=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「心は孤独な狩人」 カーソン・マッカラーズ (アメリカ)
<新潮社 文庫本> 【復刊ドットコム】
アメリカ南部の田舎町で、肩を寄せ合って暮らす唖のアントナポーロスとシンガー。やがて、 アントナポーロスが精神に異常をきたし、シンガーの一人暮らしが始まると、シンガーを自分の好むタイプ にあてはめて、話を聞いてもらおうとする人々が集まりだした。音楽家をめざす少女ミック、共産主義に目 ざめかけた酔っぱらい男ジェイク、黒人の地位の向上を願う黒人のコープランド医師、パブを営む感受性の 鋭い男ビフ。だが、シンガーを理解しようとするものはなく、シンガーの心は常にアントナポーロスの上にあった。 ※何度も翻訳された作品です。私たちは古い全集に収められたものを読みましたが、多少なりとも手に 入りやすいものを、となかでも一番最近出版された新潮社の文庫本で表示しました。登場人物の名前等、 若干の違いはあるかもしれません。 | |
とうとうマッカラーズの長編もこれで最後だね。 | |
でも、私たちにとっては最後でも、マッカラーズにとっては、これが最初の長編だったのよね。 | |
一番最後の作品『針のない時計』を読んだあとだから、どう しても完成度はちょっと劣るかな、って気はしたね。 | |
うん、全体的なまとまりとか、ラストへの持って行き方とかを 考えるとか、人物設定のバラエティーさとかを単純に測れば、劣るのかもしれない。 | |
でも、そのぶん伝わってくる熱が高いっていうか、こっちに 押してくる力の凄さがあった。 | |
マッカラーズの全部が含まれてたしね。登場人物にしても、 ミックは『夏の黄昏(結婚式のメンバー)』のフランキーに共通するものが多かったし、ジェイクは『木 石雲』の酔っぱらいに似て、しゃべりまくってるし、他もみんな、このあとの作品に出てくる登場人物とど こか似かよっていて、会ったことのある人々って感じた。 | |
うん、そうだね、全部の作品の登場人物の原型が、す べてこの本のなかにあるみたいだった。 | |
それに、独特の孤独感とか、うまく溶けあえない人間関係と か、そういうマッカラーズらしさも濃厚だったしね。 | |
私にとっては、特にコープランド医師って存在が大きかったな。 | |
黒人が召使いとかの立場に甘んじないで、もっとエリート階級 を目指していくべきだって考えてるのよね。 | |
で、子供たちにもそれを期待して、厳しく接してきたんだけど、 厳しいだけで心が通じなかった。その結果、コープランド医師だけが高い階級の白人と同じきちんとした言 葉を使い、子供たちは「おら、〜しただ」みたいな奴隷階級時代のような言葉を使ってるの。 | |
親子が逆ならありがちだけど、親がエリート意識が高いのに、 子供たちが積極的に召使いのような仕事をしてるって、ものすごく違和感があるよね。 | |
それだけに、コープランド医師の嘆きや孤独感がヒシヒシ伝わっ てくるし、その娘のポーシャの正しさも痛みになって伝わるようだった。 | |
私はやっぱりシンガーについていろいろ考えちゃったな。 みんなシンガーを敬愛してるけど、シンガーのことを知ろうとはしてないでしょ。シンガーも、アントナポ ーロスの存在を心の支えにしているけど、自分の話を聞いてもらいたいだけみたいで。 | |
みんな結局、自分の話がしたいだけで、人の話なんて聞きたく ないのよね。 | |
そういうエゴイスティックな行動って、ふだんから気づかず にやってるけど、あらためて他人の姿で見せつけられると、痛いな〜。 | |
ビフだけは、みんなを理解しようとしているよね。 | |
でも、逆にやさしくて、感受性の豊かな人だから、必要以上に 人の心に立ち入れないのよね。 | |
だから、人と深く結びつくことができなくて、結局は孤独なのね。 | |
それにしても、それぞれの孤独感がズシッと重い作品だったよ ね。『針のない時計』を重いかも、と紹介したけど、今にして思えば、あっちはまだ軽いかも(笑) | |
あっちはかなりイビツな人たちだから、まだ達観できたけど、 こっちの登場人物はリアルで、自分たちに近いところにいるから、かえって重く感じるのかもね。 | |
でも、この作品、「アメリカ人が選ぶ未来に残したい20世紀の アメリカ文学100」の17位だっけ。アメリカには、他にどれだけ有名な作家、有名な小説があるかと考えれば、 やっぱりこれは類を見ない傑作のひとつ。 | |
とにかく、マッカラーズが、そして孤独感がぎっしり詰まってたよね。噛みしめて読むべし。 | |