すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「心は孤独な狩人」 カーソン・マッカラーズ (アメリカ)  <新潮社 文庫本> 【復刊ドットコム】
アメリカ南部の田舎町で、肩を寄せ合って暮らす唖のアントナポーロスとシンガー。やがて、 アントナポーロスが精神に異常をきたし、シンガーの一人暮らしが始まると、シンガーを自分の好むタイプ にあてはめて、話を聞いてもらおうとする人々が集まりだした。音楽家をめざす少女ミック、共産主義に目 ざめかけた酔っぱらい男ジェイク、黒人の地位の向上を願う黒人のコープランド医師、パブを営む感受性の 鋭い男ビフ。だが、シンガーを理解しようとするものはなく、シンガーの心は常にアントナポーロスの上にあった。
※何度も翻訳された作品です。私たちは古い全集に収められたものを読みましたが、多少なりとも手に 入りやすいものを、となかでも一番最近出版された新潮社の文庫本で表示しました。登場人物の名前等、 若干の違いはあるかもしれません。
にえ とうとうマッカラーズの長編もこれで最後だね。
すみ でも、私たちにとっては最後でも、マッカラーズにとっては、これが最初の長編だったのよね。
にえ 一番最後の作品『針のない時計』を読んだあとだから、どう しても完成度はちょっと劣るかな、って気はしたね。
すみ うん、全体的なまとまりとか、ラストへの持って行き方とかを 考えるとか、人物設定のバラエティーさとかを単純に測れば、劣るのかもしれない。
にえ でも、そのぶん伝わってくる熱が高いっていうか、こっちに 押してくる力の凄さがあった。
すみ マッカラーズの全部が含まれてたしね。登場人物にしても、 ミックは『夏の黄昏(結婚式のメンバー)』のフランキーに共通するものが多かったし、ジェイクは『木 石雲』の酔っぱらいに似て、しゃべりまくってるし、他もみんな、このあとの作品に出てくる登場人物とど こか似かよっていて、会ったことのある人々って感じた。
にえ うん、そうだね、全部の作品の登場人物の原型が、す べてこの本のなかにあるみたいだった。
すみ それに、独特の孤独感とか、うまく溶けあえない人間関係と か、そういうマッカラーズらしさも濃厚だったしね。
にえ 私にとっては、特にコープランド医師って存在が大きかったな。
すみ 黒人が召使いとかの立場に甘んじないで、もっとエリート階級 を目指していくべきだって考えてるのよね。
にえ で、子供たちにもそれを期待して、厳しく接してきたんだけど、 厳しいだけで心が通じなかった。その結果、コープランド医師だけが高い階級の白人と同じきちんとした言 葉を使い、子供たちは「おら、〜しただ」みたいな奴隷階級時代のような言葉を使ってるの。
すみ 親子が逆ならありがちだけど、親がエリート意識が高いのに、 子供たちが積極的に召使いのような仕事をしてるって、ものすごく違和感があるよね。
にえ それだけに、コープランド医師の嘆きや孤独感がヒシヒシ伝わっ てくるし、その娘のポーシャの正しさも痛みになって伝わるようだった。
すみ 私はやっぱりシンガーについていろいろ考えちゃったな。 みんなシンガーを敬愛してるけど、シンガーのことを知ろうとはしてないでしょ。シンガーも、アントナポ ーロスの存在を心の支えにしているけど、自分の話を聞いてもらいたいだけみたいで。
にえ みんな結局、自分の話がしたいだけで、人の話なんて聞きたく ないのよね。
すみ そういうエゴイスティックな行動って、ふだんから気づかず にやってるけど、あらためて他人の姿で見せつけられると、痛いな〜。
にえ ビフだけは、みんなを理解しようとしているよね。
すみ でも、逆にやさしくて、感受性の豊かな人だから、必要以上に 人の心に立ち入れないのよね。
にえ だから、人と深く結びつくことができなくて、結局は孤独なのね。
すみ それにしても、それぞれの孤独感がズシッと重い作品だったよ ね。『針のない時計』を重いかも、と紹介したけど、今にして思えば、あっちはまだ軽いかも(笑)
にえ あっちはかなりイビツな人たちだから、まだ達観できたけど、 こっちの登場人物はリアルで、自分たちに近いところにいるから、かえって重く感じるのかもね。
すみ でも、この作品、「アメリカ人が選ぶ未来に残したい20世紀の アメリカ文学100」の17位だっけ。アメリカには、他にどれだけ有名な作家、有名な小説があるかと考えれば、 やっぱりこれは類を見ない傑作のひとつ。
にえ とにかく、マッカラーズが、そして孤独感がぎっしり詰まってたよね。噛みしめて読むべし。