」はちょっと気持ち悪かったかな。
<再会>
8年前に別れてしまった元夫婦が、偶然にも町でばったり出会ってしまった。
<ティエンヌ>
99歳のティエンヌ爺さんは動くのもやっとだが、町中の者が爺さんを愛していた。
<ずるやすみ>
11歳のぼくたち二人は、学校をさぼることにした。
すみ 「再会」はちょっと雰囲気が変って、ちょっとセンチメンタルになっちゃうような情景が淡々と描かれてて良かった。残りの2つはほのぼのとした良いお話。